ブラック&ブラック
捜索を開始する。
早足で歩いて、最初は本棚の中を物色してみた。ゴソゴソと泥棒のようにやる。本棚の物色が終わったら、床を外してみたり、台所にある引き出しを開けてみたり、高級そうな壷を壊すこともやった。他にも色々なことをやった。しかし、芳しい成果はナシ。エリアさんはどうなのだろう?
わたしは首を向けて、声を張り上げて聞いてみる。
「エリアさん、そちらは何か見つかりました!?」
「いえ、なにも……、雪乃さんはなにか見つかりました?」
「残念ながら、わたしも何も見つけられていません」
「ここにはないのですかね?」
「う~ん、わからないですけど、階段があるので、念のため2階のほうも探してみましょう」
階段は台所のとなりにあった。木の腐った臭いがしている。踏むと軋むような音がなかったが、上らないと先に進めないので、わたしはおっかなびっくりの体で前へ進んだ。手すりには常に掴んでいた。ややあって階段を上りきると、2階は、寝室だけしかないようであった。
主な家財道具がベッドしか見当たらない。大きさは2人が悠々と寝れるほど。天井には照明が付いていた。他にあるものといったら、姿見と、古めかしい時計ぐらいのものだろう。
部屋の広さは、安い宿の一室ぐらいだろうか? 寝るためだけに使うのならば、必要以上に大きい気がする。
エリアさんはわたしの横にいた。
「ね、ねぇ雪乃さん」
「どうしました?」
「あ、あちらを見てください」
震え、エリアさんの白い指がある場所を示していた。わたしはそちらへ視線を向ける。さきほど見たベッドがあった。ただ、ベッドの上に乗った毛布が、まるでそこに人がいるように、ふっくらと膨らんでいる。
最初みたときに気付かなかったのは、バタバタと急いでいたからだと思う。それにしても、ベッドが膨らんでいるということは、誰か人が潜んでいるのだろうか。エリアさんは怯えたように震えているのだが、わたしも怖くなってしまうからやめて欲しい。
「み、見ましたか、雪乃さん?」
「ま、まあ、見ました」
どうしてだろう、わたしの声も心なしか震えていた。
「なにが潜んでいるのだと思います?」とエリアさん。
わたしは自分へ言い聞かせるように応える。
「常識的に考えるのならば、違う毛布が詰まっているとか、たくさんの枕が詰まってるとかじゃないですか? あ、他には、数え切れないほどのお菓子が積んであるとか」
「けど、人がいるとか、なにかアレなものがいる可能性などもあるのですよね?」
「ま、まあ、そうですけど……」
なんでこの人は、わたしが場を和まそうとしているのに、わざわざ怖いことを言うのだ。やっぱり頭がおかしいのでは? わたしは恨みがましい視線を、エリアさんに気づかれぬように、こっそりと送っておいた。
「雪乃さん」
「はい?」とわたしは返事をする。
「まことに申し上げづらいのですが、わたしの視界にベッドが写らないように立って、パパッとあの毛布をめくってください」
「い、いやですよ」
と声を出しながら、わたしは心の中で思っていた。このおかしなエリアさんには、思いやりの心というものがないのか! そして、考えが自己中心的すぎる!
わたしは、ベッドから目を逸らして言ってやった。
「エリアさんがやってくださいよ。わたしの視界には、このベッドが写っていてもいいんで。あとわたしが後方にいれば、すぐに、サポートをしてあげることだってできます。場合によっては、悲鳴を上げながら逃げますけど……」
最後の方は声を小さくしたので、「逃げる」という言葉はエリアさんに聞こえていなかったはずだ。
「いやいや、わたしは絶対にやりませんよ!」
エリアさんは、もはや悲しくなるほどに、明確な拒絶の意を示していた。ただわたしも、毛布をめくりたくないのは同じだ。この戦い、譲るわけにはいかない。とは言うものの、このまま押問答をしていれば、無駄に時間が過ぎていくのもまた事実。ここは1つ手を打つことにしよう。
「わかりました、じゃあしょうがないです」とわたしは言った。「しょうがないので、ここは堂々と、真剣に、ジャンケン勝負でいきましょう。文句はないですよね?」
「は、はぁ……」とエリアさんは不承不承うなづいた。「わかりました。しょうがないですね、ジャンケンと言われれば、断るわけにもいきません。ここは運を天に任せましょう」
やった、これで、長かった勝負に決着を付けることができる。わたしは心の内でガッツポーズを作り、自分のてのひらを透かし見た。
「それじゃあ、いきますよ、準備はいいですか?」
わたしの準備はもう万端だ。
「はい、わたしの準備はオッケーです。では、掛け声をお願いします」
「了解です」
とわたしは、いちど深く深呼吸をして、
「最初はグー! ジャンケンポン!」
――その瞬間、エリアさんの後方に、黒い影が出現するのをわたしは見た。




