スカティッシュの村
やっとスカティッシュの村へ着いた頃には、日が西へ傾きはじめ、辺りは暗くなっていこうとしていた。
「ふう、やっと着きましたね」とわたし。「けど、なんか様子がおかしくないですか? いつもこんな風じゃあ……ない、ですよね?」
「はい、明らかに様子がおかしいです」
そう、わたしたちはスカティッシュの村に入ったのだけれど、明らかに様子がおかしいのだ。エリアさんからは良い村だと聞いていたのに、わたしがいま見た限りでは、廃棄されたムラ同然としか思えなかった。人っ子一人みあたらないのだ。木製の家はところどころが朽ちているし、川は砂漠のように枯れている。木々も枯れていた。よどんだ空気は鉄錆びの臭いを想起させ、地面はヒビが入るように割れていた。朽ちた旗があり水車もあった。
わたしが腰をかがめ、溜まっていた水に手を触れようとすると、
「触ってはいけません!」
空気を震わすような声が響いた。エリアさんの声。この人に、そんな声が出せるとは思ってもみなかった。わたしはスッと手を引っ込める。
「多分その水は、呪水という呪われた水です! 触ったら、身体によくないことが起こりますよ! 触らないことをお勧めします!」
「知ってますよ」
「え?」
わたしの思わぬ返答に、エリアさんは素っ頓狂な声をあげた。
わたしは続ける。
「世界各国で発見されている呪水は、未だに、どこから湧き出しているのか掴めていない。触ればその瞬間に毒が全身を回り、吐き気、頭痛などのあとに、気絶するような痛みが身体全体をおそい、6時間以内に死亡する。ただ、白の聖水を飲めさえすれば、全身に回った毒も消え、命をながらえる事ができる」
わたしは一息のうちに喋りきった。喉は当たり前のように疲れたけれど、こうやって自分の知識を披露するのは楽しい。自分が知識人のように思えてくる。そして相手に、この人は頭が良いと思わせることもでき、一石二鳥とはこのことだろうか。ただ、大抵の場合ウザがられることも私は知っている。
エリアさんは真剣な顔つきをした。
「ではなぜ、そこまで知っていて、あの呪われた水に触ろうとしたのですか?」
「簡単なことですよ」とわたしはドヤ顔で言う。「わたしが手に嵌めているこの手袋は、全ての毒物を受付けないんです」
「ああ、なるほど……」
と、エリアさんが感心したように言って、わたしは呪水に手を触れてみせた。少量すくってみる。だがわたしには、一片たりとも害はない。手袋の名はシュンペルザハンド。宝物級の手袋だ。ある王国の窮地を救ったときに、そこの王様から頂いた。と、エリアさんが、目を輝かせて説明を求めてきたので、わたしはそこまで解説した。もちろんドヤ顔になることは忘れずに。
「とまあ、こんなことはいいんですよ」
そうだ。いまはわたしの手袋を説明しているときではない。
それよりも、とわたしは前置きをして、
「なんでスカティッシュの村が、こんなことになってしまったのか、一緒に考えましょう。ひとえに、呪水せいとも思えませんし」
「そうですね」とエリアさんは、同意を示すようにうなづいた。「呪水のせいだけなら、死体があるはずですし、でもなぜかここには、死体というものが1つもありません。そしてわたしは、もうここで商売できないと考えると悲しくなります……」
「不謹慎なこと言わないでください」
「すみません……」
「わかればいいです。じゃあますは、どうしますか?」
1人で考えあぐねたわたしは、周囲に気を配りながら、エリアさんに向かって助言を求める。
「そうですね、とりあえず、村長の家にでも向かってみればどうでしょう。なにか良い手がかりが掴めるかもしれません。私が案内しますよ」
「お願いします」
村長の家は、歩いて5分後ぐらいのところ、村の入り口から200メートルほど離れた場所にあった。ノックをしても返事はない。予想していたことだが、やはり中に人はいないようだ。仕方がないのでドアを蹴り破ると、わたしはエリアさんと一緒に中へ入った。「お邪魔しま~す」と挨拶することは忘れない。
室内は暗かった。ホコリくさい感じもする。わたしが掌に炎も灯すと、家の中は薄ボンヤリと明るくなり、その全容があらわになった。
テーブルがありイスがある。食器棚からは、乱雑にお皿が落ちていて、床でバラバラに割れていた。踏んでみると粉々に砕ける。天井からは照明器具が吊るされているが、電源を入れてもつく様子はない。
右側のほうには台所がある。包丁が吊るされていて、錆びた流し台があり、白いまな板が置かれていた。
わたしはエリアさんに話しかけ、まずはこの部屋を探索する、ということを、話し合いで取り決めた。




