タチバナ
次に投稿する予定の『蝶』という話のネタばれに近い話です。
その甘い香りは一体何だろうか?
ふらふらと匂いにつられてみれば小さな実を成す木があった。
その周りには蝶がひらひらと飛んでいる。
見た事もない紅い蝶に私は目を奪われる。
実の皮をむき、一口齧る。
とても酸っぱく、そのまま食べる物とは思えない。
蝶がひらひらと私の周りを舞い踊る。
一体なんだと言うのだろう?
紅い蝶がひらひらひらひらと飛びまわる。
そうして私の視界はぐるりと変わる。
私は黄昏の浜辺に立っていた。
急な出来事に私は驚く。その一方で何故か安堵もしていた。
ふと、私の首に蝶がとまった。
誰かの手に包みこまれるような温もりを感じた。
「さあ、マレビトよ。参りましょう」
私は声に導かれるように浜辺にある小船へ乗り込む。
ああ、私は二度と帰る事がないのだろうなと、悟った。
私は船に揺られながら、甘い香りに身を任せていた。