8話 野宿でやっほー?
「どこに行くの?」
喫茶店を出た俺達は、直ぐに表の通りに出ることにした。馴れ馴れしく敬悟を省くようになったのは、認めてくれたからなのだと思う。
まだ目元にはうっすらと泣き後が滲み出ているが、ハキハキと話していることからもう悲しい涙は止んでいたようだ。
お陰で横を通る人たちには鋭く睨まれていたのだが、隣で微笑みが見えると文句は言う気にならなかった。
「正直な話し。この街には詳しくないんだよな。だから、引率してくれればありがたいんだけど」
この町に来たのは何十分か前の話だ。この街のことなど何一つ知らない。どこに向かうなんて、自分でさえ最も分からない一つだった。
「全然?」
「全然な気がする」
何も分からない俺には、上を向いてあれが空です。としか言えない。それがこの町の知識の限界値である。それを彼女に言ったら、何か言った? と真顔で返されたのは言うまでもないだろう。
「なら、最初はアイテムでも売りに行こう」
「アイテムって売れるんだな」
多分手に入れたアイテムだと勝手に解釈してみた。
「うん。手元に入ってきた要らないアイテムは売った方がいいよ。邪魔になるだけだし。ついでに高価なものだと結構な額が入るみたいだしね」
何となくな予想は当たっていたようだ。要するに、あの時に倒したボスの要らない部位を売れば金が手に入るということなのだろう。
早速俺達は金を目当てに歩き出すことにした。目的地は物々換金所という施設らしい。唯という少女はそれほど金に執着していないようだったが、内心では金だ! とでも思っているに違いない。妄想で無ければの話だけど。
ゆっくりと歩いてみると分かるが、商店街のように店が多いみたいだ。それに青い服を着たどこかの生徒以外にも、この世界の住人らしき人も住んでいるようで、酒屋がにぎわいを見せていた。
そうこうしているといつの間にか目的地に着いている事に気が付いた。
彼女が言うには、何度呼んでも聞こえていなかった。らしい。無意識に周りの景色に没頭していたのを改めて感じた。その時バカだのアホだの言われたが気にはしない。子供の戯れなようなものと考えてしまえば、たかがその程度ですかと思えてしまったからだ。
見た目通りの幼児体型は、伊達ではなかった。
「もういい! ここが物々換金所だよ」
ある程度の罵倒が終わると彼女は無反応な俺を見て、恥ずかしく思ったようにサッと顔を逸らした。
顔が赤くなっている事で間違いはないはずだ。
「恥ずかしいならやらなくていいのに」
呆れたようにため息を吐いて言ってみる。
「あなたが無反応なのが悪いんだよ」
彼女は気だるさと苛立ちが混ざったような声色で返した。無反応を続けず、反論していればまた状況は変わっていたかもしれない。それでも何故か後悔は無く、寧ろ俺は清々してさえいたのだった。
代わりに住人の評価はかなり下がった気がする。幼児虐待。その言葉を今にも肩を叩いて言われそうだ。
彼女はそんな事実を知らず、普通に疑問を投げかけた。
「今更だけど、そう言えば名前は?」
一瞬意味が分からなかった。
「あるけど?」
今の状況に本当にいきなりすぎる質問に、真也は迷ったあげくにそう答えたのだ。
「そうじゃなくて、あなたの名前が知りたいの」
アホな回答をしていた自分に、彼女は真剣に言った。今日から何日かは分からないが、共に居るんだ。確かに名前は知っておいて損はない。
納得すると、ぎこちない笑みで手を差し出す。
「コホン。えっと、多広 真也だ。よ、よろしく」
今思えば、自己紹介なんて何年ぶりだっただろう。高1の時に無理矢理させられたのを除くと、大体5年はしていなかった気がする。そんなことに懐かしく感じてしまっていた。
「多広真也くんだね。よろしく」
差し出していた手を普通に彼女は掴んで挨拶をした。手から手へと繋ぐぬくもりが、体を火照らせた。これでも女子であったことを忘れていたのだ。苦手な訳ではないが、少し不得意ではあった。
「こっちも名乗ったんだから、そっちも言ってくれ」
恥ずかしいさを紛らわせるために、ツンとした口調で言ってしまった。後になって悔いたのは言うまでもないだろう。
この間約5秒。手はずっと繋ぎっぱなしだった。
「そうだよね。私の名前は、河瀬 唯です。呼び方は唯でいいよ多広君」
幼女体型な少女が友達が増えたことに喜んでウインクをした。サッと手を離した。これは反射だったとこの時の本人は語る。
「じゃあ、自己紹介も終わったことだし。早く入るか河瀬」
「唯だけど……、まあそうだね。入ってアイテム売ってから、早くレベル上げしにいこう」
「ああ、そうしよう」
話が終わると店の中に入る。カランコロンとドアの上に吊されていたベルが鳴ると、その音に気付いた店員が駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件で?」
マッハとも言える早さで来た店員が営業スマイルを駆使し、接客に入った。バイトをしたことのない俺にはこの接客の善し悪しは分からなかったが、長く此処で勤めているのは風貌で感じ取る事は出来た。
「あ、私たちはアイテムを売りに来たんですけど、大丈夫ですか」
俺が店員を凝視していると彼女も忘れていたように急いで応答する。
一瞬戸惑っていた店員も返答が返ってくると、優しく微笑みながらこちらですと招いた。
「こちらが、アイテムの価格を計るための機械です。ここの相場は、今全層で売られたアイテムの数で変動します。売られる際には、そこは十分に確認されてからなさって下さい。では、また何かありましたらお呼び下さい」
一通りの説明を終えると店員は次のお客の元へと走っていった。この店は一人で経営をしているようだ。さっきの店員が一瞬の内に何度も縦横無尽に駆け巡っていることからそれは伺えた。
「なんかハイテクだな。この機械」
「そうかな。何回も行ったり来たりしてたから見慣れて今となっては普通にみえちゃうかな」
彼女は平然とした口調でそう述べたが、俺にはそんな余裕は無かった。
異世界の洞窟で一日を送っていた俺には新鮮だったからだ。形を表すならコンビニなどにあるATMと言った具合なものだ。それでも、すこしハイテクに見えるのは、その機械自体が宙に浮いていることからなのかもしれない。
ATMに似てはいるが、使い方は異なっている。カードを機械の中に入れるのがATMなのだが、この機械にはそんなカードの挿入口はなかった。
代わりに画面の下にパスをセットする枠を見つけた。試しに置いてみると、光りの点いていなかった画面にパスのアイテム覧が表示される。
そこで幾つかの違いに気が付いた。パスには搭載されていないはずの文字が表示されていたのだ。
『conversion』日本語で換金と言う意味だそうだ。隣の河瀬は結構頭が良かったと初めて知った。バカではなかったらしい。
「なにか言った?」
「いえ、何もいってません」
河瀬は相手の思考を読めるのかもしれないな。……冗談であって欲しいものだ。
そんな彼女も、もう換金に入っていた。隣でチャリンチャリンと効果音が流れる。その音が真相を物語っていたからだ。仕様なのだと俺は思った。
「とりあえず。アイテムの額を確認しますかな」
一度誤って取ってしまったパスをもう一度はめると、直ぐに画面が立体的に表れる。思いの外早く出現したそれに少し驚いた。
リザードの皮 250000 ×5
リザードの肉 240000 ×6
リザードの体液 560000 ×2
リザードの角 730000 ×2
リザード鱗 160000 ×7
リザードの大剣 2680000 ×1
「はい?」
驚きの声が思わず出てしまった。
「どうかしたの?」
もう換金の終わっていた河瀬に、腑抜けたような声が聞こえてしまったようだ。気になったのか、そう言うと画面に顔を近づけた。
「いや、大丈夫大丈夫。ただ、ハイテクすぎる技術力に声が漏れただけだから」
小さな体で本当に良かった。なんとか画面の前に立つことで河瀬の視界にあのとんでもない数字の画面は見えていなかった。俺の必死な説得の末に彼女は渋々と納得して離れてくれた。
それにしても、額がやばすぎませんか。いきなり宝くじに当たった気持ちなんですけど! 周りが全員敵に見えてしまう。他人のパスはいじれないらしいが、それでも危機感は拭い去れない。いっそのこと早めに売っておきたいのだけど、もしかするとこのアイテムは結構なレアもので持って置いた方が良い可能性もある。
釈然としない緊張感が俺を悩ませていた。
結局長いこと悩むと、何も売らずに店を出てしまった。河瀬にはどのくらい入った? などと聞かれて、質問をあやふやにする事でなんとか誤魔化すことが出来た。これはアホがパートナーだったからこそ成功したのだ。普通の人なら、途中ではぐらかされることなどないのだから。
以外とテンションが高かった河瀬は高く売れたのだろう。と想像を膨らませることだけにした。2度も危険は踏みたくはなかったのだ。
「よ~し。次はモンスター狩りだね。頑張るぞー」
と張り切ってくれるお陰で話題はドンドンと離れていく。
それと共に、町はずれの草原という初期ステージへと向かうことにしたのだった。そこには河瀬のお気に入りの狩り場があるらしく、そこを目的地にしたいらしい。10分もあれば着くと河瀬は言う。
「はぁ!!」
左手に持つ細剣を河瀬は横一線に薙払う。しかし、目の前を横切る何かに掠ることなく草原の草を何本か切り落とすだけに終わってしまった。河瀬の息は上がり、頬のかすり傷から赤い血が流れる。口の横を流れたそれは顎をつたって落ちると、生い茂る雑草の一角に赤い斑点をつくった。
「がんばれ。サポートは必要か?」
予め河瀬の実力を知るためと言って草原の中央に来ると、俺は敵を目の前にして下がった。戦っているのは、ご存じの通り河瀬だけだ。
「ううん。手を借りたら実力の証明にならないじゃん。だからいらない」
さっき横切った小さな猿型のモンスターの攻撃を凌ぎながらもそう答える。早い動きを見せる複数の敵を参考に、河瀬は俺から見ると運動神経は悪いけど胴体視力は些かある方に思えた。戦いながら話を出来るんだから、大したものだ。
人を観察はすれど、真也本人は動く気はないらしい。見守るだけのようだ。
「そっか。ならがんばれよ」
「うん。やばかったらその時は助けてね」
「はいはい。わかったから早く倒してくれ」
でないと俺が怖いんだ。あの爪にだけは引っ掻かれたくないモノだな。
女子に任せることに自分の中ではいたたまれなくなるが、生死を賭けた状況なんだ。それどころではない。女子でも使える駒は使う。これが俺の生き方だ。
「よし。最後の一匹も討伐完了。これで後一体でレベルが上がる」
草原に吹く風が草原の草を揺らした。河瀬の周りには、風で割かれた草の脇目で小さな猿型のモンスターの死骸が無惨な姿で放置されていた。少し興味本位で見ていると、モンスターの死骸が電磁の砂嵐のようにして消える。3体のモンスターの死骸が消えると、河瀬はそう言ったのだ。
「今のは経験値どのくらい入るんだ?」
倒されたことで安心した俺は、先ほどまで戦闘をしていたエリアに踏み入った。
「多分一体につき27くらいかな」
河瀬はパスをもう一度開き、最初の経験値総数と比べるようにして言った。どちらもレベルを明かしていない状況に彼女の中の27とは大きいのか分からない。勿論俺は言うつもりはない。なんせ今の全体平均がどれくらいか把握していないんだ当然だろう。
「そう言えばお気に入りの狩り場ってどこだったんだ?」
此処はそのお気に入りの狩り場ではない。俺が偶々敵を見つけて腕試しと言って止めた単なる草原だ。本当ならもう少し歩いて先へ進んでだろう。
「えっと、ここだったりして」
前言撤回だ。まさかの此処であったらしい。狩り場と言うからには、隠れスポットか何かだと思っていたのだが、違ったようだ。周りを見渡してもどう見てもただの草原。ここから1㎞は歩けば何やら森が見えるが、此処はその手前だ。現れる敵もほぼ猿の群ればかり。周りでも何人かが狩りをしている。彼女の狩り場とはどういう意味なのか。
「なんで此処が狩り場なんだ? 一応聞いてやる」
「此処に出る敵が一気に複数ポップしてるし。周りもいっぱい此処で狩ってるから」
おどおどした風に河瀬は答える。
「なるほどな。他にはこういった場所は無いのか?」
「うん。複数の数が一気に出るのはここと、3層のラビットナイツしかいないってきいてる」
「誰から?」
俺の質問に河瀬はパスを開きだした。まさかとは思ったが、そこに映っていたのは掲示板のコメント覧だった。
確かに、1層・3層の中ではこの2種類しか複数ポップはまだないらしい。誰のコメントかは知らないが、返答しているコメント覧にも頷いている人が多いことからそうなのだろう。
「で、あの森にはいないのか? さっきの奴らは」
指を指したのは、この草原から少し進んだ先に見える森。ここよりはレベルが高くなっているのは予想がつく。
「私のレベルじゃあ行けない。それにあそこのステージは香奈達が調べてる最中らしいから、行きたくないの」
香奈とはこの世界の生活を余儀なくされた日にいた友達のことだろう。表情が曇り顔に変わる。
会いたくない訳ではない。会えないのだ。
それでも、こんなところではその香奈ってヤツには追いつけないだろう。それに運良く、ここまで忘れていたが秋隆も見つかるかもしれない。
「それなら、俺だけで行くけどいいか」
かなりの雑魚な俺でもこのステータスなら、死ぬことはないだろう。ボスと戦うことになるなら、あの武器で戦えば何とかなるだろうし。
「それは……いやだ」
ここに来て初めて出来た友達と、離ればなれは避けたいのかもしれない。一回その目に遭っているんだ。また同じ事にはなりたくないに決まっている。
「なら、行こう。危なくなったら助ける。それにその香奈ってヤツに会いそうになったら、一緒に逃げてやるから、な」
「……分かった。絶対だからね。絶対に助けてよ」
ウルっと瞳を潤ませて河瀬は手を力強く握った。振りほどこうと手を引っ張るが抜ける気配がない。POWでは絶対に俺の方が上に違いないのに、ビクともしない。代わりに河瀬がこっちに飛び込んでくる始末となった。離れさせようと肩に手を置くと、僅かに肩の震えが伝わる。どの感情で怯えているのかなんて俺には分からない。でも突き放すことは出来ず、分かった。と耳元で言ってやった。
それから時間は掛かったが河瀬はいつの間にか落ち着いて、元気良く行こう。と言って手を引っ張ったのだった。
「ねぇ、私の記憶が正しければ、さっき守ってくれるって言ったよね」
「ああ、言ったな……」
「なら守ってくれるんだよね。置いていったりしないんだよね?」
「うっ……、も、勿論だろ。置いていくわけないだろ」
「なら……早くこいつらどうにかしてよ!」
小さな体を揺らして彼女はそう言った。
手を引かれて俺が森に入ったのは約15分ほど前だ。森の入り口にはモンスターは一体もいなかった。以外と思ったよりも危険はない。それが入ったときの第一印象だった。
だが俺達2人は今走っている。ほぼ全速力でだ。後ろには数え切れないほどのモンスターの群れ。入る前と比べれば雲泥の差とも思えてしまう。
最初はこんな奴ら撒けると思ったのだが、予想よりもはるかに高いSPDに一向に距離の差が離せれない。
「そんな事言ったって。こっちも必死なんだって」
どこまで走っても森の樹林が立ちふさがるばかりで、出口が見あたらない。
後ろを振り返れば、モンスター、モンスター、モンスター……それらの凶暴なモンスターの群れが走る俺達の後ろを追いかけていた。一口で人間を丸飲みにしてしまいそうな大きな口が、咆哮を放ちながら追いかける。会った瞬間から、迷わずこいつらから逃げた俺達は、ナイス判断だったに違いない。
レベルは平均して一体がLV4くらいだ。俺のレベルならどうってことはない。しかし、単純に臆病な俺には、こいつらに突っ込める程の度胸がなかった。だから逃げているのだ。
それから俺達の逃走は何時間にも及んだ……
◎ ◎ ◎
日が沈む事で夜の静けさが一層引き立ち辺りを包み込でいた。奇妙な風の音が耳鳴りを催す。
いつの間にか辺りにモンスターの群れはいない。見渡す限りの殺風景な森が一面を覆っていた。あの逃げていたときから時間が経ち今は何とかモンスターの群れから逃げ切り、森のどこかで静かに隠れている状況だった。
「こっからどうする?」
休憩を摂るつもりで俺達はそんな暗い森の中の一角で座る。
「ふん!」
「そろそろ怒らず聞いてくれても言い気がするんだけどな」
「ふん!」
さっきからこの繰り返しだ。何度も質問や話を振っても首を横に振って無視する。原因が俺にある以上は怒ることも出来ないのがイタイところだったりする。
「だから、ごめんって。でもあれを倒せるのはレベルが高くないと無理だろ」
「私はそのことを怒ってるんじゃないの」
やっと後ろを向いていた体を俺の方へと戻した。
「じゃあ、どのことに対して怒ってるんだ」
何気なく聞いた俺の今の言葉で河瀬はカッと目を見開いた。
「どう考えても、この足の事以外に無いでしょ!」
「ですよね……」
視線を彼女の顔から下に降ろし足へとやると、くるぶしにある関節が赤く膨れ上がっていた。見ただけでも痛さの程が伝わってくる。
この足の怪我は、ほんの10分前に負ったものだった。隣で一緒に河瀬と併走してモンスターの群れから必死に逃げているとき。俺は体力には自信があった。しかし彼女には体力がそれほど無く、結果的に途中くらいからフラフラになり始めた。そこから数分走っていると突然、体力の限界を迎えた彼女が転けてしまったのだ。だが、その時の俺は逃げることに必死で、転けたことに気が付かなかった。
後ろから助けてー。と声が聞こえて初めて気が付いたのを覚えている。ハッと振り返り助けに行こうと思ったのだがもう彼女はモンスターに追いつめられていてもう手だてが無い状況だった。
だから仕方なく俺は、鼻歌を歌って置いていくことにした。俺と同じ様な境遇の人は間違いなくこの行動を起こしただろう。
そのせいだったのかは分からないが、モンスターは河瀬を素通りして、俺だけを向かって追いかけてきたのだ。それから、モンスター達を河瀬の見えないところで爆弾の餌食にして、戻ってくると……ご立腹になっていたわけだ。
「なんでおいていったの?」
「いや、あれはあいつらを俺に引きつけるために走ったんだ」
「じゃあなんで鼻歌を歌ってたの?」
「敵に俺の存在をアピールしたかったからだ」
自分でも思うが流石に無理がありすぎる、この時に秋隆なら殺す勢いで殴りかかってきているだろう。
だがしかし、相手はアホな河瀬だ。答えは見えている。
「そっか……」
と、思ったのだが案外悩んでいるご様子。
動く気配が全く無くなってきたことで、俺は肩を叩こうと近づこうとした。
そんなときだ。彼女は顔をガバッと倒れてしまうのではないかと言えるほどの、スピードで上げた。顔は以外にもやさしく笑っていた。口がゆっくりと開かれる。
「そういうことなら許す。うん、そんな作戦が練り込まれていたなんて知らなかったよ。教えてくれれば良かったのに」
まさかのあそこまで悩んだ末に騙されるとは思っていなかった。
ここまで心が豊かな人間がいただろうか、否。俺はこいつ以外に見たことがない。ここまでアホだと俺のバカさにも勝っているのではないだろうか、なんて考えてしまう。
「ごめんな。まあ、言ったら信じすぎて、警戒を怠ると思ったからな」
口から出る嘘が止まらない。お陰で罪悪感が膨れ上がる。
「そっか。なら、あのモンスター達は倒したんだよね?」
「ああ! もちろんだとも! あんな奴らは粉々にしてきたさ」
本当の事が言える機会がやってきて口調がおかしくなったが、少し罪悪感が晴れた事で気に留まらなかった。
「そ、そうなんだ」
河瀬はかなり引いていたようだが……
何度も倒した。あいつらを俺は倒してやったさ。はははは。などと真也は一人で言っていると、ある疑問が頭に浮かぶ。
「そう言えば、今日ってここで野宿だよな」
「へ?」
河瀬は口をポカンと開けて固まった。何度も叫んでいた変人の口から、まともな言葉聞こえてきたことでこうなったわけではない。単純に生きていたことに浮かれていたが、結局状況が変わらないことを思い知ったからだ。と思う。
「流石にこの暗闇で街に帰るのは、無理だと思うし」
外は暗闇に支配され、周りには自分より高いレベルのモンスターがいるかもしれないのだから、ここから無闇に動くことは出来ない。
そうなると、朝まで野宿と言うことは当然だった。
「えっと、もしかして2人でだよね」
「何当たり前のこと言ってんだ。俺達2人しかいないんだから、そうなるに決まってるだろ」
俺にも河瀬の考えていることは大体分かっているが、端から見ればこいつは幼女にしか見えない。それに俺には2つ下の妹もいるんだ、慣れている。
「だよね……。じゃあ絶対に近づかないでよ。寝てるときは寝顔も見ないでよ。分かった?」
座っていた河瀬が立ち上がり大きな声でそう言った。立ち上がりざまに、痛みで足を押さえたが頑張って距離を取りだした。恥ずかしいのは分かるが、足の痛みも考えて欲しいものだ。
ここで分からないと言っても結局は寝ざる負えないんだ。質問する意味が無い気がするけど、俺は分かった。と真剣に言ってやることで、安心感を与えた。彼女はその言葉を聞いたはずにも関わらず、寝る場所の周りに線を書き始める。
そこには此処から先は私の寝る場所と、几帳面にも木の棒を探し出し、明確に書いていた。
「もう寝るからね。おやすみ」
書き終わると、案外早く河瀬は移動した位置で寝転がった。
そんな彼女は、あれほど気にして線まで書いていたにも関わらず、わざとらしく咳をして自分の手を線よりも外へ出した。
女心は分からない。でも、この後どうすればいいかは分かった。だからこそ、当然のように俺はその手に自分の手を延ばし、繋いでやることで目を閉じた。すると彼女はクスリと笑って、小さくおやすみと呟いた。
「おやすみ」
俺も彼女に続いてそう言ってから目を閉じる。手から伝わる温もりと強さが増したように感じ、安心して眠れる気がした。
予想よりも早い就寝に寝れるか些か不安だったが、簡単に隣で寝息が聞こえるといつの間にか俺も夢の中に落ちていった。
「やっぱり寝れるわけない!」
と隣で何度も聞こえてきたが夢に入っていた俺には全てが夢に感じたのだった。
真也は寝入る直前に隣がもう少し大人なら良かった。と心から思うと共に瞳が暗闇に落ちていった。
いきなりすぎる展開な気もしたんですけど、早く進ませたい僕の気持ちが先走りしすぎちゃいました。何か改良するところがありましたら、コメントお願いします。