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6話 思わぬ厄介事

 



ある森に鳥の鳴き声と共に太陽の光りがそそぎ込まれようとしていた。

 日の出と言うことも相まって湖に半分だけ出た太陽の光が反射して見える。しかし明るいのは森と湖だけで、所々は暗さを保っていた。

 その一つが湖の奥にある洞窟である。

森全体で見ても暗さが増し一段と深く思えた。そんな暗い洞窟の奥深くで何度も復唱する声が、洞窟の壁を伝って聞こえていた。


「……で……ざいます」

 洞窟を入った先に大きな扉が待ち構えている。その中の円形の広い部屋に一人の男が意識なく倒れ込んでいる。

倒れ方は無惨にも壁に叩きつかれているような異様な姿勢だった。来ている防具もボロボロにはだけ、周囲の壁は無惨に大きく陥没していた。それこそまさしく、何とか生きながらえた真也の姿だった。




「……ボス討伐おめでとうございます」

 深く眠りについていることから、熟睡しているのだろう。辺りで流れるアナウンスにも起きる気配がない。それでもアナウンスはやまない。なんども同じ事を繰り返し、真也が起きるのを待っているようだった。その後10数回繰り返されたアナウンスに流石にうなされるようにして目を覚ました。




「ふぅぁ~。よく寝た」

 大きく欠伸をすると体が重たかったのか、傷みに耐えながらゆっくりと立ち上がった。その拍子にポケットの奥に入れておいたはずのパスがぽろりと落ちる。

 立ち上がってパスの落ちたことに気づき、パスを拾おうと手を降ろした。


向きが表で良かった。手元に持ってきた時、ステータスを開くためのボタンが光っている事に気が付いたからだ。裏なら気づかずポケットにしまっていただろう。

 

 同時に俺はすかさずボタンに手を伸ばす。



「ボス討伐おめでとうございます。これより、ボスの恩恵を授けたいと思うので中央まで来てください」

パスのボタンに手を触れようとした瞬間に、先ほどから流れ続けていた奇妙なアナウンスの声によって中断を強いられた。パスも気にはなったが、アナウンスに従って中央まで歩いていくことにした。

 中央手前に着いたことで新たなアナウンスが流れる。



「おめでとうござます。あなた様は裏ボス 爬虫王リザードを撃破しました。よって、裏ボスの恩恵に従い。この首飾りを贈ります。初めてのボス討伐のようなので、帰還用ポータルを1層の街に設定します。帰還時にはこの上に乗って下さい。討伐おめでとうございました。ボス撲滅を心より応援しております」

 発生源のわからない声が、中央手前まで来ると大きくなったように感じた。それでもどこからその声が来ているのかなどは分からない。


 無情にもそれから少し待っても話はそれで終わったらしく、数十秒間の沈黙が続いた。


 そんな沈黙を破ったのは光り出すパスの輝きと、脳内に響き渡る奇怪なリズムの音だった。拾い上げたときの光りはステータス画面用のボタン。今光っているのは、裏面にあるアイテム覧に繋がるボタン。パスは両面に輝きを帯びているような錯覚を思わせたのだ。手始めに裏にあるボタンを押すことにした。

 見慣れてしまった画面の現れる様にもはや驚くことはしない。だが、いつ見ても作り上げられている時はキレイだと思ってしまう自分が居た。




「ん? なんだこれ」

 造り出された画面を見て俺は絶句した。普通ならアイテム覧に表示された形式はポーションAを使い果たし、初期装備も装備したはずなのだから、殆ど空のはずだった。だが、何故か最初よりも多くなっていた。20あるはずの枠は残り12枠となっており。


 左から、

 初期ポーションB(100)

 リーザドの皮(5)

 リザードの肉(6)

 リザードの体液(2)

 リザードの角(2)

 リーザドの大剣(1)

 リザードの首飾り(1)

 リザードの鱗(7)

 

 とリザードづくしへと変わっていたのだ。ゲームで言うところのドロップ品であろう物がぎっしりと埋まっている。これを見るとあのボスに角があったのが驚きだ。


 俺は驚きながらも一つずつアイテムを確認していく。

 リーザドの皮、体液、肉、角、鱗の説明は火に弱く、加工しにくいなどと殆ど同じだった。それに比べてリザードの大剣はレア度Aのかなりレアな武器だった。熱にも強く、頑丈と書いてあったことからリザードの弱点をカバーするための武器だったのだと言うことが分かる。ただ大きさが大きさであるからして装備することは無いだろう。

 最後にリザードの首飾りだが、説明はこうだ。

 

 初めて裏ボスを撃破した方にのみ贈られる首飾り。

 付けて直ぐにステータスに変化は表れないが、何かが秘められている。これを装備している者には獲得するPOWとDEFにプラスの補正が付く。危機を感じるとなにかが……。と、ここで文章は終わっている。

最後の方が気にはなるが、その時にならないと発動しないなら仕方がないと諦めた。



「しょうがない。一応首の装備は空いてるし装備しておくか」

 ぶっきらぼうに言ってはいるが、内心では良い装備を初めて手に入れたことでテンションが上がっていた。敢えて顔には出さなかったーーいや、顔には出ているか。

 

 装備ボタンを押すことで重みと共にそれは現れ出た。装備しただけでやはり何も変わった気はしない。



 アイテム覧をその後もくまなく見たが、他には何も発見できず、さっきの音は恩恵のアイテムを手に入れた事で鳴ったと解釈することにした。もう一度ボタンを押す事で画面を素早く消す。

 その流れで表側のステータス画面のボタンも押してみる。流れ作業に行った動きでステータス画面は早くも俺の目の前に表示されたようだ。


 画面が現れて直ぐ。パスのボタンを押すことで二回目のアナウンスが脳内を駆けめぐった。レベルが上がったことを報告するような言葉からその声は話し出した。今思うと、さっきから聞いている声は全て同じに思えた。


「レベルが上がりました。ジョブを手に入れました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がり…………」

 聞こえてくると表現して良いのか分からないが、聞こえてくる声が狂ったようにレベルの上がったことを知らせる。初めの言葉からレベルの上がったことを知らせる言葉は、数十回と続いた。正直な話、何度も同じ言葉が続いたことで頭が痛くなってくる。



「レベルが上がりました」

 と、最後のレベルアップのコールが終わりを向かえたようで、砂嵐のようになっていたステータス画面が露わになる。そこまで期待などしていない俺ではあるが、レベルが上がったと言うことには感動していた。なんせ、異世界と分かり、ゲームと同じ様な世界に落とされたと知ったときから、弱い俺がレベルをあげれるなんて思つてもみなかった。

まずボスに殺されるとさえ思っていたのだから、それが当然でしょ。

 


 これは、今のステータスを初めてみたときの俺の心の叫びである。




「はぁぁぁぁ!なんでこんな事になってんだ。俺のステータスが変なことになってるぞ!」

 思わず大口を開けて叫んでしまった。

 だが、別に画面が壊れている意味でステータスが変だ。と叫んだ訳ではない。ちゃんと俺のステータスが現れているからこそ俺は、叫んだのだ。



多広 真也 LV32

HPゲージ 24200/24200

POW 1736

DEF 2057

LUK 77

SPD 23


経験値:19750/32000


<スキル>

Cランク ミストウォール

<ジョブ・効果>

下克上主義者なボスハンター

(効果)自分よりもレベルの高い敵を相手にするときDEFがちょっとだけ上がり、獲得経験値がちょっとだけ増える。ボスに遭遇すると、HPに1500プラスされる。 


メール(0) 現在地:51層 シャドウコロシアム




 まずどこからつっこめば良いのか分からないが、とにかく凄すぎた。LUKとSPDは全く変化がないのだが、POWとDEFが上がりすぎていたのだ。

 てか、こんなことってあるのか? なんか元々HPは高い気がしてたけど、24200ってありえないだろ。だって、もとから二十倍くらいは上がってる気がするし。それにどうやったらDEFがレベル一の頃の1200を越えれるんだ。これがレベル30代は普通なのか? 何か怖くなってきた。

 

「……うん。こればっかりは見なかったことにしよう。そして、早く一層の街にいこう。うん。それが一番良い。うんうん」

 内心では動揺が激しかった。表の顔もびくびくと口を引きつらせているのが、鏡が無くとも分かってしまう。上がったことは素直にうれしいのだが、弱虫な俺は自分に恐怖を感じざる負えなかった。


「あの光りの上に乗れば街に着くんだったよな」

 目線の先には、最後にボスのいた中央にある光。輝かしい光りはどこからともなく沸き上がっている。下から上に放出しているのか、地面にただまとわりついているだけなのか。はっきり言って分からなかった。近くに寄って更に調べて見るも、逆に近すぎるからこそ考えられなくなる始末。

 それでも知りたくなった俺は、ぎりぎりまで近づく。後数㎜も動けば多分街に送られるのではないかと言うほどだ。





「んん。近づいてもなんだかさっぱりだな。何で出来てんだこれ」

 これを造り出した人でないと分からないだろう。と言うか、これが人間の手によって作られているのかも定かではない。


そんなモノに疑問を抱きはしたが、これで街に行けると思うとふっと肩の力が緩まった。

さっきまで何時間寝ていたのかは分からない。

だが、ボスを倒す直前まであった疲労が無いことに今更気が付いた。体が軽くなっている事実に安堵し、帰還用ポータルから一歩ほど距離をとった。気が緩みすぎて街に直ぐ戻らないための対策だ。あまりにも近すぎた距離だった為、心の準備も出来ぬままにいつの間にか街に送られていた。なんていやだったからである。


「はぁ、これでもまだ1日くらいしか居なかったんだよな。そう言えば最後にもう一回あの湖の水呑みたくなってきたな。まあでも……レベルが上がったらまた行けばいいか」

 しみじみとボス部屋であるこの円形のフィールドを見渡した。長くいたわけでも、最初の一回以降死ぬ思いをしたわけでもなかったのだが、何か名残惜しい気持ちへと変わっていく。それでも、早く一層の街に戻りたい気持ちは変わりはしなかった。

 

 

 

 

 目の前の帰還用ポータルに乗ってしまえば、一生こんな高レベルな場所には来ない。それが分かっていたからこそ、感極まっていたのかもしれない。

 だが俺は、最後の一歩を踏み出した。


「じゃあなトカゲ野郎……」

 足が光りに埋まり、くるぶしから順番に光りが浸食しだす。抜こうとしても一度乗ってしまうと抜けないようで足がビクともしなかった。足が浸食され、光りは胴へと入っていく。光りが包み込む中で俺はふと思っていた。

 


「これって、街のどこに送られるん…………」

 口から出た言葉が最後まで言う前に光りは体を全て包み込み、松明の灯る円形の広い部屋から真也を消してしまった。懐かしく感じるこの光りは、多分この異世界に落としたときのそれに似ていたからだと、最後に思いながら、街へと飛ばされることになった。




 





   ◎     ◎     ◎


「…………だっけ?」  

 光りに包まれること0コンマ1秒もかからない程で、俺は街に送られていた。

 一瞬を体現したかのように早い移動は、俺を街の中央らしき場所へと送り込んだようだ。周りに群がる初期装備を身に纏う俺と同年齢ほどの人の群が、いきなり現れたボロボロの服の男、いや俺を見る。


  俺の飛ばされる前の疑問はこういった形で答えが出てしまった。



「何だあいつ。どこから現れたんだ?」


「こんなクエストなんかあったか」


「なあなあ、あいつの装備ぼろくね」


「分かるぅ。もしかして、レアなアイテム見つけたのかな? 誰か聞いてきてよ」


「絶対いやだね。怪しすぎるし」


 えっと……、どうなってんだ。この状況。まだここに来て日が浅いはずなのに、周りで見る限りみんなの顔が、元々この世界に居たかのように感じてしまう。

 とりあえず、


「こっから逃げよう!」

 俺の中で最高速度と言えるスピードで、かき分けながら群がる人を無理矢理突破した。恥ずかしさで顔がいつの間にか熱かったのを覚えている。


 何分か全力で走った後、後ろを振り向いても誰もいない事に気づくと速度を緩める。

 そこで路地境にある小さな喫茶店が目に入った。さっきいた人達が来ると厄介だと判断した俺は、その喫茶店へと早速入ることにした。



「あの! 聞きたいことがあるんですけど」


 良かった。さっきの現場に居た人はこの喫茶店には居ないようだった。入ってみるとこの喫茶店は広い部類だと感じた。



「そこの服がボロボロな君。聞いて下さい」

 

 街も案外広いんだと店の窓から眺めることで、街の風景をある程度見渡して分かった事だった。この店の向かいには武器屋もあるようだ。


「ちょっときいてください。でないと……こうしますよ!」


「へ? ……ぶほっ」

 どこからか声が聞こえると、席で頬杖を付いて外を眺めているとき、頬に鋭い痛みが走った。体勢を崩しながらも軽くモミジ腫れした頬を撫でる。


「人の話を聞かないからそうなるんですよ」

 頬の苦痛に悶えていると、目の前で何か言っている女の子を見つけた。右手が振り切ったような位置にあることから、頬を叩いたのはこの女の子のようだ。

 無さそうな胸を巧みに向けて、小さな子供がえっへんと腕を組む姿が伺えてしまう。 


 もしかしなくてもこれは、厄介事のタネが舞い込んできたのではないかと思えてしまった。女の子は迷うことなく俺の目の前に座ったことから、予想は確実なものへと変わった。


「痛たたた。めちゃ頬が痛いんだけど。ってか何か用かな。お母さんはいる? 知らない人を撲っちゃあ駄目って言われなかったのかな」

 痛みでまだ頬を撫でていた俺は、事の原因である女の子へと視線を向けた。実際そこまで痛くはなかったが。なんなら、軽く指先で触れた程度の感覚であったが俺は何も言わない。





「誰が子供ですか! 私はこれでも17です」

 俺との間にあったテーブルの上を叩いてその子は立ち上がった。腕が小刻みに震えている事から怒っているのかもしれない。

 よく見れば俺と同じで青い初期装備を身に纏っていた。これを来ていると言うことは、ここの住人で無いことの証でもある。と思う。


この女の子は今先ほど、俺と同い年の17と言った。身長も、童顔な顔も相まって、もはや小学生にしかみえないのは否めないだろう。



「で、そんな幼児体型な君が何か用かな」

 一度撲たれた頬など、気にもせず。幼児体型であると断定させて話を進めた。唇を噛みしめて苛立ちを抑える。女の子はそんな言葉に拳に力を入れた。


「もういいです。話しかけた私が馬鹿でした」

 彼女は怒りの沸点を迎えたように椅子から立ち上がり、出口に向かって足を出した。


 それはまずい。どう考えてもこの女は絶対に俺が此処にいることを広めるに違いない。


「ごめん。本当にごめん。ちゃんと話聞くから、もう一度座ってく……」

 なんとしてでもここから離すのは阻止したかった俺は、歩き出そうとした女の腕を掴み引っ張った。


 俺が悪かったのだが、いきなり止められた歩行に幼児体型な女は意図も簡単に倒れてしまった。引っ張ったのは俺も悪いが予想以上に軽かった体も問題だろう。POWが上がっているせいか、力の制限が出来ていなかったのも要因の一つかも知れない。

女はドスッと後ろに倒れて直ぐ、何もなかったかのように立ち上がった。


「……なんですか?」


「え!? 痛かったよね」


「なにがですか」

 いつの間にか俺の前の席に向き合うように座る彼女は耳を赤くして、倒れたことにシラを切り始めた。

 私には何も起きなかったと、連呼する。血は流れていないものの痛みは相当なものだったに違いない。大した怪我にならなかったのは、ステータスによる補正によるものだろう。


「どう考えたって、頭ぶつけたよな」


「では、まず話を聞いてくれるのなら聞いて下さい」


 あ、さらっと無視しやがった。


「はいはい。聞きますよ」

 手を適当に振ることで話を進めるように諭す。左の腰にぶら下がる細剣が、彼女の強さを少しだけ際立たせている。その装備に内容は濃いのではないかと予想を立てた。

 そんな俺の予想を裏切らない事を彼女は口を大きく開き言った。


「すいません。ジャイアントパフェ下さい。あ、後チョコは多めにお願いします」

 小さな体から伸びた手が店員を呼び、メニューから一品頼んだ。店員はかしこまりました。と言って去る。肘を着いていた俺は、首から上がずっこけ、カクンッと頭がテーブルに落ちる。

 改めてこの女は子供だと思わされた瞬間だった。



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