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3話 石ってこんなに硬かったんだ…

 目の前に迫った化け物が、右手に持っていた大剣を俺の胴めがけて横に払った。


 俺は反射でとっさに受け身をとりながら、相手の逆の方に飛ぶ。

 するとブオンという風を切る音が俺の耳の横すれすれを通り過ぎた。

 運良くこの化け物は足のスピードが俺よりは遅いし、なにより腕の大剣が邪魔で振り抜くまでに時間が掛かっている。そのお陰かもしれないが、あの突進をなんとか避けることが出来た。



モブぼ身体の能力にしては、よくやったと称賛したい。





「あのぉ……、誰か居ませんか、助けて下さい!」


 俺はなるべくあのトカゲから距離を取れるように警戒して、走りながら助けを求める声をあげた。

分かっていたことだが、この空間には俺とあのトカゲ野郎しかいないようで、俺の声がこのフィールドに反響するだけに終わった。


 それでも、ガッカリはしてはいられない。


 敵は、また大剣を構えて俺の居る中央部分へと向かってきているのだ。それに、あの大剣はスピードこそ無いが、威力はそこそこあるみたいだし。逃げた方が良い。


 俺は、そう結論を出し、敵から離れた場所に向かって走り出した。右目からか、左目から。もしかしたら両目かもしれない。涙がダラダラと流れてくる。走る中、風が拭い取っていた。



「グギャァァァァァ!!!!!」

 避けられたことに腹が立ったのか、怪物は大口を開けて唸り声をあげた。大剣をまた構え直し、さっきよりも少し早くなった動きで、真也に向かって走り出した。


 そんな敵の動きにつられるように真也も震える足を叩き、敵の来そうなコースを迂回しながら距離を離す。

 それでもやはり身体がデカイ分、敵の方が押さえ込むのに有利に見えることは仕方がない。

 いつまでかわからないが、逃げ延びてやる。



「こっちにくんなぁぁぁ!!!」


 結局、真也は壁へと挟まれた。そんな敵からは、怖さが増してくるような異様なオーラが漂ってきていた。俺の顔は乾いた涙と鼻水が混ざり、あまり見えたものではなかった。

 敵はこんな俺の状態を好機と思ったのか。さっきよりも早く攻撃のモーションに入り腕を振り上げる。



「くそ!こうなったら、これでもくらえやぁ」

 目の前で振り下ろされる剣に恐怖で狂ったのか、足元に落ちていた石を掴んで顔面めがけて投げた。流石の真也もこれほど近い距離では、ミスなどしなかった。


 キレイに顔面を捉えてぶつけられた石は、怪物の右目に当たり、不意の一撃に足元をくらませる。

怪物は剣が真也に当たる直前で体をのけぞらせて倒れた。

 それからは早かった。

俺は敵から一番遠いであろう壁まで敵が立ち上がる前に必至に走り出す。

 直ぐにでも追ってくると思ったのだが、それは違ったようだ。むしろ逆にゆったりと中央まで歩いていき、そいつはそこで立ち止まった。警戒を怠ることなく俺は見ていると、10秒ほど経った頃だろうか。中央にあった紋様の様な柄が浮かび出す。怪物の足下から延びた紋様は敵の身体を包み込んだ。


 なにが起きているのか、気にはなったがなるべく近づかずに俺は様子を窺うことにした。だが、それでも怪物は動く気配がない。奴の周りでは、包み込んでいた光りも収まり、なんなら松明に点いていた火さえ消え始め、暗闇へと落ちた。





「え?もしかして、相手にならなさすぎて放置プレイみたいな…」


 その状態から警戒は解かず何分も待ったが、奴はピクリともしない。こんな暗い部屋の中でジッとしていると敵がいつ動き出すかの恐怖よりも、心霊的な意味で怖くなってくる。そこで俺は待ちかねて、試しに一歩だけ動いてみた。


 すると、最初に入ったときのように、周りにあった松明にまた火が灯り、一瞬にして敵にまとわりついていた殻が消えた。むき出しになった敵は、ムクリと立ち上がり、周りをキョロキョロと見て敵を探す素振りを見せ始めた。だが、一歩踏み出した状態から動かず固まっていた俺の事など見えていないかのように、また光りが相手の身体を包み込み、丸い殻に閉じこまってしまった。


 端的に言えば、意味が分からなかった。何故、まだ俺は居るにも関わらず殻に戻ってしまうのか。疑問を解消すべく、試しに俺はもう一度一歩足を前に出した。

 勿論、今回も先ほどと同じように、周りにあった松明に火が点くと同時に、包んでいた殻が消える。そいつは立ち上がりながら敵を探した後、またもや光りが包み込んで殻に戻っていった。





 不思議なことに、この後何度も挑戦したのだが、同じ事の繰り返しですぐに殻に戻ってしまう。その代わりに分かったこともある。一歩動いた後にもう一回動くと反応するという事だ。その後、またもや命がけの鬼ごっこになってしまったのは言うまでもないだろう。

 これを踏まえて考えると、予想でしかないが、これがゲームで言うボスだったとすると、この部屋に入った瞬間には動かなくても絶対に感知されて襲ってくる様になっている。その感知システムは倒されるまで普通は続く。でも、今の俺のように感知されないようになる方法がゲームなら、一つだけ予想が出来る。


 それは……、このボスに倒されて死体でここに居すわることだ。俺は死んではいないが、死んだと判定されると無駄なエネルギーを使わない為に、殻に奴は籠もるのかもしれない。それなら、辻褄があう。

 死体だから、動かなければ感知されない。でも逆に動いてしまうと侵入者だと判断されるから襲ってくる。だから、さっきは何回も動いたから反応したんだろう。そのお陰で死ぬかと思ったけどな。

 一応死んでないけどこれはチャンスと思った方が良さそうだ。

 それに、タネさえ分かれば後は簡単だ。動かなければ良いんだから……


 



 ……あれ?それってむりじゃね?

動かないとあいつは倒せないし。倒さないと多分出れない。要はこのままだと一生出れないってことだよな。




「オーノー……、なんてこった。これじゃあ出れないじゃん。どうしろってんだよ。この野郎!!」

 その瞬間、誤って一歩足を出してしまった。


「あ…、やばい。またやっちゃった」

 でも動かなければ大丈夫だ。そうだろ。なんたって、この中では死んでるんだから俺。


 その時、不幸なことにポケットの中に入っている何かが、ブーブーと振動音を発した。微弱なその音に気づいたトカゲは、こっちを怪しそうに睨んできた。

 俺はとっさにポケットをまさぐって元凶を探し始めた。最初は携帯かと思って探していたのだが、それは違ったようだ。

 実際は携帯よりも薄くこれが振動したのか。と思ってしまうような、赤い色をしたカードだった。なんとか、土壇場で見つけたことでトカゲ野郎の感知からは逃れられた様子。

 

 

 

 

 それよりも、これは何なのかと言うことだ。確か、荷物は全部学校に置いてあるし、バックの中に入れて置いたはずだ。それに偶々入れてない物があったとしてもこれは俺の物ではない。もしかすると、妹のものかもしれないが、それはそれで何かおかしい。




「うん、まあ妹のって事にして見てみよう」

 

 普通は妹の物は見ない方が良いのだろうが、流石にあの振動の原因が気になり、俺は妹の物だろうと理解した上で見ることにした。

 暗い事で必然的に何度も足を出しては引いてを繰り返すさなくてはならなかったが、これでなんとかこのカードを見ることは出来た。なかなかシュールな姿ではあることは、容易に想像がつくだろう。



「あれ?名前が載ってるんだけど、どう見ても俺の名前だよな」

 妹の物だと思っていたはずのカードには、何故か多広 真也と白い文字で掘られている。



俺の名前が書いてあることも気にはなったが、もうひとつ目にとまった物があった。それは、スイッチだ。いやボタンと言った方が良いのかもしれないが。

 白を基調にして書かれた名前の下辺りで、黄色く光っていた。

 押せと言わんばかりに光るそれに、俺は躊躇せず親指を押し付けた


俺の名前が彫られているなら多分これは俺のだ。なら大丈夫だろう。

 そんな軽い気持ちで押した瞬間、カチッと音がすると同時に光りが消える。その代わりに、カードの右上に在ったレンズのような物が、細いレーザーを放出させた。




「な、なんだ。どうなってんだ」

 飛び出てきたレーザーは次第に、顔の手前辺りで収束していき立体的な映像を作り始めた。音のないまま作業は進む。それから数十秒と経たない内に映像は完成した。

 見る限り俺のプロフィールのようだ。名前、年齢、身長、体重、正確にぎっしりと書かれていた。だが、よく見ると正確に書かれているように見えていたが、下に行くにつれて内容が意味不明なモノへと変わりだす。半分までは間違いなく只のプロフィールだったのだが、後半はどうやら別のモノを記しているようだ。




多広 真也 LV1

HPゲージ 1500/1500

POW 18

DEF 32

LUK 77

SPD 23


経験値:0/2000

<スキル>

Cランク ミストウォール

<ジョブ>

なし


メール(1) 現在地:51層 シャドウコロシアム



 初見でしかないがこれは、ゲームで言われるところのステータスではないかと思われる。さっきの俺の仮説がまだ頭に残っているからかもしれないが、そうとしか見えないのもまた事実だった。


「お、メールが一件入ってる」

 もしかしたら、秋隆が送ってきたのかもしれない。

 どうやって見るのか分からなかった俺は、適当に画面にあるメールの文字を押してみた。不思議なもので、空間に映し出された画面は触れることができるようだ。

 そうしたからなのかは分からないが、カードの側面からさっき見たようなレーザーが空気中に放たれた。今ある画面のようにそれは立体的な映像へと造られていく。完成する前に先に胴体が造られ、ゆっくりと輪郭が造られていった。口、目、鼻、眉毛まで繊細に表現されていくそれは顔のようだ。最後に頭のてっぺんにある、寝癖が現れた事で、そいつは話し出した。



「やあ、どうも。少し遅れてしまったが、忘れてしまった人たちの為にもう一度説明したいと思って、映像型のメールを送りました。まあこれに気づいてくれていればの話ですが」


 立体的に造られたその人物は、忘れられない程記憶に新しい人物だった。此処に連れてきた張本人にして、頭のいかれたあの男だ。


「そっちの暮らしはどうかな。送り出したのが3時くらいだとすると、もうそっちに行ってだいぶ時間は経っているはずです。時間の流れは速いものですね。うんうん。えー。ところでなんですけど、早くもそっちに送られた中で死亡者が出てしまいました。誠に残念です。普通なら、1層で戦えば死ぬ事なんて無いんですが。なにかしら事故があったのでしょう」


死亡者…

そこまで時間がたっているようには思わないがそれより驚いたのは、この世界で死んでも死んだ事になるということだ。ゲームのように考えていたからこその失念だった。さっきまでの俺は浅はかだった。

確かに、ここに送られる前に死ぬ事への注意を説明していた気もする。なんで俺は忘れていたんだ。覚えていればこんなところ入っていない。



「まあそんな死んだ人の事なんて、どうでもいいんです。とりあえず本題の説明に入っちゃいましょう」

 男は本当に死んだことなど、どうでも良いといった風に笑った。あまりに自然すぎる笑みに、映像であっても本当に死人が出たのか、分からなくなる。



「一応このメールは生放送のような物でして、質問したい方は質問してくれてかまいませんのでバンバンして下さいね。ではでは、説明に入ります」

 映像の右下に確かに、0:04と表示されていた。それを見てここにきてから8時間も経っていたことに驚いた。

まあ、着いたときに寝ていたから実際よりは此処で居る時の記憶なんて、たかが4時間程度だと思うけど。


「君たちを送った世界は、ヘブンタワーと言われる世界です。縦に何層にもなっていて、例外もありますが、一つの層が地球の半面ほど在ると考えて下さい。その層の合計は100と言われています。生存している種族は、人だけです。この世界をゲームと認識している人がいるでしょうが、ここには獣人なんて者はいません。ただし、モンスターと言われる。人と敵対している生き物はいます。ここからはゲームと同じなのですが、ポップと言われる方法で、モンスターは一度倒されると定められた時間間隔をおいて、もう一度湧き出るようになっています。この世界の均衡を守るためと言われております。誰か、ここまでで質問はございますか?」


 ここまでまじめに異世界について説明されると、何も違和感無く受け入れてしまう自分がいた。こう見えて、以外と半信半疑だったのが解消された気がする。馬鹿はこんな時に特をする。先の事は考えないからこそ、聞いたことをすんなり受け入れてしまうのだ。感情豊かな奴はこんな時泣き叫ぶのだろうが、俺は違った。


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