プロローグ
太陽が空から抜け出るような。そんな夕日の光りを放ち出した時。 ある森の中で事件は起きていた。
高校を3年目に向かえて間もない頃。
一般家庭に産まれ、何も起きることなく、順調に生きてきたと俺は思っている。そんな何も起きなかった人生だからこそ、退屈な人生である事をは否定しきれないだろう。俺の人生という人生は、いかにも人間らしく見えるに違いない。
数少ない楽しさを全力で楽しみ、それ以外はいつもと変わらぬ日常を過ごす。昔から多くの人とは関わる事無く自分に適した友人とだけ仲良く接していたのだから、それが当然と言えば当然の結果であるわけで。
だが、何故そうも人との距離を開けてしまっていたのか。
理由は至極単純だ。馬が合わない奴が多かったり、長く一緒に居たいと思える様なグループがなかったから。そう。簡単だろ?
上手く愛想を振りまく事が出来ないのもあるが、それには何かと逃げ癖が付いていたから出来ないのだと諦めている。
頭が悪い、非力だ、弱虫だ。と、これらは俺の人間性を持って的を射ている言葉だと言えよう。頭が悪い事は直結しないことではあるが、非力で弱虫なのは、友人関係に関わっていると俺は思う。
初めて話す相手にも勇気は必要だ。それこそ弱虫な奴は相手を気にしすぎて会話すら成立しない可能性が出てくる。
いざという時に勇気が出ないなら、その時の対処が出来ないかもしれないと言うこともある。だからこそ、つるむ相手が一変も変わらないのかもしれない。
何か起きたときに、いつもいる相手がいれば、その場の状況に対応出来ることもそうだが、安心感も一気に跳ね上がるのだ。
まあ、それらを簡単にまとめてしまうと、俺は一人では何もできない、逃げ癖の激しい非力な人間。に至るわけだが……、それぐらいの人ならどこにでもいるはずだ。
馴染めず友達が少ないなんて言うのは、しょうがないことであって、おかしな話ではない。
よく考えれば、この人生も普通と言う概念に同義と言えるのではないか。そう考えてしまえば、俺の人生は普通なのだ。
ただ、唯一今のこの状況だけは、360度見渡してみても、何度考え直しても不自然で仕方なかった。
試しに、一つ聞かせて欲しい事がある。
地球が青いのは当たり前? という問題があったとしよう。
勿論、この回答には当たり前だと誰でも答える。普通な人生を送ってきた凡人である俺自身もそれは分かっていると豪語出来る。生まれたての赤ん坊でない限りは、子供でも知っていることだ。
では……
目の前にあり得ない程デカイ怪物が睨んでいる。それは当たり前? と言う問題ならどうだろう。
勿論。これは当たり前ではない。と答えてくれれば正解であり普通な人として認められる。ここで間違っても、当たり前なんて答えようものなら、その時点で普通の一線を越えてしまっている事になるのは明白。
それを踏まえて聞いて欲しいのだが、例えば俺の目の前に俺の何倍も大きな怪物がいるとしよう。そいつがガンを飛ばして今にも飛びかかってきそうだとしよう。
では、この時にはもう、俗に言う普通の一線をこえてしまったのだろうか。
俺自身の中ではまだ、超えていない方が本望であるし、それを主張したくもある。いや、そう願いたいのかもしれない。普通が一番であまり騒がない俺には、普通である基準が低く見積もられているのだとーーそう信じたかった。
なんせ…
「ギュギャァァァア!」
目の前のそれは、地面を震動させるほど攻撃的な威嚇を、地鳴りと共に俺に向かって放ってきた。
そこには、本当に信じられないほどデカイ怪物が俺へと獰猛な瞳を向けていた……。