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第6回:放課後の図書室

 六時間目の英語のリスニングが終わった。

 夕方になってもまだ雪はやまず。

 そとをボーっと眺めつつ、放課後の清掃の時間に入る。

 月夏は今週、清掃当番には当たっておらず、教室内でストーブにあたっていた。


 そして数学研究室掃除の冬花が教室に戻ってきたとこで、月夏たち二人は図書室へ行く。

 冬花の吹奏楽部の練習は、予想通り中止。

 

 授業時間が終わった開放感でうるさい廊下とは別に、図書館の中は静かなもんだ。

 雪が降っているせいか、人がいないせいなのかは知らないが、あいかわらずストーブの動く音しか聞こえない。


 誰もこねーんじゃねえの?

 

 昼休みには、それでも十人ちょっとの貸し出しがあった。

 全校生徒数約千人の割合から換算すると、なんて低い値。

 読書離れっていわれているけど、こうまでくるとひどい。

 本好きの月夏には信じられない数字だった。


 放課後の貸し出しは、昼より少ない。

 掃除が終われば、みんな帰るか部活。

 図書館によるのは、よほどの図書館好きか、ただヒマなだけか、急ぎの調べごとがあるか……。

 とにかく、この天気じゃ、あまり期待はできない。

 みんなすぐに帰るだろう。

 人が増えればいいとは思っているが、本を読むか読まないかは個人の自由だ。

 

 二人は、カウンター席には座らずに、ストーブを囲み、暖かい空気が出る上部分に手をかざす。

「あったけー」

「ほんとだ〜」


 ごうごうという炎が、横の小さなガラス窓からわずかに見える。

 空気が顔全体にもかかってくる。

 なんてあたたかいんだろ。

 教室にもストーブはあるが、図書館のほうが火力が強い。

 それに、手前と奥と、二台設置されているのだ。


 このままずっといられればいいと思った。

 外は雪の世界。

 体はコートがあるからまだしも、顔が冷たくなってたまらない。

 吹きつける風が、痛い。


 時間がたつにつれ、ほかにも幾らか人が入ってきた。

 感じからいって、先輩っぽかった。

 うち二人の女子は、後ろ側のストーブの近くの席に座り、宿題らしきプリントを出し勉強を始めた。

 一年生っぽい男子は書架を回って、何かの本を探している。

 別の女子も、書架を回っている。


 その様子を見ていると、冬花がふいにストーブから手を引っ込めた。

「そろそろ座ろっかな」

「もうか?」

「だって図書当番に来たんでしょ?」

「そうだけど……」

 しかし、月夏の足は動かなかった。

 人がきたらやればいい……。

 寒い冬はストーブからは離れられないんだ。

 この気持ちには勝てない。


 そんな月夏に何もいうことなく、冬花はカウンター席に座る。

 端には、数冊の本が積み重なっていた。

 昼休みに返却された本だ。

 そういや、棚に戻しとくの忘れてた。

 本の貸し出しをするだけが、図書当番の仕事ではない。

 返された本を元の位置に戻しておくのもやらなくてはならない。


 中高生向きのヤングアダルト文庫が三冊、ベストセラー作家のちょっと前に売れた本が一冊、魔法使いモノの分厚い児童書が一冊、古めかしい心理学の本が一冊、歴史モノのマンガが二冊。

 月夏は返しに行こうと思ったが、それはやめた。

 もう少しだけ、ここであったまっていよう。


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