黒王再来
気が付くと祇梨蓮斗は境内の石畳の上で仰向けに倒れていた。何があったのかか全く分からない。そして、この状況を作った人物はゆっくりとこちらに歩いて来ていた。
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滝壺「稽古と言ってもまず君の正確な実力を知りたいから初めは模擬戦をしようか。」
滝壺間宮は訓練の準備をしている祇梨蓮斗にそう言った。滝壺間宮が言うには力量は正確に見極める事で訓練の内容を調整する為、らしい。至極真っ当で理にかなった意見なので祇梨蓮斗は模擬戦を快く承諾した。
滝壺「蓮斗君は今使える魔法を全部使っていいよ。ハンデとして俺は下位魔法しか使わない。それでいいかな?」
蓮斗「問題ありません。では、新島さん開始の合図をお願いします。」
新島「分かった。....それでは、開始!」
祇梨蓮斗達が所定の位置に着いた所を見計らい新島杏が開始の合図を発する。その掛け声が聞こえたと同時、祇梨蓮斗は今自身に出せる最高速度を持って滝壺間宮に急接近する。そのまま加速した体勢のまま低い位置から顔を狙った蹴り上げを狙うが、滝壺間宮は蹴りの軌道を完璧に読みきり紙一重で避ける。それならばと祇梨蓮斗は体を捩り無理矢理体制を立て直す。
蓮斗「雷系統中位魔法・黒雷掃射」
無数の黒い雷が滝壺間宮を襲う。20発の黒い落雷が滝壺間宮を同時に襲うが、これもまた読みきり無傷で凌ぐ。
蓮斗「強化系統魔法・身体強化」
祇梨蓮斗は魔法ではダメージを与えられないと踏み近接戦を試みた。祇梨蓮斗の猛追を滝壺間宮は軽く躱し、反撃を放つ。その反撃はいとも容易く祇梨蓮斗の腹部に直撃。回避からの攻撃の発生が恐ろしく早い。特殊異能の効果によりダメージ自体は発生していないが、異常なまでに強い。
蓮斗「(分かってたけど、この人認識速度が常軌を逸してる...!)」
滝壺「敵を前にして考え込むのは、戦場じゃ悪手だ。気をつけて。」
その声がしたのは祇梨蓮斗の頭上からだった。声が聞こえた瞬間防御魔法を展開し耐えの体勢を取るが、まるで紙を破くかの如く呆気なく魔法は砕かれ祇梨蓮斗は蹴り飛ばされた。
蓮斗「(嘘だろ?今私は滝壺さんから目を離してなかった!なのに、気づいたら頭上にいた...!?)」
先程からどれだけ攻撃しても無傷or躱すの二択。祇梨蓮斗は滝壺間宮に仕掛けながら思考を巡らせていた。
蓮斗「(何か、なにか違和感がある!どこだ?この違和感は何処から来てる?....まさか!)」
蓮斗「水系統上位魔法・深淵峡谷」
滝壺「...!深海の地形をこの場所に顕現させたのか、なるほど、考えたね!」
蓮斗「雷系統上位魔法・雷竜電爪!」
滝壺「(深海の環境で動きを鈍らせてからの海水と相性のいい雷魔法での追撃!いいね!)」
滝壺「火系統下位魔法・火球連弾」
滝壺間宮が放った魔法は強かった。周囲を包む大量の海水が一瞬で蒸発、それによって発生した水蒸気爆発が展開され他魔法を瞬時に掻き消す。だが、そのタイミングを祇梨蓮斗は虎視眈々と待っていた。
蓮斗「貰った!」
月柳「上手い!」
蓮斗「風系統上位魔法・斬風鏖刃!」
滝壺「やるね、君。」
魔法同士が相殺した時に生じる煙と、水蒸気爆発によって生じた大量の水蒸気を利用し祇梨蓮斗は滝壺間宮の背後を取った。それで満足する事無く、間髪入れずに0距離から上位魔法を叩き込む。
蓮斗「少しはダメージが有ると良いんですけど。」
願望に近いモノを呟きながらその場から飛び距離を置く。滝壺間宮の姿は依然として舞い上がった水蒸気と砂煙が混ざり合った煙幕で見えない。時間にして10秒ほどが経った時だろうか、
蓮斗「!?」
ナニかが祇梨蓮斗の頭部目掛け飛んできた。魔法かと思ったが、ソレには一切と言って良い程魔力が籠められていなかった。今の攻撃で煙幕が晴れて行き、滝壺間宮の姿が露わとなった。そこには大きな炎の鎌を持った滝壺さんが立っていた。
蓮斗「一応聞いておきますけど、怪我は...?」
滝壺「見ての通り無傷だよ。まぁ一瞬焦ったけどね。今の攻撃は良かった。」
蓮斗「分かってはいましたけど今ので無傷だと流石に少し凹みますね。」
滝壺「はは、そう悲観しなくて良いよ。コレ、本来抜く気なかったけど、案外君が強くて、出しちゃったよ。」
そう言いながら滝壺間宮は大鎌をクルクルと回している。しかし、無傷なのは予想通り。
蓮斗「今やり合って分かった事があります。」
滝壺「分かった事?」
蓮斗「えぇ。滝壺さん、貴方魔法に対しては絶対的な防御を持ってはいるが、物理攻撃に弱い。違いますか?」
滝壺「正解、よく分かったね。どうして分かったのか聞いてもいいかな?」
蓮斗「簡単な事です。貴方は私が魔法を放った時は一切防御行動を行っていなかった。最初こそ常軌を逸した認識能力で成立させているのかと思いましたが...物理の蹴りやパンチだけは躱していた。だからそこから憶測を立ててみたんでです。」
滝壺「なるほど、頭の回転は早いのか。これなら稽古も早めに始められそうだ。」
蓮斗「そうですか、良かったです。では模擬戦は終了ですね。」
滝壺「いや、まだだよ?」
蓮斗「へ?」
滝壺「久々に体を動かしてたら楽しくなってきた。ここからは俺も上位魔法を解禁するとしよう。」
月柳「待て間宮!童を殺すつもりか!?」
滝壺「大丈夫だよ月柳。蓮斗君は怪我をしない。それに致命傷でも俺なら治せる。」
新島「ストップ、ストップ!流石に貴方が上位魔法使うのはまずいですよ!さっき見てましたけど蓮斗くんの上位魔法を下位魔法で相殺...と言うか圧倒してましたよね!?流石に危険です!」
蓮斗「新島さん大丈夫です。私も上位魔法を使う滝壺さんと戦ってみたいです。」
新島「で、でも...」
月柳「(間宮の奴、まさか黒王戦鬼を...?)」
月柳「(間宮よ、お主まさか黒王戦鬼をここで出させるつもりか?)」
滝壺「(さっき言ったのも本当だけどそれが本来の目的だ。ここまで動ける蓮斗君が黒王戦鬼を出したらどこまで強いのかここで見ておきたい。)」
月柳「(....分かった。しかし黒王戦鬼となれば妾の結界が破られるやもしれん。お主も結界を張れるか?)」
滝壺「(念には念をだ、そうする。じゃあ話はまた後で。)」
滝壺「蓮斗君!君も本気でこい。怪我とかの心配はいらない。正真正銘の本気で掛かってこい。いいね!?」
蓮斗「はいっ!」
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滝壺「土系統上位魔法・土龍双牙」
蓮斗「強化系統魔法・脚力/思考加速」
2人の戦闘が始まった。先程までは模擬戦という事で少し力をセーブしていたのだろうが今は一切の遠慮のない本当の戦いがそこにはあった。滝壺間宮の魔法の強さも凄まじいがそれよりも祇梨蓮斗に目が向く。今使っている魔法は学園都市で学んだ「地脈接続」を応用して大量の魔力を利用して行う思考加速だ。認識速度を何十倍にも引きあげ、その認識速度に体がついて行けるように身体能力も底上げしている。確実に以前よりも強くなっている。
月柳「凄まじいな、童よ。その歳でもうその領域にいるのか。」
月柳が驚いた表情でそう呟く。目を見張り食い入るように2人の戦闘を見守る。
滝壺「風系統上位魔法・乱風崩災」
魔法発動と同時に複数の大きな竜巻が出現し境内の地面を引き剥がし破壊していく。それに対し祇梨蓮斗はと言えば
蓮斗「雷系統上位魔法・雷速閃光」
自身を雷とし、音速の壁を突破。そのスピードは凄まじく魔法を破壊しながら滝壺間宮に突っ込む。
蓮斗「雷速閃光・回蹴」
雷の速度で回転しながら突っ込んだ。綺麗に腹に入ったと思ったが滝壺間宮は大鎌の柄の部分で受け止めていた。祇梨蓮斗を弾き返すと滝壺間宮は大鎌を大きく振り上げ祇梨蓮斗に向け振り下ろした。
蓮斗「ぐぅぅぅ!!!」
そう祇梨蓮斗は唸り声を上げながら地面に叩き付けられる。しかしながら、地面に激突してなお勢いは衰えず、そのまま50m程吹き飛ばされた。
新島「なんで、なんで?なんで蓮斗くん、怪我してるの...?魔力がある限りどんな攻撃も聞かないはずじゃ....?」
新島杏は祇梨蓮斗の腕は皮膚が弾け夥しい量の血が流れているのを目にし絶句する。カラクリが分からずただ戦いの行く末を見つめていた。
蓮斗「(間一髪で防御魔法が間に合った...!でも、なんで私は怪我をした!?魔力は一切減ってないのに、くそっ、分からない!)」
蓮斗「水系統上位魔法・仙水ノ恵」
祇梨蓮斗は痛みが戦闘のノイズになると判断し、すぐに回復を図った。傷を治している間滝壺間宮は1歩も動かず回復を見守っていた。
新島「月柳さん!なんで蓮斗くんが怪我したのか、原因が分かりますか?」
月柳「原因か...おそらくではあるが、あの童の特殊異能は無条件に事象を拒絶出来る訳では無いのかもしれん。」
新島「と、いいますと...?」
月柳「これは妾の憶測でしかないが、あの童の能力は何かしらの条件を満たす事で攻撃と言う事象が拒絶され、無効化される。しかし、その条件を突破した時、あの童に傷を負わせられる。と、思うのじゃ。」
新島「何かしらの条件...そう言えば、蓮斗くんは以前、魔力がある状態で「覇王」様と、蓮斗くんのお父さんと戦ったんですが...傷を負っていましたね。」
月柳「つまり「覇王」と童の父は魔力がある状態の童に傷をつけたと...「覇王」と父親、間宮の共通点か...なるほど、そういう事か。」
新島「何か分かったんですか...?」
月柳「ああ。おそらく、奴の拒絶の本質は世界のルール内で起きる事象に対してじゃ。」
新島「世界のルール内で起きる事象?」
月柳「そうじゃ。おそらく今まで魔力ありの童に傷をつけたのが間宮を含めて3人だとするならば、そうなのではないかと妾は思うのじゃ。」
蓮斗「火系統上位魔法・爆炎樹林!」
滝壺「雷系統上位魔法・雷獣跋扈」
月柳と新島杏が祇梨蓮斗の能力について議論しているといつの間にか戦闘が激化していた。互いに魔法を放ち近接戦でやり合う。正直、新島杏は戦いの余波だけで体が震えてしまう。
月柳「「覇王」や童の父もそうだが間宮も言ってしまえば世界の枠から飛び出した異端者。童に傷を負わせるのも訳ないといという事じゃ。」
新島「............!」
新島杏はその話を聞きながら2人の戦いを見守る。正直言ってここまで戦闘が激化するとは想像もしていなかった。そして、決定的な攻撃が祇梨蓮斗に振り下ろされる。
滝壺「貰ったよ、蓮斗君。」
蓮斗「がはっ........!!」
その瞬間、祇梨蓮斗は滝壺間宮によって袈裟に斬られ、その場に力無く倒れる。2人が戦っていた時間はおよそ23分。もう十分だろうと判断した新島杏が祇梨蓮斗の容態を見ようと結界の中に入ろうとした瞬間、その場の空気が一変した事が分かった。以前体験した、触れてはならない暗く冷たい、禁忌を思わせるモノを肌で感じた。
新島「ひっ....!」
月柳「まさか本当に出てくるとはな....」
倒れている筈の祇梨蓮斗からどす黒く、息の詰まる何かが溢れてくる。そして意識が途切れ動ける筈の無い祇梨蓮斗が、静かにその場に立ち上がった。
蓮斗「.........」
言葉は発さない。ただ、とてつもなく嫌なモノを纏い始め、徐々に姿を変化させていく。四肢が黒く異形化し、黒い角が2本生え、両目の色が反転した。間違いなくそこにには禁忌「黒王戦鬼」が立っていた。新島杏が恐怖で震え、呼吸が浅く、早くなると月柳がを新島杏を守る様に抱き寄せた。
月柳「大丈夫じゃ。童は間宮が何とかする。」
そう言いながら新島杏の頭を優しく撫でてくれた。
滝壺「君が、黒王戦鬼か。うん、確かに今までの蓮斗君とは比べ物にならない程強いね。」
そう滝壺間宮は言った。だが、その顔には笑顔はなく、集中した真顔だけがあった。ダメだ、早くそこから逃げて、と言おうとした新島杏だが、口を動かすも恐怖で声が出ない。瞬間黒王戦鬼が滝壺間宮に攻撃を仕掛けた。直撃だ、即死したと新島杏が思ったその時。
滝壺「いやー、パワーもめっちゃ上がってるじゃん。でも、これで俺も少しは本気出せそうだ。」
黒王戦鬼「........!」
黒王戦鬼は滝壺間宮から何かを感じとったのか後ろに飛び距離をとった。すると滝壺間宮がこう呟いた
滝壺「祟炎魔法...」
黒王戦鬼「kjoshuhakkanojpdkpnab」
新島「最上位魔法...!滝壺さん避けて!」
月柳「いや、間宮の方が早い。」
滝壺「火神焼却之祟呪・壱〝血狂い〟」
両者の魔法がぶつかり合った。互角かと思った時黒王戦鬼に異変が生じた。
黒王戦鬼「ゴフォッ.......?」
黒王戦鬼がその場に膝をつき吐血したのだ。新島杏には何が起きているのか分からず月柳に視線を向けると、視線に気付いたのか説明を始めた。
月柳「間宮の魔法、祟炎魔法は発動したした瞬間自身の取り決めた範囲に無条件の出血、衰弱、発狂の祟りを起こす。それは段階を追う毎に効果が強まるのじゃ。今は1段階目の状態じゃ。倒れるなら今が1番楽なんじゃ。」
滝壺「弐〝衰弱地獄〟」
新島「す、すごい。あの黒王戦鬼が何も出来ずに」
月柳「大抵の者はここで倒れるが、どう出る?黒王戦鬼。」
そう言いながら黒王戦鬼を見ると、立ち上がり滝壺間宮に向かっていく。しかしその手は滝壺間宮に届く事は無かった。
黒王戦鬼「jijojojekpkplaudhijpas」
黒王戦鬼がその場で詠唱を始めた。全身から血が吹き出し衰弱し続けて尚、黒王戦鬼はまだ戦いをやめるつもりは無いらしい。しかし最上位魔法を放とうとした瞬間魔法が燃えた。
黒王戦鬼「...........?」
黒王戦鬼は何が起こったのか分からないと言った表情を浮かべた。無論、新島杏にも分からない。そして滝壺間宮が最後の段階に移行する。
滝壺「参〝心狂いし者〟」
そう唱えた瞬間、黒王戦鬼が絶叫した。その声はとても暗く、怒りを孕んで自身の倒れる大地に頭を打ち付けた。
月柳「あの者、3つ目の祟りに抗っておるのか...ああまでして何故あの者は戦おうとするのじゃ...?」
月柳は黒王戦鬼の底無しの狂気と計り知れない怒りに恐怖を通り越し恐怖していた。しかしそれを目の前にしている滝壺間宮は一切表情を崩さない。
黒王戦鬼「ガァァァァァァァァァァァ!!!」
黒王戦鬼は咆哮を上げ滝壺間宮に突っ込む。3つの祟りを受けているのにも関わらずその気迫は一切衰えていなかった。しかし、黒王戦鬼は滝壺間宮に地面へと叩き付けられた。それでも滝壺間宮に向かい手を伸ばす。まさに異常だ。
滝壺「なるほど、十分わかった。もう、いいよ。」
そう言うと滝壺間宮は掌印を結んだ。
滝壺「今は眠れ、黒王戦鬼。」
「祟炎魔法・崇拝信仰焼爛火月」
そういった途端黒王戦鬼の体に火がついた。新島杏は驚愕したが何故か黒王戦鬼は一言も発さない。ものの数分で火は消えそこにはいつもの祇梨蓮斗が眠っていた。
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気が付いた祇梨蓮斗はその場に起き上がった。こちらに向かって来ていたのは滝壺間宮だった。
蓮斗「もしかして私、寝てました?」
滝壺「うん、ぐっすり寝てたよ。眠かった?」
蓮斗「さぁ?何かいきなり意識が飛んだような...」
滝壺「まぁそんな日もたまにはあるよ。じゃあ今日はここでおしまいだね。」
蓮斗「え、もう終わりですか?」
滝壺「おーわーりー。ご飯持っていかせるから君は社の方で休んでな。」
蓮斗「分かりました。」
祇梨蓮斗はちょっとした違和感を感じたが滝壺間宮の言う通り社の方へ行き休む事にした。
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滝壺「2人とも、ここであったことは他言無用だ。いいね?あと、いきなりごめんね新島さん。」
新島「い、いえ。すごくびっくりしましたけど、大丈夫です。あと、他言無用ですね、分かりました」
月柳「あいわかった。」
そう短く話すと今日のところはお開きとなった。
新島「(それにしても、あの黒王戦鬼をあんな一方的に、、、それに最後の焼爛火月って、まさ、かね...?)」
そんなことを思いながら新島杏と月柳は社の方にいる祇梨蓮斗の元へ行く事にした。




