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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第五章 ゲーム攻略・合流編【フィッシングゲーム】

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043 回想・マリアメアside ~私が見た光 後編~

『……申し訳ありませんが、私達はもう、ここへ来ることができません』


 その言葉を聞いた瞬間、足元から世界が崩れ去るような錯覚に陥った。


「……え……?」


 いつもの小屋で、いつものようにお菓子を食べ、いつものように語らう。

 そんな温かな日常が、ずっと続くと思っていたのに。


 今ではすっかり細めるのが癖になっていた目を見開き、私は激しく動揺した。


(……もう来られない? これでお別れ? ……どうして。まだ、何も恩を返せていないのに……?)


 どん底だった学院生活が劇的に変わったのは、彼女たちが私の手を取ってくれたからだ。

 それなのに、一つとして恩を返せていない。


 いや、それ以上に――私はただ、彼女たちと離れたくなかった。


 呆然とする私を、彼女たちは優しく椅子へと座らせる。

 そして二人は顔を見合わせ、一つのお願いを口にした。


「マリア姉。明後日の正午、王城前の広場に来てくれない?」


 その日、自分がどうやって寮まで帰ったのか、記憶はどこにも残っていなかった。




 ――――――――――――――――――




 二日後。重い足取りで向かった広場は、溢れんばかりの人、人、人の波だった。

 皆が王城を見上げ、熱狂に包まれている。


(……そういえば、今日は第一王女の初お披露目だったっけ……)


 回らない頭で、そんな行事を思い出すが、あまりの混雑に、これ以上は進めない。

 そもそも、あの日、広場の『どこ』に行けばいいのかすら聞きそびれていた。


 人波に逆らって立ち尽くしていると、不意に袖を引かれた。

 振り返れば、人の波に飲まれかけているティオちゃんの姿があった。


 どうやらあの日、待ち合わせの場所を話していたらしいが、私が聞き逃していたようだった。

 そのことを謝ると、ティオちゃんは『それは後でいいからこっち来て!』と私の腕を引っ張り、人の波をかき分けていく。


  辿り着いたのは、喧騒が嘘のように静まり返った一角。

 そこには豪奢な身なりの貴族たちが佇んでいた。


(ここって……貴賓席?)


 警護の騎士たちが道を塞ごうとするが、ティオちゃんが何かを囁くと、彼らは即座に直立不動で道を開けた。

 ……その身なりから予感はしていた。彼女たちはきっと、身分の高い――貴族の子なのだ。

 一般人――それも孤児である私など、本来なら足を踏み入れることすら許されない場所。


 けれどティオちゃんはそんなこと気にも留めず、私を隅っこへと連れて行き、ようやく息を吐いた。


「ふー。ここまで来れば一息つけるかな」


「……あの、ティオちゃん……いえ、ティオ様。私を呼んだ理由を、お聞かせいただけますかぁ?」


 いつも通りに言いかけ、反射的に敬称を使うと、ティオちゃんは『うわっ』という顔をして眉を寄せた。


「……マリア姉に『様』付けされるの、背中がムズムズするんだけど。……まあ、いいや。理由だよね。それは――」


 その時、正午を告げる鐘の音が響き渡った。

 

 地を揺らすような歓声。

 視線の先、王城のテラスに『彼女』が現れる。 本日、十歳を迎える、栗色の髪をしたブラウバルト王国第一王女。




 私は、完全に固まった。




 そこにいたのは。

 柔らかな笑みを浮かべ、民衆を見つめていたのは。

 



 ――よく見知った、ソフィーちゃんの姿だった。




 ――――――――――――――――――




 彼女たちが言いたかったことは、すぐに理解できた。

 

 お披露目を終えれば、もうかつてのように城外を歩き回ることはできない。

 ……いや、今まで王城から抜け出していたこと自体、異常すぎる事態なのだけれど。



 家名を名乗らなかった理由も、初対面の警戒心も――――そこまで警戒していたっけ?……のも合点がいく。

 ただ、今までの彼女達の行動力を見るに、きっと許可なく王城を抜け出していたのだろうけど。

 追手がいままでいなかったことを考えると、城内に協力者がいるのは間違いない。


 もともと身分が違いすぎたのだ。

 二度と会うことはない。


 そう自分に言い聞かせても、足は無意識にあの小屋へと向かっていた。

 もう会えないと分かっているのに、何故かそこに行けば彼女達がいるような気がして――――。



「あ、マリア姉。やっと来た」


「遅いですよ。何をしていたのですか」



 ――――なんか、いた。



「…………はぇ?」


 人生で一番間抜けな声が出た。


 幻覚かと思い、頬を抓るが消える様子はない。

 目を見開いて凝視するが、逃げ出す様子もない。


 間違いなく本人たちだ。


「いや……え……なんでここに?…… もう来られないんじゃ……あれ……?」


 呆然と立ち尽くす私に、二人はニヤリと笑う。


「いや、確かに私『たち』とは言ったけど、来れないのはソフィーだけで、私は今まで通り来られるし」


「さすがに私は今後来れませんが、今回だけは大事な話があったので、王城の外壁を乗り越えて脱走してきました」


「あー……それならば……え!?脱走!?今、王城から脱走って言いました!!?」


 それは間違いなく城中が大騒ぎになっているはずだ。

 なのに何でそんな風に笑っていられるのか全く理解が出来ない。


「ええ、二度目はないでしょうが、今回だけは見逃してもらいましょう。大丈夫ですよ。城へ戻った後、半日ほどお説教を受ければ済む話ですから」


「そうそう、月に一度の恒例行事みたいなものだから」


「…………ええー」


 正直少し引いた。


 この子本当に、昨日王城のテラスで見たあの王女様と同一人物?

 あのときの姿は、まさに清楚で気品あふれる、王女の鏡のようだったのに。

 もしかして、あれは私の魔眼が生み出した幻だったのだろうか?


「ま、それは本当にどうでもいいのです。以前からティオと話し合ってはいたのですが――」


「まどろっこしいのは好きじゃないから単刀直入に言うよ?――マリア姉、ソフィー付きのメイドになってくれない?」


「…………はい?」


 思考が停止した。

 どうやら私の耳は馬鹿になったらしい。

 魔法学院に通う孤児の私が、王城勤め――しかも王女付きのメイドになってくれなんて――。


「……ふふ、すみません。ちょっと耳の調子が悪いようでぇ。……もう一度仰っていただけますかぁ?」


「ですから、私のメイドになってくださいって話です」


「聞き間違いじゃなかった!?」


 大声を出す私に、『そりゃ、そうなるよね』と頷いた二人は、詳しい説明をしてくれた。


「実はソフィー付きのメイドのおばあさんが、二年後に退職する予定なんだよ。で、その後釜を見つけなければいけないんだけど……」


「今まで私がこうやって、ある程度自由に行動出来ていたのは、その方がこっそりと私の味方をしていてくれたからなのですが。……ほら、昨日のお披露目を見ていたら分かると思いますが、普段の私との差が凄かったでしょう?」


「普通の感性のメイドだと、ソフィーの突発的な行動で精神をやられそうだしね。なにより、これからソフィーはどんどん自由がなくなる。その時、ソフィーの素を知ったうえで、味方をしてくれる人がいると助かるんだ」


 それを聞いて納得をしてしまった私がいた。


 仕えるべき王女が忽然と姿を消したら、普通のメイドなら血の気が引くどころの騒ぎではないはずだ。

 しかもそれを頻繁にとなると、それは精神を病んでもおかしくない。

 ソフィーちゃんを見るに、説教も全く堪えていない様子だったし。


 ただ一つだけ、最も疑問に思うことがある。


 ―――それは。


「…………何故、私なのですか?確かに私はソフィーリア様の、外での姿を知っていますが……それでも、王城には大勢のメイドがいるはずです。一人ぐらいは、条件に合う人がいるのでは……?」


 その問いに、二人は声を揃えて答えた。



「そんなの、マリア姉よりふさわしい人がいないからだよ」

「そんなの、マリアのお姉さんよりふさわしい人がいないからですよ」



 呼吸が止まる。


「それにお姉さんの様子を見ていると、まだまだ一人にはさせられませんからね。だから私達が傍にいてあげます。その代わり、私達のことを支えてください。――結構切実に!」


「こう言っちゃなんだけど、ソフィーを一人にしておくと城の騒ぎが凄いことになるよ?私だと、余計に被害が悪化するかもしれないし。寧ろ、私のこともついでに助けてほしい!」


 能力を、そして『私』という人間を必要としてくれる言葉。


 そもそも私は、この王都へ友人を探しにやってきたのだ。

 そして、そのために能力を磨いてきた。


 ――その結果、友人が出来ないという悪循環に陥ったわけだが。


 しかし、その磨いてきた私の能力が、彼女達の役に立つのならば――少しでも恩を返せるのなら。


 そう答えようと、口を開きかけた瞬間、二枚の紙が突きつけられた。


「はい、これ。王立メイド訓練校の入学届けと、魔法学院の退学届け……あ、詳しく聞いたことなかったけど、この辺で会うってことは、マリア姉、魔法学院の学生だよね?これであってるよね?」


「さあ、さっさとサインしてください。帰りがけに提出してきますから」


「は、はいぃ!!?」


 返事をする前に入学・退学の手続きを済ませようとする暴挙。


 二人は『ハリー、ハリー!』と煽ってくる。

 ここまでくるともはや乾いた笑いしか出てこない。

 確かにこれは、まともな神経のメイドでは務まらない。


 ……本当に貴方達は、誰より思いやりがあるのに、誰よりも勝手で。


 でもこれが彼女達らしいと言えば、彼女達らしい。

 だって、そんな貴方達だからこそ私は救われたんです。

 私は笑みを浮かべた。


(……望むところです。あいにく私自身――まともな神経とは言い難いので)



「……分かりましたぁ。その話、謹んでお受けいたしますぅ」


 その返事に諸手を上げて、彼女達は喜びの表情を浮かべる。


 私は彼女達に急かされて、運命の書類にペンを走らせた。

 もうこれで、私の道は完全に決まった。

 後悔はない


 そんな中、ソフィーちゃんが思い出したとばかりの表情してこちらへと振り返る。


「あ、そうでした。一つ言い忘れたのですけど、いきなり私付きのメイドとなると周りが煩いです。なので、メイド訓練校を首席で卒業してください。結果で黙らせるんです。そうすれば後は私がごり押しでねじ込みます」


 それは普通、サインをしてから言うセリフではないですね。

 ……まあ、問題ありませんが。


「あ、それとマリア姉、学費のことなんだけど――――」


「問題ありません。特待生(主席)で入学して、主席で卒業すればいいだけですのでぇ」


 私の言葉に、二人は目を丸くする。

 そしてそのあと、満面の笑みを浮かべた。





 ――二年後の春。王城。


「マリアメア=シルヴァランスと申します。よろしくお願いいたします。()()()()()()()


 メイド服に身を包んだ私を見て、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「こちらこそよろしくお願いします。――()()()


 こうして私は、再び運命と再会した。

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は明日、3月22日(日)20時50分になります。

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