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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第五章 ゲーム攻略・合流編【フィッシングゲーム】

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042 回想・マリアメアside ~私が見た光 中編~

 私は生まれて初めて、同年代――というには少し年下だが、そんな少女たちと向かい合って座り、会話をしていた。


 さっきまで取っ組み合いの喧嘩をしていた二人を引き離すのは少々骨が折れたが、見知らぬ私への対応が先と、今は一時的に矛を収めてくれたようだ。


 最初は二人とも私を警戒していた。

 けれど、ここに来た経緯を話すうちに、少しずつ警戒が解けていく。

 私も、初めて『魔眼』を恐れない子たちに出会えたことが嬉しくて、つい自分語りをしてしまった。

 この目を恐れない友人を探しに王都へやってきたこと。孤独だったこと……。

 冷静になると、年下の子たちに人生相談をしているようで、無性に恥ずかしくなってくる。


 しかし、二人は私の告白を真剣に聞き、むしろ魔眼の話になると、興味津々といった様子で身を乗り出してきた。

 まさかそんな反応をされるとは思わず、私は思わず体を逸らして距離を取る。


「あ、あの……二人は、私のことが怖くないの……?」


 あまりの勢いに、私はずっと抱えていた問いを投げかけた。

 すると少女二人は顔を見合わせ、なんてことない風に答えた。


「いや、別にそんなことはありませんけど。ソフィーは?」


「私も何も感じませんね。ただのお姉さん、としか」


 キョトンとした表情で、私が生まれてから一番欲しかった言葉をくれる二人。

 その瞬間、ずっと昔に枯れたはずの涙腺が、じわりと熱くなった。


(……ようやく、見つけた……)


 涙がこぼれるのを悟られないよう、私は慌てて顔を伏せる。

 今すぐにでも声を上げて泣き出したい気分だったが、見知らぬ年上の女がいきなり泣き出したら、彼女たちも困るだろう。

 私は必死にこらえた。


「あ、でも」


「ええ、そうですね」


 ――すると、彼女たちが何かに気づいたように声を上げ、




「「お姉さん、顔は普通に怖いかも?」」




 この日、私は知ることになった。

 時に悪意ある言葉より、無垢な言葉の方が殺傷力が高いのだと。


 私は泣いた。




 ――――――――――――――――――




 初めて会った日に大泣きし、年下に慰められるという一生モノの醜態をさらした私だったが、寮に戻ってから激しい後悔に襲われた。

 ……彼女たちの名前も、何も聞いていなかったのだ。


 翌日、日の出とともに寮を抜け出した私は、小屋の前でじっと座り込み、彼女たちが来るのを待つことにした。手がかりはここしかなかったから。

 けれど、その日彼女たちが現れることはなかった。


 そのまま座り込み続けること、三日。

 連れ立って現れた二人の姿を見た瞬間、私は安堵のあまり、またしても号泣してしまった。

 あの時の二人の驚いた顔は、今でも記憶に焼き付いている。


 その日、落ち着きを取り戻した私に、二人は色々なことを教えてくれた。


 今は誰も使っていないこの小屋を秘密基地にしていること。


 毎日来ているわけではなく、普段は一週間に一度くらいだということ。


 家名は言えないが、名前なら教えられるということ。


 ――そして、私もここへ来ていい、ということ。



「……本当に、私もここへ来ていいの……?」


 おそるおそる問いかけると、二人はニッコリと笑って声を揃えた。


「「もちろん! だって友達だから!」」


 それは、私が一番欲してやまなかった言葉だった。

 

 再び号泣する私を見て慌てる二人。

 けれど、私の口元はわずかに微笑んでいた。

 これが、私が生まれて初めて笑った日だった。




 ――――――――――――――――――




 それから、私は毎日のように森の小屋へ通うようになった。

 彼女たちが来ない日も多かったが、それでもここは、私にとって特別な場所になったのだ。


 少しでもこの場所を大事にしたい。

 そう考えた私は、廃墟同然だった小屋の修繕を始めた。

 小屋全体を掃除し、穴の開いた床板を張り替える。

 学院の授業が終わると、寮の門限ギリギリまで作業に没頭した。

 

 そして一週間後。

 やってきた彼女たちの前にあったのは、見違えるほど綺麗になった小屋だった。


「「えええええぇぇ!!?」」


 目を見開いて絶叫する二人。


 事情を話すと、『すごい、すごい!』と手放しで褒めてくれた。

 あの笑顔を見られただけで、頑張った甲斐があったというものだ。


 その後も、小屋の細かい修理をしたり、お菓子を焼いて持っていったり、ティオちゃんの魔道具制作を手伝ったりした。

 ここはもともと、彼女が家族に隠れて作業をするために、ソフィーちゃんと秘密基地にしたらしい。


「マリアのお姉さんってすごいですね。城のメイドでもここまでは……痛たっ!……知り合いのお手伝いさんより、ずっと手際がいいです」


 ソフィーちゃんが褒めてくれる。

 途中、何かを言いかけてティオちゃんに頭を叩かれ、慌てて言い直していた。

 どうやら彼女たちにも内緒にしたい事情があるようだが、深入りはしない。

 ここでは素性を深く聞かないのが、暗黙の了解になっていたから。


 そんな生活が数ヶ月続いた頃、私の周囲に変化が起き始めた。

 ほんの数人ではあるが、学院内で私に話しかけてくる人が現れ始めたのだ。


 そのことを二人に話すと、彼女たちは嬉しそうに笑った。


「だってマリア姉の顔、初めて会った時に比べて、すごく優しくなったよ?」


「今の顔なら、怖いなんて言いませんでしたよ」


 その言葉で、私は初めて自分の変化に気づくことができた。

 険しく濁っていたはずの目が、ずいぶんと穏やかになっていることに。

 そして、それは心も同じだった。

 おかげで『威圧の魔眼』の効果も、かなり抑えられているようだ。


  味方がいない環境で、神経を尖らせていた頃は気付けなかったが、魔眼というのは感情の波に大きく左右されるらしい。

 彼女たち友人を得たことで精神が安定し、その良い影響が表れているのだろう。


「ていうか魔眼って、目と目を合わせるのが一番効くんでしょ? だったら、瞳が見えにくいようにすれば? 元々マリア姉って目が細いんだし」


 ティオちゃんが目を細めて実演してみせる。


「ぷっ。貴女がやると間抜けさが際立ちますね」


 始まった取っ組み合いを、私は慣れた手つきで引き剥がす。


「それよりも、もっと柔らかい雰囲気を出したらどうですか? こう、微笑みながら『こんにちはぁ』って、おっとり話すとか」


 ソフィーちゃんが口角を指で持ち上げて見せる。


「ふはっ。ソフィーがやると頭の悪さがにじみ出るね」


 再び始まる喧嘩。

 

 私は慣れた手つきで二人を引きはがす。

 毎回対応しているため、もう慣れたものだった。


 お互いが口を開くたび、取っ組み合いが始まるような二人だが、それでも険悪な雰囲気はなく、毎回一緒に行動している。

 これが『けんかするほど仲が良い』というものなのかもしれない。

 そんな彼女達の関係が、私にはまぶしく映る。


 とりあえず私は、彼女達たちの提案を試してみることにした。


「お二人ともぉ、落ち着いてくださいねぇ」


 目を細め、薄く微笑んでみる。

 すると、二人はポカンと口を開けて固まってしまった。

 そして、指を差しながら同時に叫んだ。


「「……すごい。野生の虎が、まるで飼い猫のように見える!」」



 私はホロリと涙を流した。




 ――――――――――――――――――




 その後、私は彼女たちの提案に従って行動した。

 目つき、口調、そして心の平穏。


 その効果は抜群だった。


 初めは遠巻きに眺めていた人たちが、一人、また一人と声をかけてくれるようになったのだ。

 ようやく私は、クラスメイトとして普通の関わりを持てるようになった。


 それは、実は簡単なことだったのかもしれない。

 心穏やかに、笑いながら話しかける。

 ただ、今までの私には、それができる環境がなかっただけなのだ。

 私を『友人』と呼んでくれた彼女たちがいたから、私は変われた。


 まだ制御は完璧じゃないけれど、いつか普通の人生を歩める日が来るはずだ。

 ……残念ながら、動物たちには私の擬態が通用せず、野生の勘で逃げられてしまうけれど。


 私はこれからも、彼女たちと共に歩んでいきたい。

 この大きな恩を返しながら。




 そして年が明け――私は人生の岐路に立つこととなる。




「……申し訳ありませんが、私たちはもう、ここへと来ることができません」



 その言葉と共に。

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は、3月21日(土)20時50分になります。

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