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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第五章 ゲーム攻略・合流編【フィッシングゲーム】

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041 回想・マリアメアside ~私が見た光 前編~

 『化け物の子』


 おそらく、私が子供の頃に最も聞き慣れた言葉だ。


 物心ついた時、私は孤児院にいた。両親の記憶はない。

 生後間もなく孤児院の前に置き去りにされていたという話は、嫌というほど耳に入っていた。


 理由は、想像できる。

 きっと私のこの『目』が原因だろう。


 私には、友人と呼べる存在が一人もいなかった。

 皆、私を恐れて近寄ってこないのだ。

 どうやら『威圧の魔眼』と呼ばれる私の目の効果らしく、目が合った子は例外なく、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


 そんな状態ではあったが、孤児院を追い出されなかっただけマシだったのかもしれない。

 私はただ一人、離れの部屋でポツンと暮らしていた。

 話しかける相手は誰もいない。

 子供たちは当然として、動物や虫といった生物全般が私を避けていくからだ。


 幸いだったのは、嫌がらせの類がほとんどなかったこと。

 私に悪意を向けようとした者も、私の目を見た瞬間、恐怖に震えて逃げ出してしまう。

 それだけはこの目があって良かったと思う。

 

 ……もっとも、この目がなければ、こんな境遇にはなっていなかったのだけれど。


 そして月日は流れ、十一歳になった頃。

 私は魔眼について、一つの事実を知ることとなった。


 文献によれば、『魔眼とは相手に作用する幻覚魔法の一種であり、魔力抵抗が高い──即ち魔力保有量が多い人間には効きづらい』という。


 それを読んだ私は、暗闇の中にわずかな光を見た気がした。


 ────王立魔法学院。


 国中から集められた魔法のエリートたちが通う、最高峰の学院。

 そこになら、私の魔眼を跳ね返せる人たちがいるはずだ。

 もしかしたら、魔眼を封じ込める方法だって見つかるかもしれない。


 私は、学院に関するありとあらゆる情報を集め始めた。

 入学条件、そして何より、学費の問題。

 孤児院が金を出してくれるはずもない。

 普通に考えれば、私の境遇で入学など夢のまた夢だ。


 しかし、一つだけ特例を見つけた。

 

 『特待生制度』──。


 王立魔法学院の試験において、主席合格者の学費を全額免除するというもの。


 入学年齢は十三歳。まだ二年の猶予がある。

 その日から私は、必要と思われる全ての知識と技術を吸収するために動き出した。


 孤児院の数少ない書物を読み漁っての猛勉強。

 体力作りから、近接格闘。

 その他、あらゆる自己研鑽。


 それまで部屋の隅で過ごしていたから気づけなかったが、どうやら私は『天才』と呼ばれる(たぐい)の人間だったらしい。

 身に付けようとしたものは、全て砂が水を吸い込むように覚えていった。

 何よりも『魔法を操る才能』が飛び抜けていた。

 誰に教わることもなく、たった一度で魔法を発動させる。

 それは客観的に見ても異常な才能だった。


 一年が過ぎる頃、私はほぼ全てにおいて『完璧』となっていた。

 魔法の操作精度は、目をつぶりながら針の穴を通すレベルにまで仕上がった。


 ただ、一つだけ懸念があった。

 私は、初級魔法を二発以上、続けて発動することができなかったのだ。

 だが、学院の実技試験で重視されるのは『精密な制御』だ。魔力量は関係ない。


「大丈夫、上手くやれるはず」


 そう心に誓い、私はさらなる努力を積み上げていった。


 この時、私は決定的なことを見落としていた。

 孤児院の子供たちが私を避けていたせいで、変化に気づけなかったのだ。


 彼らの視線が、かつてよりさらに重く──まるで、正体不明の怪物に怯えるようなものに変質していたことに。




 ―――――――――――――――――――――




 十三歳の春。

 私は講堂の壇上に立ち、整列した二百人の新入生を前に目を伏せていた。

 主席合格者による、代表挨拶のためだ。

 私は無事、過去最高得点を塗り替える成績で、主席の座を掴み取っていた。


 目の前にいるのは、王国中のエリート。

 つまり、この国で最も魔力に優れた者たちだ。

 学院の制服に身を包み、私は期待に胸を膨らませていた。


(やっと、ここまで来た。これでやっと、私の手を取ってくれる人に出会える……)


 私はただ、友達が欲しかった。

 話しかければ笑顔を返してくれて、手を取ってくれる。

 そんな誰かに出会うために、血の滲むような努力をしてきたのだ。


 大きく息を吐き、私は伏せていた視線を上げた。 講堂の皆を見据えて──。




 ────そして、希望は絶望へと変わった。




 私と目が合った全ての新入生の顔に、『恐怖』が張り付いていた。

 この国のトップクラスをもってしても、私の魔眼は無効化できなかったのだ。



 後で知ったことだが、魔眼とは『掛け算』なのだという。


 例えば『魅了の魔眼』の持ち主がいたとする。

 本人の魅力が『10』なら、魔眼の補正で『20』になる。 だが、本人の魅力が『100』なら、その効果は『200』へと跳ね上がる。


 私の『威圧の魔眼』が増幅させるのは、私に対する『恐れ』だ。

 あらゆる事柄を完璧にこなし、歴代最高得点で入学した少女は、彼らの目に『得体の知れない人物(バケモノ)』として映った。

 さらに、孤独な環境で育った私の目つきと空気は、知らず知らずのうちに刃の様に鋭くなっていた。


 何より、私の魔眼は通常とは桁が違う『特級』クラスの代物。

 歴史上、類を見ない倍率を持つ魔眼が、歴代最高レベルの天才に備わってしまったのだ。

 仮に『1000』に『1000』の補正が入ったとすれば?

 それはもはや、『災害』。

 子供の頃とは、すでに別の次元へと変貌していた。


 皮肉にも、魔眼の耐性持ちと出会うために重ねた努力が、魔眼の効果を遥かに強力にしてしまうという、残酷な矛盾を生み出していたのだ。




 ────私は、学院に入学した意味を見失った。




 ―――――――――――――――――――――




 それからの私は、心を閉ざした二年前の状態に逆戻りしていた。

 いや、中途半端に希望を抱いた分、当時よりも酷かったかもしれない。

 瞳はさらに濁り、表情は険しくなっていく。


 入学してひと月も経つと、私の『魔力量が極めて少ない』という事実が広まった。

 そうなれば当然、そんな者が主席にいる状況に不満を持つ人間が現れる。


 向けられる悪意。

 だが、誰かが敵意を向けるたび、私の魔眼はそれに反応して威力を増す。 最悪の負のループ。

 いつしか私は、『触れてはならない怪物(アンタッチャブル)』と呼ばれるようになった。


 全てに絶望した私は、惰性で学院に通いながら、心が冷たく凍りついていくのを感じていた。


 ある日、人の視線に耐えきれなくなった私は、王都の外れにある森へと足を運んだ。

 誰の視線もなく、何の気配もしない静寂。

 森の生き物たちは私の気配に怯えて逃げ出し、正真正銘、私一人きりだ。


(……静かね。誰も、近寄ってこない……誰一人として……)


 もしかしたらこの時、死に場所を探していたのかもしれない。

 それほどまでに心は折れかかっていた。


 森を彷徨っていると、廃墟のような粗末な小屋が現れた。かつての管理小屋だろうか。

 ぼーっとそれを眺めていると、中から声が聞こえた気がした。


(……こんなボロボロの小屋から人の声?)


 不審人物かと思ったが、よく聞けば子供の声のようだ。

 『こんな場所は危ない』と声をかけようとしたが、すぐに思い直す。

 私が近づく方が、子供にとってはよほど恐怖だろう。


 立ち去ろうと、踵を返したその時。


 ──ドォォォォォン!!


 小屋の中で爆発音が響いた。

 驚いて振り返ると、二人の子供が文字通り『転がり出てくる』のが見えた。

 私より四、五歳下だろうか。地面に倒れたまま動かない。


(まさか、大怪我を?)


 私は魔眼のことなど忘れ、咄嗟に駆け寄ろうとした。


 しかし、足を踏み出すより早く、子供たちは勢いよく跳ね起き、そして、互いの胸ぐらを掴んで喧嘩を始めたのだ。


「ちょっと!?貴方の作った魔道具、魔力を込めたら爆発したじゃないですか!?私を殺す気ですか!?」


「私は未完成だからやめろって言ったでしょ!試作品を壊しておいてその言い草は何!?」


 掴み合い、地面を転げ回りながら怒鳴り合う、青色の髪と栗色の髪の子供。

 いきなりの光景に、私は手を伸ばしたまま立ち尽くす。

 すると、子供たちは私の存在に気づき、顔をこちらに向けた。


 じっと、目と目が合う。

 そして数秒の沈黙。


 だが、子供たちはすぐに視線を外すと──何事もなかったかのように喧嘩を再開した。


「ほらぁ!貴方のせいで知らないお姉さんに、みっともないところを見られたじゃないですか!」


「人のせいにしないでよ!あなたがみっともないのは普段通りじゃない!」


「えっ、えっ?」


 ほっぺたを引っ張り合う二人。

 私はどうすればいいか分からず、右往左往してしまう。

 人との関わり方は一度も経験したことがなかった。

 天才と呼ばれようと、知らないことは出来ないのだ。


 混乱する頭で、私はある『重大な事実』を失念していた。


 この子供たちが、至近距離で私の『目』を見つめながら、平然としていたこと。

 学院のエリートたちが屈した魔眼を、無反応で受け流したこと。


 それが何を意味するか。

 

 もし、彼女らが学院の生徒すら及ばない──規格外の魔力の持ち主だったなら。



 マリアメア、誕生日を過ぎ十四歳。

 この日、私は長く深い付き合いとなる、おかしな二人の子供と出会った。

読んでいただきありがとうございます。


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次回投稿は明日、3月15日(日)20時50分になります。

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