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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第五章 ゲーム攻略・合流編【フィッシングゲーム】

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037 【爆釣王】その1 ~第四のゲーム攻略開始~

 店の奥にある休憩スペース。俺たちは円卓を囲み、これまでの経緯と現在の状況をかいつまんで説明した。

  残念ながら、俺たちはこの世界に来たばかりで、ゲーム内通貨の持ち合わせがまったくない。

 仕方なく、俺は肩掛け鞄から自前の飲み物を取り出して全員に配った。


 聞けば、マリアさんは昨日からまともな食事を摂っていないという。俺は鞄から取り出した【サンドイッチ】も一緒に差し出した。

  なぜかソフィーさんも便乗して食べ始めたが、俺の記憶が確かなら、彼女は三十分前に食事を終えたはずだ。その細い体のどこにそれだけの収納スペースがあるのだろうか。


「……なるほどぉ。つまり今の私達は章介様のパソコン内に閉じ込められていてぇ、ここから拠点へ移動するためにはぁ、爆釣杯(ばくちょうはい)で優勝する必要があるとぉ」


 食事を終えたマリアさんは、難しい顔で考え込んでいた。

 やがて顔を上げると、二人に申し訳なさそうな視線を向ける。


「……お二人ともぉ、申し訳ありませんが私は邪魔にしかなりません。大会の優勝はお任せすることになってしまいますがぁ……」


「気にしないでよ、マリア姉。大丈夫、こっちにはソフィーがいるから。大船に乗ったつもりでいてよ」


「そうですよ、そんな顔をしないでください。いつも私たちが貴方にかけている迷惑に比べれば、可愛いものじゃないですか」


 三人のやり取りを眺めながら、島で聞いた話を思い出す。

  マリアさんは自らを『邪魔になる』と言った。

 やはり、二人が危惧していた通り、この釣りゲームを攻略する上でマリアさんには致命的な『何か』があるらしい。


 マリアさんは困ったように視線を彷徨わせていたが、水晶()と目が合うと『あ』と小さく口を動かしたが、どうやら、何も言わない俺の様子から事情を察したらしい。

 彼女は小さく溜息を吐くと、二人をチラリと伺い、柔らかく微笑んだ。


「……章介様の様子で何となく分かりましたぁ。このゲームの攻略にあたって、私の話をしたのですねぇ? おそらくお二人は私の許可なく詳しくは話せないと仰って、説明をぼかした。そして章介様は、そんな足りない説明でも納得してくれた……といったところですかぁ?」


 その言葉に、俺たちは三人揃って目を見開いた。

 ――正解だ。ほぼ完璧に言い当てられた。


「……マリア姉、なんでそこまで分かるの?」


「今、章介さんは一言も発していませんでしたよ?」


 戸惑う二人に、マリアさんは笑みを深めた。


「分かりますよぉ、お二人との付き合いも長いですからぁ。……ただ一つだけ、よく分からないことがあるのですがぁ。何故お二人は先程からぁ、私の顔を見るたびに少し怯えたようになるのですかぁ?」


 二人はそっと目を逸らした。


  それはあれだ、つい二時間程前までのトラウマが消え去ってないせいだ。

  それに『二人揃ってマリアさんを恐怖の化け物として召喚した』なんて、本人には死んでも言いづらいだろう。


 マリアさんはしばらく頭上に疑問符を浮かべていたが、今は説明が先だと判断したのか、表情を真面目なものへと戻した。


「話を戻しますがぁ、私はこの釣りゲームにおいて完全に足を引っ張ってしまいますぅ。お二人は気を使って伏せていたようですがぁ、理由は単純明快ですぅ。……それは」


 マリアさんは細めていた目を見開き、その蒼い瞳を露わにした。


 その瞬間、俺の背筋をゾクリと鳥肌が駆け抜けた。

  相変わらず、無茶苦茶に怖い。心臓を直接素手で掴まれるような感覚だ。

 案の定、ティオとソフィーさんも短い悲鳴を上げていた。


 あの目を向けられて怒られたら、それだけで土下座をしてしまうな――そんな考えが過ったところで、ある違和感に気づく。


(……待て、今マリアさんは怒っていたか?)


 水晶越しに俺の困惑が伝わったのか、マリアさんは薄く微笑むと、再び静かに目を閉じた。

 それと同時に、俺を襲っていた暴力的なプレッシャーが霧散する。


「今、章介様も感じたと思いますが、理由は私の目ですぅ。所謂【魔眼】と言われるものでぇ、私の目は【威圧の魔眼】。野生の生き物は本能的に私を恐れ、半径百メートル以内に近寄ってきません」


 驚きと共に、これまでの現象のすべてが一本の線で繋がった。

 しかし同時に、このゲームとの()()()()()()()()()()()()に戦慄する。


「……ってことは、まさか……?」


 マリアさんは申し訳なさそうに、少し引きつり気味の苦笑いを浮かべて頷いた。


「……章介様が想像している通りですぅ。私が傍にいると、魚が物理的に釣れなくなるんですよぉ」


 ――そりゃ釣りが苦手なはずだ。

 釣り場に魚が一匹もいないなら、針を垂らしたところで物理的に釣れるはずがない。ティオたちが危惧していたのは、このことだったのか。


 だが、マリアさんの能力は脅威ではあるが、今の時点では大きな問題ではないはずだ。

 近付くと逃げるというなら、近付かなければいい。

 大会はソフィーさんを中心に任せて、マリアさんはここで待機していればデメリットはゼロだ。


「そういうことですか。なら大会は俺たちに任せてください。ソフィーさんは釣りが得意なようですし、サクッと優勝してきますんで」


「そうそう、マリア姉はゆっくり休んでて。私たちがどうにかしてくるから!」


「そうです。せっかくの海なんですから、のんびりしていてください」


「……改めて申し訳ありませんがぁ、よろしくお願いいたしますぅ。私はここで待機しておりますのでぇ、手伝えることがありましたら是非声をかけてください」


 深々と頭を下げるマリアさんに、俺たちは力強く応えた。


「「任せて!」」

「任せてください!」



――――――――――――――――――――――――



 飲食のゴミを片付け、俺たちは休憩スペースを後にした。

 大会受付のカウンターへ戻ると、マリアさんの代わりの店員が立っており、ソフィーさんは自信満々に声をかけた。


「すみません、爆釣杯(ばくちょうはい)への参加登録をお願いします!」


「はい、大会への参加ですね。お名前を教えていただけますか?」


「ソフィーリア=シルク=ブラウンロードです!」


 ソフィーさんの声は弾んでいた。

 このゲームに入った時から、彼女はいつもよりテンションが高く、よほど釣りを楽しみにしていたようだ。

 

 手元の攻略情報には、魚の回遊ルートや穴場スポットが網羅されている。

 これにプラスして、ティオのお墨付きがあるソフィーの腕前なら、今回の攻略はそこまで苦労しないはずだ。

 前回の死線に満ちたゲームと比べれば、今回は平和そのもの。少しだけ気持ちが楽になる。


 しかし、ソフィーさんの登録を待っていると、PCを使い受付登録を行っていた受付の女性の手が不自然に止まった。


「……申し訳ありませんが、あなたには大会参加の資格がないようです。受付をすることができません」


「えっ……? ど、どういうことでしょうか?」


「言葉の通りです。あなたには『主人公の資格(オーラ)』がないのです」


「オーラ!?オーラって何です!?」


 食い下がるソフィーさんに対し、女性は『資格がない』の一点張りで取り付く島もない。

 困り果てたソフィーさんが水晶()をチラリと見る。しかし、俺も困惑していた。

 

 爆釣杯への参加資格がないっていうのはどういう意味だ?

 ゲームプレイヤーなら誰でも参加は自由なはずだ。何でソフィーさんは登録できない?


 ……いや、待てよ。『ゲームが始まらない』という状況、以前にも……。



 ――まさか。



「……ティオ、試しにお前も登録してみてくれるか?」


 俺は心臓を冷たい手が撫でるような予感を抱え、ティオを促すが、彼女も俺と同じ仮説に行き着いたようで、顔色を悪くしている。

 ティオは『どうか思い違いでありますように』と祈りながら、大会登録を申し出た。


 が、返ってきた答えは非情なものだった。


「申し訳ありませんが、あなたにも参加資格がありません」


 ティオが青ざめた顔で水晶()を仰ぎ見る。

 その視線を受け、一縷の望みをかけて水晶()はふわりと受付の前に移動した。


「……武田章介です」


 水晶から声がするという怪現象に、受付の女性は驚愕して目を見開くが、それでも慌てて名前を照合してくれた。

 しかし――。


「参加資格がありません」


 その瞬間、ソフィーさんも俺たちと同じ答えに行き着いたようだ。絶望の表情で、視線を『ある人物』へと向けた。

 俺とティオも、錆びついたロボットのようにそちらを向く。


 ――三人の視線の先にいたのは、顔色を青くして立ち尽くすマリアさんの姿。


 重苦しい沈黙が流れる。

 やがてソフィーさんが意を決したように、震える声で受付へ尋ねた。


「あ、あの……『マリアメア=シルヴァランス』……という名なら、登録できたりしますか……?」


「少々お待ちください」


 受付の女性が淡々とキーボードを叩く音が、静まり返ったロビーに響き、四人の視線がその手元に釘付けになる。全員の顔色は、すでに土気色だ。

 やがてタイピング音が止まり、受付の女性がニッコリと、満面の笑みをこちらへ向けた。


「はい、大丈夫です! それではマリアメア=シルヴァランス様を『爆釣杯(ばくちょうはい)』へエントリーさせていただきますね。頑張ってください!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺たちは揃って天を仰いだ。


 そうだ、今までのゲームで気づくべきだった。

 この異世界ゲームの攻略プレイヤーは、いつだって()()()()()()()()()で決まっていたことに。


【恐怖の彷徨う館】では、最初に入ったソフィーさんが一人目の、次に入ったティオが二人目の主人公扱い。


【ブロート3】ではティオ。あの時、俺がプレイヤーになれたのは、俺がティオの『必殺技』扱いで、一時的に操作権が移ったからに過ぎない。


【無人島ライフ】では、ティオに持ち込まれた水晶()に主人公判定が入ったため、俺の操作が可能になっていた。


 そして【爆釣王(ばくちょうおう)】は、一人用のゲーム。当然、主人公枠はたった一つ。

 つまり、一番最初にこのゲームのエリアに足を踏み入れた人物が、唯一のプレイヤーになる。



 そして今回、その条件に該当するのは――。



(……っていうか、物理的に魚が逃げ出す体質で、どうやって大会に優勝しろっていうんだよ!?)


 次々と襲いかかる想定外の連鎖に、眩暈がしてくる。

 隣を見れば、ティオとソフィーさんは虚空を見つめたまま魂が抜けたような顔をしていた。

 きっと、彼女たちが言っていた『最悪の事態』の正体はこれだ。


 最後にマリアさんへ視線を向ける。

 いつも慈愛に満ちた微笑を湛えている彼女が、今は見たこともないほど顔を真っ青にして小刻みに震えていた。


 大会が始まる前から、すでに詰みの一手を指されている。

 しかし、どんな絶望的な状況であれ、彼女たちを元の世界へ戻すためにはクリアするしかないのだ。


 俺たちは、おそらくこの世で最も釣りと相性が悪いであろうマリアさんを、爆釣杯(ばくちょうはい)の頂点へと導くために動き出した。



 ――第四のゲーム、攻略開始。

読んでいただきありがとうございます。

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次回投稿は明日、3月1日(日)20時50分になります。

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