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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第四章 ゲーム攻略・合流編【ホラーゲーム】

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035 ティオside 拠点での幕間その3

 私と隣に座るソフィーは、共に苦笑いをしている。


 章介さんの言いたいことは分かる。


 ついさっき攻略したばかりのゲームのように、一つのミスが命に直結しかねないのなら、芽を摘むために情報を集め、対策を練るのは当然だ。

 今ここにマリア姉がいれば、話していいかの確認もできたのだけど……。

 あいにく、これは今の彼女の根幹に関わる話だ。私やソフィーが許可なく話すわけにはいかない。


 ほんの少しだけ空気が重くなったような気がした。


「……あー、そういえば二人とも、そろそろ一時だけど腹は減ってないか?」


 すると章介さんが気を利かせて、話題を変えてくれた。


 時計を見る。

【恐怖が彷徨う館】の攻略を始めたのが午前八時半過ぎ。

 攻略に四時間程かかり、そこから多少の時間が過ぎた結果、現在はあと五分で一時になろうかという時刻になっている。

 途中でソフィーと二人でパンの自棄食いをしていたとはいえ、極度の緊張と激しい運動でカロリーは枯渇していた。

 その事実を思い出した瞬間――。


『『グゥ〜〜〜……』』


 私とソフィー、二か所からステレオで腹の虫が鳴り響いた。

 その音に、水晶から噴き出したような声が聞こえた。


「昼飯の準備をするよ。だからその間に、お前たちは――風呂に入ってこい」


 ソフィーと目を合わせた。


 ……なるほど。非常事態で麻痺していたが、落ち着いてみるとよく分かる。


 今の私たち――相当、臭うな。




 ――――――――――――――――――――




「……くはぁ〜……生き返りますね……」


 湯船に浸かり、ぐにゃりと脱力するソフィー。

 私はその横で全身の汚れを洗い落としていた。


 改めて見ると、酷い汚れだ。

 泥、汗、血。

 その状態で一晩過ごし、さらに今日も埃の中を転げ回ったのだから当然か。


 桶で湯を被ると、ようやく清潔な肌が現れた。

 ふと左腕に視線を向ける。

 本来なら縫うほどの深手だったはずだが、そこには傷一つない肌があった。


「……すごいね。完治してる」


 章介さんにもらった傷薬の効果だ。

 ソフィーの細かい傷も消えている。


 これは章介さんの世界の医療技術というより、ゲームアイテムとしての概念的な効果だろう。


(いやホント、この効果は非常に興味深いね……)


 この傷薬も、四次元的な収納力を持つ鞄も、魔法以上に魔法じみている。

 みんなの無事を確認したら、真っ先に研究対象にしよう。

 この技術を少しでもモノにできれば、魔道具の性能を一段飛ばしで強化できる。


 それに『ゲーム間移動』という手段。

 これも次元間転移のヒントになるはずだ。

 私の発明品とゲーム内の未知の技術。これらが揃えば、元の世界に帰る手段も、数年前倒しで実現できるだろう。

 

 未踏を行く発明。

 そう考えただけで、笑いが抑えきれない。


「ふふ……ふふふふふ……」


「……貴方、女性がしてはいけない顔になっていますよ?人のこと言う前に、 その悪癖、直すべきでは?」


 ソフィーが呆れた視線を投げてきた。

 人呼んで『少しマッドが入っていて怖い』と言われる私の笑み。

 正論だが、彼女に言われると少しイラッとする。


「何度も言うけどソフィーだけには言われたくないよ。いいでしょ、風呂場には私達だけしかいないんだから」


「章介さんに見られたらどうするんですか。間違いなく引かれますよ?」


「…それはまあ気を付けるけどさ。でも多分章介さんなら何だかんだ言いながらも、溜息を吐いて『しょうがない』って言ってくれると思うけどね」


「…確かにそうかも知れませんね」


 ソフィーがクスリと笑った。


「ほら、それよりもちょっと詰めてよ」


 私は立ち上がると、足でグイグイと彼女を追いやる。

 そろそろ私も湯船に入りたい。少し体が冷えてきた。


「ちょっと、止めてくださいよ。狭いじゃないですか」


「しょうがないでしょ、本来一人用の浴槽なんだから。我慢しなさいよ」


 鬱陶しそうに、ソフィーも足で押し返してくるが、私は構わず湯船に浸かる。ギュウギュウだ。

 その私の行動にソフィーは『うへえ』と顔を歪める。

 最近二人きりでもあまり見ないような顔だ。

 子供の頃はよく見た表情だけど。


 私は全く気にしないけれど、あまりその状態に慣れすぎると、元の世界に戻った時修正するのに苦労しそうだ。


「ねえあなた。()()()()()()()が少し外れて、()()()()()()が出て来てきてるよ?」


 私の指摘にソフィーは軽く目を見開くと、両手で自分の頬をムニムニと弄りだした。

 完全に無意識だったみたいだ。


 そしてソフィーが動くと、ただでさえ狭い浴槽が余計に狭く感じてしまい、突き合わせている膝をグイっと押す。


「…いけませんね。気を付けてはいるんですが、どうにも昨日あたりから緩んできているみたいで…」


「まあ昨日からは次から次へと色々あったからね」


「それで最後の一押しになったのは、今日の章介さんの言葉と、化け物百体抜きの一件だと思います」


 ソフィーは溜息をつきながら、膝を押し返してきた。


「元の世界に戻るまでは、ここには私やマリア姉達しかいないから別にいいんだけどさ。章介さんもある程度はソフィーの素に気付いたうえで、気にしないって言ってくれてるんだし」


「私も素で過ごしていいのなら楽で一番いいのですけれど、それが長期間続いた場合、城に戻っても間違いなく元に戻らなくなりますよ?」


「だよねえ。だってあなた子供の頃の性格、()()()()()()()()()()()()()()()()からね」


 ソフィーは初めて会った頃、暴走機関車のような行動力と、人の事情を一切顧みないはた迷惑な性格をしていた。

 ある時私と出会い色々やりあったうえに、ある出来事を通して今のような性格に落ち着いたが完全に矯正しきれなかったため、ソフィーは自分で自分を王女という枠にいれて素の性格が出ないようにしている。


 しかしドラゴン襲来の最前線に立ち、素の性格を親しい男性に当てられた上に肯定され、とどめに呪いの館での大立ち回りを経て、その枠組みは今やガッタガタに緩んでいた。

 元々、抑えきれず偶に暴走する癖があったのに、多分今の彼女はかなり素が出やすい状態になっている。


 まあそれはそれとして、再び膝を押し返した。今度は強めに。


「ふふふ。自分で言うのも何ですけど、元々王族には向いていない性格ですよね」


「いざという時の胆力からくる安心感と、人を鼓舞するカリスマはさすがだと思うけど。資質と性格は別だからね。ソフィーが男だったらまだ良かったんだけど」


「それはそのまま、お兄様じゃないですか」


 ソフィーは笑いながら、かなり強めに膝を押し返してきた。


「っ!…そうだね、性格、胆力、カリスマ。ほぼソフィーを男にしたような方だからね。スケベな暴走をしないソフィーだ、ねっ!」


「いっ!…確かによく似ているとは言われますね。…でも私は破廉恥ではありません、よっ!」


 しばらく膝でゲシゲシと蹴り合っていたが、とうとう足の裏をお互いの胸に押し当て足に力を入れ始めた。


「ぐぎぎ…狭いんだから暴れないでよ…っ!」


「ぐぬぬ…それはこちらの台詞ですよ…っ!」


 狭い浴槽で、全裸の王女と魔道具師が足で押し合うシュールな光景。

 やがて空しくなり、どちらからともなく足を引っ込めた。


「……はあ、無駄な力を使いました。私は先に上がりますね」


「……分かった。私もすぐに上がるから」


 狭い状態から何とか抜け出しソフィーが浴槽から立ち上がる。

 私はその空いたスペースに足を延ばすと、大きく伸びをした。

 そこでふと思い出して、ソフィーの背中に声をかける。


「あ、そうだ。さっきまで着てた服は洗濯したよ。体をきれいにしても、あの汚れた服を着たら意味がないからね。着替えは章介さんから受け取ってるから」


「分かりましたー」


 さっきお風呂へと向かう際、章介さんから受け取っていた着替えのことをソフィーへと伝える。


 Tシャツとハーフパンツという、このゲームにおける主人公が最初に着ている服装だそうだ。

 島の開拓を進めればもっと色々な服装も手に入るらしいけど、今はまだ最初期から入手可能なこれしかないらしい。

 章介さんは謝っていたが、別に私もソフィーも気にはしない。

 触った感じ肌触りはいいし、とても動きやすそうだった。

 むしろソフィーは普段王城で来ているドレスよりも、こっちの服の方が喜ぶ。

 あの子は見た目の豪華さや華麗さよりも、着やすく・脱ぎやすく・動きやすい。本来、機能性を重視するタイプだ。

 下手をすると今後のゲーム内は、全てあの服で過ごしかねない。

 ……マリア姉に怒られなけりゃいいけど。


 湯船に浸かりボーっとしていると、浴室の扉が開き脱衣所から裸のままソフィーが顔を覗かせた。


「どうかしたー?」


 ソフィーへと顔を向けると、少し困惑したような顔をしている。

 何かあっただろうか?


「……あの、ティオ……。下着の替えはどうしましょう……?」


 その言葉に私は『あー』と声を上げた。

 章介さんから上下の服の替えは貰ったけれど、下着の替えは貰っていない。

 ゲームでは服装を自由に変更することは出来るけど、下着までは用意されていないらしい。

 服を脱がなければ見えない以上、下着の選択も出来るゲームはエロゲーぐらいだそうだ。

 少なくとも今この場にはない。

 だから仕方がない。


「しょうがないから下着は今まで付けていたヤツを付けよう。それで次のゲームをクリアして戻ってこれたら、寝る前に洗濯して夜の間に干しておこう」


 できれば下着も交換できれば良かったけど、まだ二日目だ。

 学院時代の野外実習なんて、三日や五日ぐらいならそのまま着っぱなしのときだって普通にあった。

 そこまで気にする必要はない。

 それはソフィーも同じはず。


「…いえ、あの…。…もしかしてティオ、忘れてませんか…?」


 怪訝な顔をするソフィーに、私も怪訝は顔を返す。


 何を言いたいんだろう?

 確かに汗まみれになったけど、転げまわってひどく汚れたのは服だけだ。下着なんてそんなにひどく汚れたりなんて………。


 私はこれ以上なく大きく目を見開いた。


 そうだ、物凄く肝心なことを忘れていた。


 


 呪いの館で私達は、これ以上ないほどに()()()()()()()()




 私の顔色が変わるのを見て、ソフィーも状況を察したようだ。

 彼女も大きく目を見開いた。


「…ソフィー。…下着も洗おう」


 ある意味、普通の汚れよりも汚れていた。


 そして追加情報として私はドラゴン戦で左腕を怪我した時、ドラゴンが左の肩も僅かに掠めていっていた。

 その際、ブラの肩紐に傷が付いて切れかけて、呪いの館でソフィーに突き飛ばされた時の衝撃がとどめとなった。

 そしてソフィーは【早贄(はやにえ)の像】を飛び越えたとき像の先端が背中を掠め、背中のブラのホックが壊れた。


 その結果、何が言いたいかと言うと。


 ソフィーが、絶望を分かち合うように呟いた。


「…………え゛?まさか次のゲームの攻略。………ノーパンノーブラで、ってこと、ですか…?」


 私は、静かに頷いた。

読んでいただきありがとうございます。

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次回投稿は明日、2月22日(日)20時50分になります。

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