表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第四章 ゲーム攻略・合流編【ホラーゲーム】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/44

032 【恐怖が彷徨う館】その8 ~第二・第三のゲーム攻略完了~

 ティオが立ち上がった拍子に放り出された水晶()は、地面に転がったまま、その背中越しに閉ざされた館の扉を見る。


 脱出まであと数メートルというところで起こった、最悪の事態。

 一緒に脱出するはずだったソフィーさんは館の中へと取り残されてしまった。

 しかもゲームオーバーという最悪の状況でだ。


 どうすればいい。

 頭を回すが、一向にアイデアは浮かばない。

 ゲームオーバー状態でのの再攻略など、想定外にもほどがある。


 そもそも、さっきティオが伸ばした手は、見えない壁に弾かれるようにして館の中へ入れなかった。

 扉も固く閉ざされたままだ。

 一度脱出した『ゲームの主人公』は、二度と中には入れない。それがこの世界のルールなのだろう。

 再び中へ入るには、一度ゲームをクリアして最初からやり直すしかない。

 つまり、一度このゲームからログアウトする必要がある。


 しかし、ここで最大の問題にぶち当たった。




 ――エンディングが一向に始まらない。




 つまり、ここから出ることができない。


 通常、主人公が脱出するか死亡するかで幕が引かれるはず。

 ……逆を言えば、これはソフィーさんが未だ無事である証拠でもあった。

 脱出失敗(ゲームオーバー)にはなったが、死亡(デッド)には至っていない。


 だが、それでは物語が終わらずに停滞してしまう。


 状況を整理すると、ティオがソフィーさんを助けに行くためには、救助対象であるソフィーさんが死んでゲームを終わらせなければならないという、最悪の矛盾が生じていた。

 死ななければ助けにいけない。

 まさに八方塞がりだ。


 こちら側から干渉できない以上、ソフィーさんが単独で状況を打破するしかない。

 けれど、ゲームというものは決められた手順でしか攻略できないものだ。

 想定外のルートで好き勝手できるなら、それはただのバグでしかない。


 そして、正規の道筋はすでに塞がれている。


 俺には、ここからどうすればいいのか全く思い浮かばなかった。

 ソフィーさんが最後に言った『脱出の心当たり』というのも、その場しのぎの嘘だったのではないか――そう疑ってしまうほどに。


 しかし、その疑念は振り返ったティオの表情を見て消し飛んだ。


 瞳に、光が灯っている。

 親友の生死に絶望などしていない。

 彼女は、あの言葉を信じ切っていた。


「……ティオ。さっきのソフィーさんの言葉は……」


「いや、章介さんが思っているようなことはないよ」


 俺の不安を遮るように、ティオが言った。


「ソフィーは最後、私を信じてと言った。あの子と私は普段ふざけ合っているけど、いざという時は、私に対して気休めの嘘なんて言わない。だから間違いなく、あの子には脱出経路の心当たりがある。……章介さん、何か心当たりはない?あるとすれば、あなたと一緒に行動したルートのどこかにあるはず」


 ティオは水晶を拾い上げ、俺と視線を合わせるように覗き込んできた。

 どんな些細な情報でも逃すまいとする、真剣な眼差し。


 しかし教えてやりたいのは山々だが、俺にも見当がつかない。

 攻略情報は頭に入っているが、そもそもこの館を『正規ルート以外』で脱出することなど、仕様上は『不可能』なのだ。

 出口となる扉も窓も、すべて閉ざされているのだから。

 

 ……もし、一箇所でも開いている場所があれば話は別だが。





(……待てよ。もしかして……)





 一つの可能性が脳裏をよぎった。


 『脱出可能なルート』ではなく、『外へと繋がる場所』から逆算した結果、浮かび上がった場所。


 外へと繋がってはいるが、脱出は不可能な場所。


 脱出イコール、即死の罠。



「……まさか……あの部屋か……?」


「っ! どこなの!?」


 俺の呟きに反応し、ティオが水晶を握る手に力を込める。

 確証はない。だが、可能性はある。


 俺は一瞬迷ったが、館内でソフィーさんに説明した内容をティオにも伝えた。

 話が進むにつれ、ティオの眉間に深い皺が寄っていく。

 無理もない。おそらく向かっている先が、初見殺しの即死トラップなのだから。


 説明を終えると同時に、ティオは玄関から離れて周囲を見渡し、ある一点で視線を止めた。


「……章介さん、あれのこと?」


 視線の先、敷地の一角に佇む石造りの像。

 上に向かって何本もの鋭い棘が伸びている。


 ――【早贄(はやにえ)の像】。


 一作目のプレイヤーたちを、何百何千、あるいはそれ以上に串刺しにしてきた悪名高い即死トラップ。

 不気味な館内と同等に、濃い血の匂いを振りまく、呪われた像だ。

 そしてその真上にある三階の小窓。あれこそが……。


「……あそこか」


 ソフィーさんが今向かっているであろう部屋を、ティオが睨みつける。


 その部屋から像へと続く外壁には、足場となるような凹凸はほとんどない。

 二階の窓枠にわずか1cm、階層の境目にまた1cm。

 そんな段差がある程度だ。

 とても伝って降りられる造りではない。

 あくまでプレイヤーを殺すためだけのギミックだ。

 仮にあの部屋に辿り着いたとしても、そこから生きて脱出する方法など見当もつかない。


「……章介さん。あそこから降りるためのロープや、代わりになる道具は?」


「……いや。プレイヤーを殺すためだけの場所だ。脱出に使えるアイテムなんて、一つも配置されていない」


 俺の返事に、ティオは『そう』と短く呟いた。


「……ってことはあの子、まさか……」


 ティオの表情がさらに険しくなる。

 ソフィーさんの意図に気づいたのか。問いかけようとした、その時。


 見上げていた小窓が、勢いよく開いた。


 揺れる栗色の髪。――ソフィーさんだ。



 無事だった。



 安堵の溜息が漏れる。


 しかし、その名前を呼ぼうとした、次の瞬間。

 ソフィーさんは、窓を開けた勢いのまま、躊躇なく外へと身を投げた。



「は?」



 何が起きたのか分からなかった。


 落ちれば即死。

 その窓から、彼女の体が落下していく。

 光景が、走馬灯のようにゆっくりと流れた。


 彼女が飛び降りた直後、窓から二組の手が伸びる。

 だがソフィーさんの落下の方が速い。

 追手の指先は、彼女の髪をかすめるに留まった。

 間一髪、危機を逃れたのだ。


 だが、本当の危機はここからだ。

 彼女は死へと向かって落ちている。

 このままでは文字通り、像の棘に串刺しにされ、早贄となる未来しかない。



 ……しかし俺は、この直後に知ることになる。

 館内で見たソフィーさんの身体能力など、彼女の氷山の一角に過ぎなかったのだと。


 彼女たちは生きている人間だ。

 プログラムされたキャラクターではない。


 かつてティオがドラゴンの少女を素手で叩きのめしたように、彼女たちは時に、ゲームの設定そのものを超えてくる。


 俺は改めてその事実を知ることとなった。



 ソフィーさんは壁スレスレを落下しながら、直下にある二階の窓枠――わずか一センチの凹凸に両踵を叩きつけ、勢いを殺した。

 当然、それだけでは止まらない。


 次に彼女は空中で身を翻し、壁に向き直ると、今度は両手の指をその段差に引っ掛けた。

 さらに落下の速度が落ちる。


 指を離した彼女は、一階との境目にある段差に爪先を乗せた。

 そのまま落下の勢いを利用して深く膝を曲げると、全身のバネを使い、壁を思い切り蹴り飛ばす。


 彼女の体が外壁から離れ、綺麗な弧を描いて宙を舞った。


早贄(はやにえ)の像】の先端を、背中越しギリギリに掠らせながら躱し、宙返りしながら体を捻る。


 背面伸身宙返り1/2捻り。

 現実の競技なら、そんな名前が付くだろうか。


 最後に着地の衝撃を逃がすように膝を曲げ、体を丸めると横向きに地面を数回転して、彼女の動きが止まった。


 あまりの光景に、俺とティオは唖然と立ち尽くす。

 ソフィーさんはうつ伏せのまま、ピクリとも動かない。

 まさか、と背中に冷たい汗が流れる。


「ソフィー!!」

「ソフィーさん!!」


 ティオが駆け寄り、彼女を揺さぶる。

 反応はない。


「ティオ!怪我は!?容体はどうなんだ!?」


「……目立った外傷はない!多分、飛び降りた衝撃でどうこうなったんじゃなさそうだけど……!」


 ティオの目には、ある程度状況が見えているようだった。

 だとしたら、別の問題だ。

 ゲームオーバーのペナルティか、あるいは想定外の脱出によるバグか。


 もしそうだとしたら対処の方法が分からない。

 嫌な予感がどんどん膨らんでいく。


「ソフィー!…ソフィー!!!」


 必死の呼びかけが届いたのか、小さな呻き声が聞こえた。


「ソフィー!?」

「ソフィーさん!?」


 慌ててティオがソフィーさんの体を抱きかかえ起こす。

 すると力なく閉じていたソフィーさんの瞼が薄っすらと開いた。


「……う……ティオ……?それに……章介さん……」


「良かった……!大丈夫?どこか痛むところは?体に異変はない?」


「……いえ……特に、怪我は……」


 力のない声。

 意識はあるようだが、呼吸は浅く、額には脂汗が滲んでいる。

 腕もだらりと投げ出されたままだ。


「……ただ……お二人と別れた後の、館内で……うう……」


 ソフィーさんは眉間に皺を寄せ、苦しげに声を漏らした。


 やはり、何かがあったのだ。

 

 俺とティオに緊張が走る。

 いったいソフィーさんに何が起こって、どういう状態なのか。

 俺達に対処できる症状なのか。


 ごくりと唾を飲み込む音が、静寂に響いた。


「……あの後、例のマリアが二人同時に私を追いかけてきて……。うう……思い返すだけで吐きそう……おえっ……」





「「…………は?」」





 俺とティオの動きが、ピタリと止まった。


 え、なんだって?


「えっと……ちょっと待って?もしかして、どこか怪我をしたとか、化け物に呪われたとかじゃなく……?」


「……いえ、怪我とかは別に。……途中、百体くらいの化け物に追われましたけど、それは特に問題はなく……」


「百体!?百体の化け物!?そんなのに追われたの!?…って…え?逃げ切ったのか!?そっちの方が驚きだよ!?」


 思わず叫んでしまった。

 百体も化け物がいたというなら隠れてやり過ごすのは不可能だろうし、三階に辿り着いた時間から逆算しても、ほぼ一直線で辿り着いている。

 つまりあの通路を化け物に捕まることなく、躱しながら突っ切ったということだ。


 そんなことが現実に考えて可能なのか?

 少なくとも俺じゃあ、百回やっても一度たりとも成功させる自信はない。

 衝撃の事実におもわずソフィーさんの体に対する心配が一瞬飛びかけた。


 ……ということは、だ。

 まさかとは思うが、彼女が今倒れている原因は。


 チラリとティオを見れば、彼女の目がみるみる細くなっていくのが分かった。


 いや、まだだ。まだ別の、深刻な理由があるかもしれない。


「……つまりだ。ソフィーさんが今倒れている理由というのは……」


「……それは勿論、マリア二人に追いかけられた恐怖を思い出して失神していた――()ぃっっっっっっっっっったあああああああああああ!!!!!!???」


 そこまで無言で聞いていたティオが、ソフィーさんの脳天に拳を振り下ろした。

 ゴツン、と人体からしてはいけない音が響き渡る。

 絶叫し、頭を押さえて地面を転げ回るソフィーさん。

 それを見下ろすティオの目は、氷点下まで冷え切っていた。


「あ、あたま…、あたまがわれる…。…ここすうねんで、いちばんいたい…」


「心配してみれば、ただマリア姉が怖くて気絶しただけとか…。おかしいと思ったよ!あなたが三階から飛び降りたぐらいで、どうこうなるとは思えなかったからね!?」


 憤慨して立ち上がるティオに、俺はギョッとする。


「いや待てティオ。普通、三階から飛び降りたら無事じゃ済まないぞ?しかもこの館、一階分が相当高いんだぞ?」


 この館は天井がかなり高い造りになっている。

 三階から【早贄(はやにえ)の像】に落下の串刺しイベントがあるが、仮に像がなかったとしても無事では済まない高さがある。

 しかしそんな俺の疑問にもティオは眉一つ動かすことなく、何でもないことのように答えた。


「大丈夫だよ、この子はこのぐらいの高さなら怪我をする可能性は低いから。なにせ王城の三階にある自室の窓からも逃げ出したことある前科者だし。前に章介さんにも言わなかったっけ?」


 ティオの言葉に何か引っかかるものがあり記憶をひっくり返してみる。

 しばらくうんうんと唸っていると、唐突に閃くものがあった。


「…あ!確かにマリアさんと初めて会ったときに聞いた覚えがある。…って、あれってロープとか梯子を使わずに飛び降りて逃げてたってこと!?王女様が!?」


 衝撃の事実だ。

 確か、温厚なマリアさんが激怒したという話だったが、そりゃ怒るわ。

 むしろ、よくその選択肢を選んだな。


 さすがはティオの親友。

 変わり者だとは思っていたが、俺の想像を二回りは超える変人だったらしい。


 そんな風に考えながらソフィーさんを眺めていると、やっと痛みが治まってきたのか、頭を押さえながらソフィーさんが起き上がっってきた。


「…痛ったぁ。…ドラゴン戦のどの怪我より、はるかに痛かったんですけど?何するんですか?目の前で火花が散りましたよ?」


「何をするはこっちのセリフだよ。時と場所を考えてよ。私がどれだけ心配したと思って…」


「いや、別れ際に言ったじゃないですか、私を信じてって…。というか、あのマリアが二人ですよ?貴方だって同じように……っ?」


 睨み返すティオの目尻が、うっすらと赤くなっていることにソフィーさんは気づいた。


「……ティオ、あなた泣いてるんですか?」


「……悪い? 心配だったんだよ。だってあなた、目を離すととんでもない無茶をやらかすじゃない。ソフィーのことは信頼してるけど、同じぐらい悪い方にも信用してるんだよ」


「いえその言葉、そっくりそのままティオへお返しします。他の誰に言われても貴方にだけは言われたくないです」


 ソフィーさんが真顔で突っ込む。

 正直どっちもどっちだと思うが、今は口を出さないでおこう。


「だから昔から何度も言ってるでしょ?私はいいんだって。でもソフィーにはそんなことさせられないでしょうが」


「……貴方、その自分勝手さ、直した方がいいですよ?本当に」


「その言葉そっくり返すよ。他の人ならいざ知らず、ソフィーに言われるのだけは納得いかない」



「「は?」」



 そして、いつもの睨み合い。


 しばらく火花を散らしていた二人だったが、やがてどちらからともなく吹き出した。


「ふ、ふはは…。ホント、ソフィーは馬鹿だよね」


「ふ、ふふふ…。ティオは本当に阿保ですね」


 顔の曇りは、もうどこにもなかった。

 そしてひとしきり笑うと、ティオはソフィーさんに歩み寄り、そっと抱きしめた。


「……おかえり、ソフィー。よかった、無事で」


「……ただいま、ティオ。ごめんなさい、心配かけて」


 ソフィーさんもティオの体へと腕をまわし抱き合う。



「…無事で良かった、二人とも…」



 俺もようやく、心の底から安堵の息を吐くことができた。

 彼女たちの脱出を祝福するように、背景にはスタッフロールが流れ始める。

【恐怖が彷徨う館】のエンディングが始まった。


 俺は抱き合う二人を見ながら、椅子の背もたれへ体重をかけた。


 このゲームに入って約四時間。

 俺が情報を纏めるために離れた二時間を抜かし、短いようで長かった死闘の二時間が幕を下ろした。




 第二、第三のゲーム【恐怖が彷徨う館】、【恐怖が彷徨う館2】攻略完了。

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク・評価をしていただけるとモチベーションの維持になります。


次回投稿は、2月14日(土)20時50分になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ