表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第四章 【ホラーゲーム】~システム越える底力~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/68

026 【恐怖が彷徨う館】その3 ~お転婆少女、魂のジャンケン戦~

『ほんぎゃあぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!??!!!!!!!!!!?』


 背後から迫る濃密な殺気から逃れようと、転がるように通路を駆けていく。

 鏡から這い出してきたマリアさんを模した化け物は、床を叩き割らんばかりの勢いで追随してくる。ドガドガという重い足音が、こちらの心臓を直接握りつぶすかのように響き、恐怖を倍増させた。


 水晶の視界の端に映るティオとソフィーさんは、まさに『必死の形相』のお手本のような顔をしている。

 正直、これほど取り乱しながらも足をもつれさせず全速力で走れているのは、もはや才能と呼んでいい。

 だが、化け物との距離は約15メートル。一瞬の油断も許されない。


「ふ、二人とも、次のT字路を左だ!」


「わ、分かってる! え、えーと左ってどっちだっけ!?」


「あ、焦りすぎですティオ! お茶碗を持つ方です! こっち!」


「あ、そうか! ……ってそれ章介さんに聞いた雑談! あなた左利きでしょ!? 逆!」


「は!? そうでした! 左はこっちでした!」


「二人ともちょっと落ち着け!」


 絶賛大パニック中である。

 この二人がここまでテンパる様子は、おそらく今後二度と拝めないだろう。

 だが、さすがの運動神経というべきか、彼女たちは曲がり角を一切減速することなく鮮やかに走り抜けていく。


 よし、このまま突き当たりの部屋に飛び込めば――。


「は!?」


「な!?」


「え!?」


 角を曲がった瞬間、目に飛び込んできた光景に、ティオたちはつんのめるように急ブレーキをかけた。


 そこには――。


「章介さん! 通路が瓦礫で塞がってる!」


「そんな馬鹿な!?」


 十メートルほど先の天井が崩落し、通路を完全に遮断していた。

 人間が通り抜けられる隙間など微塵もない。

 

 俺は何度も攻略情報を調べてきたが、このゲームにこんなギミックは存在しなかったと言い切れる。

 初手から完全に想定外の事態だ。


 背後からは迫りくる足音。

 捕まればゲームオーバー。この世界に『リトライ』があるかは分からない。

 だからこそ、俺はこのゲームのあらゆるデータを頭に叩き込んできたのだ。


「二人とも、左の部屋に入れ! 右正面にあるクローゼットの中に隠れるんだ!」


 咄嗟の指示に、二人は即座に反応した。

 隣のドアを勢いよく蹴破るように開き、その勢いのままクローゼットへ飛び込む。

 彼女たちが扉を閉めたのと、化け物が部屋に侵入したのは、まさに紙一重の差だった。


 暗いクローゼットの中で、息を潜める。

 二人は自らの口を手で固く押さえ、化け物が立ち去るのを待つ。


(コツ、コツ、コツ……)


 獲物を探しているのだろう。重い足音が部屋の中を徘徊する。


(コツ、コツ、コツ……)


 足音がクローゼットの目の前で止まった。

 暗がりに見える二人の顔色は蒼白で、その体は小刻みに震えている。

 

 化け物はしばらく無機質に佇んでいたが、やがて再び移動を始めた。

 時間にして数秒だったはずだが、俺たちにはその数十倍もの永い時間に感じられた。


(コツ……コツ……)


 足音はやがて部屋の外へと消えていく。

 それでも俺たちは、呼吸することすら忘れたように固まっていた。

 化け物が完全に戻ってこないことを確認し、ようやく肺の中の空気をすべて吐き出した。


 洒落にならない緊張感だった。

 俺はモニターの前で机に突っ伏し、彼女たちは魂が抜けたように脱力してピクリとも動かない。正直このまま現実逃避していたいが、そうもいかない。


 このゲームの仕様では、一度隠れてやり過ごせば、プレイヤーが外に出ない限り化け物は再入室してこない。

 つまり、今はここが一時的なセーフゾーンだ。

 そのことを説明し、外に出るよう促すと、二人はノロノロとゾンビのような動きでクローゼットから這い出て倒れこんだ。

 水晶()もティオの手を離れ、コロコロと床を転がって止まる。


「……ねえ、章介さん」


 床にうつ伏せのまま、ティオが蚊の鳴くような声で漏らした。


「……なんだ?」


「……このゲームって、化け物から逃げるんじゃなかったの? ……なんでマリア姉が出てくるわけ?」


「……それは多分、お前たちが化け物に恐怖を一切感じてなくて、恐怖の対象がマリアさんしかいなかったからじゃないか? ……ちなみにあれ、どっちの深層心理だ?」


「……私かもしれない。心当たりは、めちゃくちゃある」


「……物凄く心当たりがあります。私かもしれません」


「……そっかぁ……」


 そのまま、重苦しい沈黙が流れる。

 館に入ってわずか十分足らず。すでに精神は満身創痍だ。


 だが、俺の頭には一つの疑問がこびりついていた。

 通路を塞いでいた瓦礫の山だ。


 あんなものは知らない。

 攻略情報は隅から隅まで調べた。最初からクリアまで、何も見ずに解説できるレベルまで。

 あんな廃墟のようになっている箇所はなかったはずだ。


(……待てよ、もしかして? でもそうなると……それに、あの時見間違いじゃなければ……)


「……どうしたの章介さん?」


「何かありましたか?」


 ブツブツと独り言をこぼす俺に、多少復活した二人がもぞもぞと起き上がってきた。


「……さっき二階部分が崩れて通路が塞がっていただろ? 本当なら、あそこは通れるはずなんだ。そこで一つ仮説を立てた。確認したいことがある」


「確認ですか? どのように?」


「館に入ってすぐの正面、あの鏡があった階段の裏側を調べたい。そこまで水晶()を連れて行ってほしいんだ。それによって攻略方法が根本から変わってくる」


 俺の説明に、二人の表情が引き締まる。……が、すぐに二人はちらりと目配せを交わした。


「……ちなみに調べるだけですか? その後は?」


「一旦攻略方法を組み直す必要があるから、もう一度この部屋に戻ってくるつもりだけど?」


「……っていうことは、どっちか一人で行けば十分だよね?」


「? まあ、そうだな」


 それを聞いた瞬間、二人は弾かれたように立ち上がり、距離をとって向かい合った。

 拳を構え、気合と共に突き出す。


「「最初はグー、ジャンケンポン! あいこでショ! ショ! ショ! ショ!」」


「よっしゃぁあ! 勝ったぁ! ソフィー、行ってらっしゃい!」


「いやぁああ! 負けたぁ!? 部屋から出たくない!」


 ジャンケンかよ。

 どうやら、さっきの『マリアさん(仮)』が相当なトラウマになっているらしい。

 負けたソフィーさんは、すでに顔色が悪い。


「……なんか、ごめんね? 水晶()が一人で移動できたらよかったんだけど……」


 二人のパニックを客観的に見ていたせいで、俺の方は逆に冷静になっていた。

 自分より怖がっている人間を見ると落ち着くというのは本当らしい。


「……うう、気にしないでください。負けた以上は仕方がありません。……ただ、その前にティオ」


「なに?」


 ソフィーさんは神妙な面持ちで頷く。遺言でも残すつもりかと思いきや。


「……これから私が味わうであろう恐怖を、いずれ貴方にも体験してもらいます。覚えておいてください」


 うわ、めっちゃ小物臭いセリフ。どんだけイヤなんだよ。

 

 俺は思わず心の中で吹き出した。

 そしてティオが呆れ果てた顔で口角を上げた。


「……ソフィー、私から言うことは一つだけだよ。――ざまぁ(笑)」


 ソフィーさんの額に青筋が浮かぶ。


 この二人、心の底ではお互いを想い合ってるのは間違いないんだが、相手だけが得をするのを何故か認めたがらない性質がある。

 何というか、親友というのはもちろんだが、それ以上に腐れ縁の悪友という面も非常に強い。


「ただ、絶対に無事に帰ってきなよ?」


「当然です。貴方にお返しをするまでは、絶対に帰ってきます」


 そう言うと、お互い拳を『コツン』と当てた。


「……よし! それでは参りましょうか!」


 『パン!』と両頬を叩いて気合を入れたソフィーさんは、水晶()を抱え、ドアの隙間から外を注意深く覗き見た。

 化け物がいないことを確認すると、足音を殺して素早く部屋を脱出する。

 その動作だけを見れば非常に洗練されていて頼りになるのだが……。


 俺は『もうちょい、素直に送り出せよ』と思いながら、ソフィーさんに抱えられてティオのいる部屋をあとにした。

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク・評価をしていただけるとモチベーションの維持になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ