表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャット相手は異世界の女の子、転移失敗で俺のPCの中に?  作者: 約谷信太
第四章 ゲーム攻略・合流編【ホラーゲーム】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

029 【恐怖が彷徨う館】その5 ~どっちを選ぶ?~

「一作目と二作目が混ざり合ってる?」


『どういうこと?』とティオが眉を寄せ、ソフィーさんもようやく顔を上げた。


 この館に入る時から、いくつかおかしなことがあった。

 俺は手元にある一作目の攻略情報をまとめたノートと、二作目の攻略ページを開いたスマホの画面を見比べながら、状況を整理していく。


「まず一つ目。昨日ソフィーさんが調べたときは、玄関の扉は開かなかったんだよね?」


「はい。周囲の窓を含めて、びくともしませんでした」


「それが、俺たちと合流したら開くようになった。おそらく、人数が足りなかったんだ。1と2が混ざったせいで、ゲーム開始に『主人公が二人』必要だったんじゃないかな。で、鏡のギミックも同じだ。ソフィーさん一人には反応しなかったけど、ティオが踊り場に上がった瞬間に条件が満たされ、化け物が現れた」


「なるほど……。このゲームを攻略するには二人以上が必要だったわけだ。……そうなると、不幸中の幸いというか、運が良かったね。もし私と水晶が先に迷い込んでいたら、その時点で詰んでたってことだもんね」


 ティオの言葉に、俺は付け加える。


「ソフィーさんもだな。もし一人の状態で扉が開いていたら、前情報なしであのマリアさんの化け物と閉じ込められていたことになる。しかも、後から俺たちが来ても扉が開かず、助けに行けない最悪の事態もあり得た」


「……それは、本当に助かりましたね。よかった……開かなくて……」


 説明を聞いた二人の顔が、再び青ざめる。

 想像しただけで恐ろしいのか、小刻みに震え、脂汗が顎から滴っていた。

 さすがの二人もその状況だけは勘弁してほしいようだった。


「他にも理由がある。一作目の最後は、脱出条件を満たすと館が崩れ始め、制限時間内に玄関へ辿り着けばエンディングだ。二作目も舞台は同じ館だが、一作目の『続き』だから、館内の一部が崩落している」


「それで、本来逃げ込もうとした通路が塞がっていたわけか……」


「ああ、手元で調べた二作目のマップと一致している。地下への入り口があるのも二作目の特徴だしな。ただ、さっき二人が見ていた調度品。あれは二作目だと全部壊れているはずなんだ。無事なのは一作目のデータだからだろうな。ゲームの起動画面も一作目だったし。それに、転移の際に異常があった11本のうち、一つがこの【恐怖が彷徨う館】の二作目だったんだよ」


「……周囲の状況と、イベントの発生条件。それにゲームの異常。……章介さんの説で、ほぼ間違いない……か」


 ティオが指を顎にあてて考え込み、ソフィーさんも四つん這いの体勢からどうにか復活し、床に座り込んだ。


「……ということは、一作目と二作目、両方のクリア条件を満たす必要があるということですか?」


「多分、そう考えた方がいい。厄介なのは、二つが混ざったせいで通常のルートが使えないことだ。かなり変則的な攻略になるだろうし、二人揃っての行動はできないかもしれない。片方がギミックを解除する間、もう片方が進む……という感じにね」


「では、二手に分かれての同時攻略、ということですね?」


 俺は頷く。水晶越しに姿は見えないはずだが、こちらの決意は伝わったようだ。


「俺は今から一・二作目のマップを照らし合わせ、攻略ルートを洗い直してくる。二時間以内にはまとめるから、二人はこの部屋で待機していてくれ。言うまでもないけど、この部屋から一歩でも出ればセーフゾーンが解除される。化け物が入ってくる可能性があるから、絶対に気を付けてくれ」


 二人が頷くのを確認する。


 あ、そうだ重要なことを言い忘れた。


「最後に一つだけゴメン。鏡から化け物が出てきた時のこと、思い出せるか?」


「あの時の状況?」


「そう。ソフィーさんが肩を掴まれそうになって、マリアさんの顔が現れた。その後、鏡の縁をもう片方の手で掴んだだろ。あの時……『手』はどっちの『手』だったか覚えてるか?」


 二人が記憶を探るように考え込む。


「……えーと、最初に右手が出てきて、ソフィーの肩を掴もうとして……」


「……それでもう一本、鏡の縁を掴んだ手は……あれ? 右手……?」


 その矛盾に気づいた瞬間、二人の顔から血の気が引いた。

 青を通り越して白、もはや土気色だ。

 全身が局地的な地震でも起きたかのようにガタガタと震え出す。


「………ま……まままま……まさか………?」


「………わ……わわ私が、二度目に遭ったのは………?」


 現実を受け入れられず、『嘘と言って』という絶望の視線がこちらに向けられる。

 迷子の子供でもここまでの表情はすまい。


 最初に追いかけてきたのが一体だけだったのは、『二体目』がこちらを視認する前に逃げ出したからだろう。


「……ゲームが二本混じったせいで、あのマリアさんの化け物も二体、館内を彷徨っている。二人の恐怖のイメージが共通してマリアさんだったせいだな」



「「いやああああああああああああああああああああ!!!!!!!??!!!!!??」」



 館内に、本日一番の絶叫が木霊した。

 

 だがすまないが事実なんだ。どうしようもない。



 俺は俺にできることをやるだけだ

 彼女たちを無事に解放するため、可能な限り安全なルートを見つけ出す。

 俺は頬を『パンッ』と叩き、気合を入れた。




 ―――――――――――――――――――――




 二時間後。可能な限り情報を洗い直し、再び水晶の視界に戻る。


 別れ間際の彼女達の精神的ダメージはまだ完全には抜けて無いようで、二人は体育座りで並び、残っていたパンと水を自棄食いしていた。

 見るからに哀愁が漂っている。


「二人ともお待たせ。同時攻略可能なルートが見つかったぞ」


 死人のような顔をしていた二人が、ゾンビのような緩慢な動きで水晶()へと振り返る。

 その挙動だけでホラーゲームの隠しキャラのようだ。


「……あ、章介さんおかえり。待ってたよ。……正直、もう一歩もここから出たくないけど」


「……おかえりなさい、章介さん。……待っている間、扉の外から足音が何度も聞こえてきたんです。……死神の足音って、ああいう音がするんですね……」


 安全な場所とはいえ、扉一枚向こうを人食い虎が闊歩しているような状況だ。想像力が仇となってメンタルを削りきられたらしい。

 それでもパニックを起こしていないのは流石というべきか。


「えっと……説明してもいいか?」


 恐る恐る聞いてみる。

 そんな俺の心配に、二人は力なく微笑んだ。


「大丈夫、章介さんの声を聞いてるうちに持ち直すだろうから」


「ええ、この状況で私達二人だけだと、マリアに怒られた記憶がお互い延々と蘇って御覧のあり様ですけど、章介さんが会話に入っていただければ記憶の負の連鎖から抜け出せますので」


 ガチ切れしたマリアが徘徊し、それに見つからないよう息を潜める状況。

 それが二人のトラウマと完璧に合致してしまったようだ。

 それで彼女達の強靭なメンタルの回復量を以てしても、恐怖での消費量と釣り合ってプラマイゼロだったらしい。

 そこに俺が会話に入ることで多少トラウマが薄まってプラス寄りになるそうだ。


「じゃあ説明するけど、さっき言った通り、二手に分かれる必要がある。一作目の一階から三階はソフィーさん。二作目の一階から地下室はティオに任せたい。本来の道が塞がっている場所もあるから、お互いサポートしながら進むんだ。かなり複雑だけど攻略可能な手順は見つかったから」


「なら、攻略不可能っていう最悪のパターンはなくなったんだね。それだけでも朗報だよ。この状況で別行動っていうのは不安もあるけど、ソフィーなら大丈夫でしょ」


 ティオは少し元気を取り戻し、床の水晶を手に取って膝に乗せようとして――その腕を、ソフィーさんが『ガシリ』と掴んだ。


「……ねえ。どうしたのソフィー、この手は何?」


「……それはこちらの台詞ですね。ティオこそその手は何ですか? なぜ今、水晶を膝に乗せようとしているのです?」


 二人の顔は笑顔だ。だが、眼だけが全く笑っていない。

 掴み、掴まれた腕がカタカタと震える。相当な力が込められている証拠だ。


「……ほら、私と章介さんってもはや相棒って感じじゃない?ここに来るまでも一緒に困難を乗り越えてきたし。一心同体っていうか?勿論ソフィーのことも親友として信頼してるよ?一人で別行動をとってもゲームをクリアしてくれるって。……だから、ね?」


「……ありがとうございます。しかし私はティオと違ってゲームの攻略はこれが初めてです。その不慣れさをカバーするためには章介さんのサポートは必須だと考えています。ティオのことは私も親友として信頼していますよ?今までの経験を活かして一人でもゲームの攻略が出来ると。……ですから、ね?」


『あはは』『うふふ』と笑い合う。

 端から見れば麗しい親友同士の光景だが、巻き込まれている俺からすれば、餌を取り合う猛獣に挟まれた気分だ。

 状況だけ見れば美人二人が俺を取り合う男の憧れのシチュエーションだが、全く嬉しいとは感じない。

 感じるのは恐怖だ。

 なぜ恐怖の館の中で恐怖に追われながら、更に恐怖を感じなければならないのか?


「いいから離しなさいよソフィー! 章介さんは私と行くから!」


「離すわけないでしょう!? 一人ぼっちであのマリアに追われるなんて嫌に決まってるじゃないですか!?」


 言い争いはさらにヒートアップし、腕の震えはもはやバイブレーションの域に達していた。

 水晶に映るモニターの映像が揺れすぎて画面酔いしてきた。


「なら、章介さんに選んでもらおう! それなら文句ないでしょ!? そして知りなよ、私と章介さんが積み上げてきた時間の重みってやつを!王女ってのは権力と容姿に胡坐をかいて、最後に男を取られるカマセっていうことを!」


「望むところです! 人の繋がりとは時間の長さではなく、深さだということを教えて差し上げます! 貴方は章介さんに異性として扱われていないことを自覚しなさい! 所詮、青髪ショートは負けヒロインの象徴であることを!」



「今、何て言ったぁああ!!?」

「今、何て言いましたぁああ!!?」



 ついに互いの胸倉を掴み合う。一触即発。

 もしこれが学校の教室なら、男子全員が目を逸らして関わりを断つレベルの修羅場だ。

 つまり関わり合いたくない。


 しかし残念ながら今はかなり緊迫した状況。そして俺はすでに社会人だ。放っておくわけにはいかない。


「二人とも、落ちつ――」


 言い切る前に、二人の視線がグルンと水晶()へ向く。


「章介さんは私を選ぶよね!?この先の人生ずっと私のことを見守るってい言ってたもんね!?」※言ってない


「章介さんは私を選んでくれますよね!?どんな私でも受け入れて傍にいるって仰ってましたよね!?」※言ってない


 極限状態のせいで、ついに記憶の捏造まで始まった。

 ヤンデレに片足を突っ込んでいる。


 だが、この争いは無意味だ。なぜなら――。


「俺は、ソフィーさんと行くよ。悪いけどティオは別行動してくれるか?」





「……え?」





 それはどちらの声だったか。


「うわああああん!! な、なんでぇええ!? なんでソフィーを選んだのぉおお!!?」


「ほらぁああ!! やっぱり王女と共にハッピーエンドが物語の鉄板なんですよ!!」


 ティオは床を転げ回って泣き、ソフィーさんは立ち上がってガッツポーズを決める。

 人生のすべてが決したような騒ぎだ。


「章介さんどうして!?今までの私との時間は何だったの!?」


「ふっ、見苦しいですよティオ。選ばれたのは私です。貴方は選ばれなかった……それだけのことです」


 水晶に縋りつく敗者と、見下ろす勝者。

 だが、選んだ理由は至極真っ当なものだった。


「いいから二人とも落ち着け。これを聞けば選んだ理由は明確だから」


 そう言いながら、俺は手元に纏めた攻略情報が書かれたルーズリーフの束を取り出す。


「まずソフィーさんはこの部屋を出てからロビーを突っ切り突き当りを右に。そのあと一番奥にある右側の部屋に入る。そこの一番奥の壁に亀裂が出来て隣の部屋につながってるから、そこから入り左の机の一番上の引き出しから鍵を取り出してドアから出る。そうするとこの部屋のそばにある瓦礫の向こう側に出るから、そこから鍵を投げてこちら側で待機しているティオへと渡す。その鍵を持ってティオはロビーを突っ切り突き当りを左へ。そのさきの部屋へと向かう。ちなみにソフィーさんが曲がった右側の通路は鍵を取ると塞がってしまうから、亀裂を通って元の通路に出たら目の前の梯子を上って二階へ。その時化け物に襲われた場合は、ロビーを超えてから一つ目と四つ目、右に曲がってからは三つ目と四つ目、それぞれクローゼット、ベッドの下、カーテンの裏、クローゼットだ。それ以外に隠れるとゲームオーバーになるから気を付けて。ティオが曲がった左側は二つ目と五つ目。机の下、クローゼットだ。それから化け物に見つかった位置でも隠れる場所が変わってきて――――――――」


「ちょちょちょっと待ってください!」


 ソフィーさんが慌てて制止する。


 まあいきなりこんな長ったらしい説明を聞いても困るだろう。

 だけど二人とも頭の回転は速い。理由は分かってもらえたはずだ。


「……もしかしなくても、私が別行動の理由って……」


「ああ。片方は俺が逐次指示を出せるが、もう一方はすべてを暗記してもらう必要がある。攻略手順から、逃げ込んだらアウトな部屋。逆に逃げ込める部屋と家具の場所。それぞれ化け物に見つかった状況によっての別パターン。その数ざっとノート四十ページ分。……これを完璧に暗記できるのは、ティオ。お前しかいないだろ」


 水晶を掴んでいたティオの手が、パタリと落ちた。

 希望が絶たれた、虚無の表情。


「……じゃあ、どれだけゴネても私の一人行動は確定だったわけ……? 自分の頭の良さを呪ったのは、生まれて初めてだよ……」


「……私も、ティオより記憶力が悪くて良かったと思ったのは初めてです」


 自分が選ばれた理由が攻略情報を完璧に暗記できないからだと知って、ソフィーさんが何とも言えない顔をする。


 どっちが勝者でどっちが敗者なのか?

 何とも言えない空気が、三人の間に流れた。

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク・評価をしていただけるとモチベーションの維持になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ