024 第二のゲーム攻略開始
食事が終わり、左腕の怪我を【傷薬】で手当てし直したティオは、同じく俺の渡した【布】できつく縛り直すと改めて椅子に座り直し、水晶と向かい合うと軽く頷く。
目には力が宿り、昨日の疲労を無理に隠した状態とは違うのがわかる。
少なくとも現状で万全に近い状態には持ってこれたはずだ。
「じゃあ約束通りゲームに戻ろう。さっき言った通り、皆が飛ばされた可能性が高いゲームは3つ。一つ目は【恐怖が彷徨う館】。題名を聞いて分かる通りホラーゲームだ。館に閉じ込められた主人公が彷徨う化け物から逃げつつ、館から脱出する謎解きとアクションのゲームだな。このゲームも人気作で2まで発売されているが、こいつは一作目の方だ」
「ん?ホラーゲーム?ホラーゲームって確か、幽霊やら化け物やらに襲われるやつじゃなかったっけ?章介さん、怖い系ダメだったでしょ?ホラーゲームなんて持ってたんだね。知らなかったよ」
ティオの疑問ももっともだ。
何せティオとの初対面ですら叫び声を上げたぐらい、ホラーは本気で苦手だ。
だが何と言うか、俺はホラーゲームが苦手だが、あちら側は俺のことが好きらしい。
年末年始にネットのゲームサイトでダウンロードゲームの福袋を買うと、毎年なぜか【恐怖が彷徨う館】の1か2が入っている。
その度にアンインストールしても次の年にはまた戻ってくる、呪いの人形状態だった。
さすがに少し恐怖を感じた俺は、試しにゲームをインストールしてみた。
そしたら次の年から【恐怖が彷徨う館】は福袋に入っていなかった。
軽い心霊現象である。
そのこともあって俺はアンインストールすることが出来ず、さりとてプレイする気も起きず、ずっとパソコンの奥で眠っていた訳だが……ついに日の目を見てしまったわけだ。
いい加減、供養という名のクリアをしない限りずっと付きまとわれる気がしていたため、今回ティオ達がメインで攻略してくれるのは不謹慎だが助かったという気持ちも少しある。いずれ全て無事に終わったら、2もクリアしてもらえないだろうか?
「……所持してるのは俺も不本意なんだよ。攻略方法は詳しく調べておいたけど、実際にプレイしたことはないぞ」
「まあ実際に攻略するのは私達がメインになるだろうし、章介さんは指示だけ出してくれれば大丈夫だよ。別に私は幽霊とか化け物ぐらいじゃ怖いとは思わないし、このゲームのクリアに関してはそこまで難しくはないかも。……ツバメさんはこういうのちょっと苦手だけど、このゲームにいるのがソフィーかマリア姉だったら問題はないね。心臓がオリハルコンで出来てるから」
酷い言い草だな。納得はできるけど。
ティオも普段の軽口が戻ってきた。気持ちが切り替えられた証拠だろう。
「じゃあ続けて二つ目のゲーム、【爆釣王~伝説を釣り上げろ~】。これもタイトルそのまま釣りのゲームだ。主人公が海釣りの大会『爆釣杯』で優勝を狙うのがストーリーモードの目的になる。魚の種類や大きさでポイントが入り、最終的にポイントが一番多いヤツが優勝だ。運が良ければ伝説の主を釣り上げることもできる」
「釣りかぁ。一応、野外実習で経験はあるけど、そこまで得意じゃないんだよね。ツバメさんか、出来ればソフィーがいれば何とかなると思うんだけど、マリア姉がいるようならちょっとマズイかも……」
「?ソフィーさんがいると助かって、マリアさんがいるとマズイのか?……逆じゃなくて?」
ティオの言葉の意味が良く分からない。
ソフィーさんは王女だから釣りなんて経験ないだろうし、逆にマリアさんは釣りだろうと何だろうと人並み以上にこなしそうなイメージがある。
少なくとも彼女達に抱く俺のイメージは逆だ。
だが俺の疑問にティオは苦笑いをしていた。
「いや、言葉の通りであってるよ。ソフィーはこういうの滅茶苦茶得意だし、マリア姉は……まあ、やれば無難にこなせるんだろうけど。ちょっと理由があってね。マリア姉がいないところで話すのもアレだし、章介さんも付き合っていけばその内知る機会もあると思うから」
「なんだそれ?」
有耶無耶に誤魔化されてしまった感がある。
ただティオの様子を見てもこの場で話す気はなさそうだし、気にはなるがその内知る機会があるというなら一旦置いておこう。気を取り直し次の説明に入る。
「で、3つ目が【英雄天国】。題名だけだと分かり辛いがRPGだ。少し古いゲームだけど、個人的にはシステムが斬新で結構面白かった。ストーリーは世界征服を企む悪の軍団を倒すため、英雄たちが冒険に出るっていう王道物だけど、システムが変わり種になっているのが特徴だ。このゲームは装備が全て服屋で買えるような服になっていて、着替えるとキャラのグラフィックもそれに伴って変更されるんだ。そして服の色で属性、服の組み合わせで能力が上がったり技を覚えたりする、通称コスプレRPGって呼ばれている作品だ」
「へー、面白そうだね!RPGっていうと、防具を装備して剣とか魔法で戦うものだと思ってたよ。そういうのもあるんだ!」
目を輝かせながらティオが食いついてきた。
元々好奇心が強いヤツではあるが、今回の説明にテンションが上がっているように見える。
やっぱりコイツも女の子なんだろう。色々な服に着替えられると知って、気持ちが上がっているのかもしれない。
「服の組み合わせっていうのがいいよね。私も元の世界に戻ったら魔道具で研究してみよう。装備の組み合わせで効果が変わるなら、色々な場面で応用が利きそうだし、一点物で作るよりもコストを下げられるかもしれない」
違った。ただの知的好奇心だった。
ティオはやはりティオだった。
まあそれはさておき、これで3つとも説明は終わった。
ティオの様子を見ると今の知的好奇心は一旦鳴りを潜め、顎に手を当てながら真剣な表情で考え込んでいた。
「で、ティオ。これから攻略を進める順番なんだが、こいつを最初に攻略したいと思う。そいつは――」
「【恐怖が彷徨う館】だ」
「【恐怖が彷徨う館】だよね?」
声が重なる。
ティオも同じ結論に達したようだ。
特に驚かない。想像通りではある。
「やっぱり章介さんもそう考えてたよね?」
「まあ、そうだろうな。まず【英雄天国】はRPGだ。攻略には時間がかかる。通常で40~50時間。攻略方法を纏めたとはいえ、それでも30時間は必要だ。なら先に他の二つを急いでクリアした後に、このゲームの攻略を始めた方が全員の合流は結果的に早くなる」
「そうだね。で、残りの二つを比べた時、危険を伴っているのは【恐怖が彷徨う館】の方。【爆釣王】の方はクリア必須といっても釣りゲームだから、危険自体はほとんどないはず。先に合流を目指すのは【恐怖が彷徨う館】だね」
ティオの説明に俺は頷く。
俺の考えも全く一緒だ。
「ああ、まずは【恐怖が彷徨う館】、次に【爆釣王】、そして最後に【英雄天国】でいこう」
「うん、異論はないよ」
攻略方針をお互いに確かめ合うと、ティオが椅子から腰を上げる。
俺はゲームフォルダから目的のゲームを探すと、【恐怖が彷徨う館】を起動した。
これから次のゲームの攻略を開始する。
と、その前に。
「ティオ、これを持っていけ」
「何これ?」
アイテムボックスから一つのカバンを取り出し、ティオの手元へとドラッグするとスポンと腕の中に納まる。
俺が昨日、無人島の開拓を進め作り上げたアイテムがいくつか入っている、革製の肩掛け鞄だ。
中身は【硬いパン】【水筒(水)】【傷薬】。
このゲームのアイテムを別のゲームへ持ち運べるか分からないため、必要最低限のみとなっている。
必要になるかは分からないが、ないよりはマシだろう。
鞄の中を覗き込みながらティオは俺の説明を聞いていたが、頷くと肩へと鞄をかけ、水晶を両手で抱え込んだ。
「章介さん、何から何までありがとうね」
「何度も言うが気にするな。礼は皆が合流してからまとめて言ってくれ」
そう言ってお互い笑い合う。
そして表情を引き締め直すと、マウスを握り直した。
「じゃあ行くぞティオ。心の準備は良いな?」
「いつでも」
この無人島へ移動した時と同じく、ティオをマウスで持ち上げドラッグする。
そして。
目に映る風景が明るい部屋の中から180度変化した。
BGMがおどろおどろしいモノに変わる。
空気が生温い。
目の前には格子状の鉄でできた門が開いており、木々の生い茂る庭の奥には三階建ての大きな洋館が見える。
【恐怖が彷徨う館】の舞台、『屍怨館』。
煉瓦造りの外壁はそのほとんどが蔦に覆われ、その雰囲気はまさにホラーゲームの舞台に相応しいものだった。
正直、ホラーの苦手な俺はモニター越しとはいえ、すでに少し腰が引けている。
水晶越しの視点でVRのような状態になっているせいで余計に恐怖を感じる。
そんな俺の状況などいざ知らず、開きっぱなしの門をくぐったティオは、生い茂る木々の間をズンズンと進んでいく。
その歩みに躊躇は一切感じない。
「取り合えずあの館に入ればいいなんだよね? 正面の扉から入っちゃっていいの?」
「いやいやいや待て待て待て!!急いでいるのは分かるが少しは躊躇しろ!!お前、この雰囲気の中に放り出されて怖くないのか!!?」
「いや別に?もしかして気付いてないだけで、もう幽霊とか出てきてた?」
不思議そうな顔で首を傾げられてしまった。
そんなに怖いのならば自分で飛んで逃げればいいのでは?と思うかもしれないが、このゲームに入った瞬間、水晶は俺の操作を一切受け付けなくなってしまった。
多分だが、無人島では主人公扱いだったため俺の操作を受け付けたが、その他のゲーム内ではただのアイテムでしかない。
そのためティオに運んでもらわなければならなくなってしまったのだ。
想像以上の雰囲気で俺の心の準備は粉砕されてしまったが、ティオに水晶を抱きかかえられているため、俺の意志に反して、館へと進まされてしまっている。
強制移動イベントのようで普通に怖い。
しかしティオは『心の準備?何それ?美味しいの?』と言わんばかりに進んで行く。
俺が一緒とはいえ水晶の状態だ。状況でいえばこんな所に一人っきりと言ってもいい。
なのに足取りに変化は全くない。
普通の女性はこんな状況では恐怖で足が重くなるものじゃないだろうか?
いや、男性でも恐怖で躊躇するだろうけど。
知ってはいたが、相変わらずのクソ度胸だ。
少なくとも俺とは桁が二つは違う。
「そうじゃない!俺の想像以上の不気味さで心の準備が間に合ってないんだ!」
本気で懇願する。
このまま心の準備をせずに進まれると下着の替えが必要になるかもしれない。
「何だ、そういうこと?章介さん苦手だもんね。大丈夫、安心していいよ。私が一緒だから」
そう言ってティオが微笑む。
……やべえ、超カッコいい。
性別が逆だったら間違いなく落ちていた。
正直今もかなりクラッときた。思わず『結婚して下さい』と言いそうになったぐらいだ。
そんなやり取りをしていると少し恐怖が和らぐ。
勿論怖いことは怖いが、ティオと一緒なら何とかなりそうという気になってくる。
こういうところもコイツの長所だと思う。
「お、おう、ありがとう。……そうだな、お前と一緒なら多少は恐怖もマシになるかもなぁぁあああああああああ!!!!?」
「うわっ! 何!?」
お礼を言った瞬間、頭上からガサガサと葉っぱの擦れる音が聞こえ、間を置かず『ダンッ』という音とともに目の前に何かが降ってきた。
ティオは咄嗟に構え、俺は絶叫と共に椅子から転げ落ちた。幸運なことに下着は無事だった。
心臓はバクバク激しく鳴っているが、何とか起き上がる。
ティオの目の前にナニかが落ちてきた以上、いつまでも転がっている訳にもいかない。
しかし館へ入る前のこんなところで、こんなイベントなんてないはずだ。
机に体を預けつつモニターを覗くと、さっきの音を発した原因が映りこんでいた。その見覚えのある人物は。
「ソフィーさん!?」
「ソフィー!?」
「やはりティオ!それに章介さんの声も?」
そこにいたのは着地の体勢でティオと向かい合う、軽装鎧に身を包みポニーテールに髪を纏めたソフィーさんの姿だった。
不完全な転移から凡そ十九時間。
最初の仲間、ソフィーさんと合流することが出来た。
読んでいただきありがとうございます。
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