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チャット相手は異世界の女の子、転移失敗で俺のPCの中へ  作者: 約谷信太
第三章 ゲーム攻略・合流編【落ちものパズルゲーム】

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022 ティオside 進む道(前編)

 気づくと暗闇の中にいた。


 意識はあやふやだが、体が横たわっているのを感じる。

 思考がクリアになるにつれ、まぶたの裏に微かな光を感じた。『ああ、寝てたのか』と状況を理解し、ゆっくりと目を開く。


 視界に飛び込んできた明るさに目を細めながら周りを見渡すと、自分がベッドの白いシーツの上で、布団に包まっているのがわかった。

 他に家具ひとつない、飾り気のない部屋。

 窓から差し込む日の光を見て、『あー、今何時かな?』と上半身を起こしたところで、私はもう一度部屋を見渡し叫んだ。


「いや、ここどこ!!?」


 見覚えのないベッドの上で目覚めた私は、キョロキョロと周囲を確認した後、思わず掛け布団をめくり上げて衣服の乱れを確かめた。

 特に違和感はなく、どうやら『そういうこと』ではなかったようだ。


 ホッと息を吐く。

 良かった。

 

 いくら私があまり細かいことを気にしない性質(タチ)とはいえ、さすがに『初めて』がこれでは勘弁願いたい。


 万が一そんな事態になっていたら、間違いなくマリア姉には本気(ガチ)で説教されるだろうし、ソフィーには一生笑われ続けるだろう。絶対の確信がある。

 ツバメさんだけはなんだかんだ慰めてくれそうだが、それはそれで逆に心にきそうだ。


 そんなことを考えているうちに、濁っていた記憶が鮮明に蘇ってくる。


 ドラゴンの襲来、燃え盛る炎からの脱出、不完全な転移、そしてゲームの攻略。


「……っ! そうだ、皆は!!?」


 完全に思い出した。ここは拠点にした小屋の寝室だ。

 だけど昨日、食事をしてからの記憶がない。直後に意識を失ってしまったのだろう。

 おそらく章介さんが、どうにかして私をここまで運んでくれたのだ。


 不覚。

 こんなことしてる暇なんてないのに!


 私は掛け布団を跳ねのけると、ドアを壊さんばかりの勢いで開け放った。


「章介さんっ!!!」


 想像以上に大きな声が出てしまったが、構っていられない。昨日の記憶を頼りに、テーブルの上にあるはずの水晶に向かって声を上げた。


 しかし、視界に入ったのは、何ひとつ乗っていない空っぽのテーブルだった。

 意識を失う直前までそこにあったはずの水晶が、姿を消している。


「…………え? ……章介……さん?」


 思わず声が漏れた。

 周りを見渡しても、唯一の通信手段である水晶が見当たらない。


「……どうして?」


 しばし呆然としていたが、すぐに意識を切り替えて思考を巡らせる。


 元々そんなものはなかったという記憶違いの可能性?

 ――いや、それはない。あれがなければ章介さんと通信できず、このゲームに移動することすら不可能だった。


 あの後、水晶だけがこの世界(ゲーム)から弾き出された可能性?

 ――ゼロではないが、私が無事にここに居られる以上、その可能性は低い。


 章介さんが水晶を操作して、一人で他のゲームの攻略に向かった可能性?

 ――あり得る。だけど彼は慎重な性格だ。パズルの時のように一人では詰む状況を考えれば、選ぶとは思えない。


 ……私を見捨てた可能性?

 …………それだけは、絶対にない。

 まだ一年ほどの付き合いだが、断言できる。何となくだけど章介さんからはソフィーと同じ匂いがするのだ。

 自他ともに認める『他人に心を開きにくい私』が、これほどの短期間で信用したのは初めてだった。

 最初から感じていたのかもしれない。この人とはソフィーと同じく、生涯にわたって付き合っていくことになるだろうという予感、あるいは運命のようなものを。

 一目惚れの亜種、と言ってもいい。

 万が一裏切られたとしても、『私の目が曇っていただけ』と諦めがつくほどには、彼を信用しているつもりだ。


 ……となると、この無人島のどこかに出かけている可能性。

 ――それが一番、現実的だ。


 現状、章介さんのサポートなしで他のみんなを探しに行くのは不可能に近い。

 これから解析を進めれば道は開けるかもしれないが、すぐには無理だ。


 私がこうしている間にも、みんなの安否はわからないまま。早く探しに行かなければ。

 私の転移が不完全だったせいで、こんなことになっているんだから。

 なのに、肝心の水晶(章介さん)はどこへ行ってしまったのか?


 焦燥が心の中で渦巻く。

 

 焦りと心配から、八つ当たりだと分かっていながら、溜まっていた感情が口をついて出た。


「もう、どこに行ったのぉおおお!! 章介さんの、章介さんの特殊性癖野郎ぉぉおおお!!!」


「なんつった、貴様ぁあああああああああ!!!!!!?」


「うわぁあああ!!!いたぁあああ!!!!!?」


 叫ぶと同時にドアが勢いよく開き、宙に浮いた水晶玉が飛び込んできた。

 デジャヴだ。つい最近、全く同じ状況を経験した気がする。


「もう、どこ行ってたの。びっくりしたじゃん」


「その前に一言謝れ。朝からなんてこと叫びやがる」


『ごめんごめん』と謝ると、水晶(章介さん)から深いため息をついたような空気を感じ取った。

 実際には水晶にそんな機能はないが、おそらく間違いではないという確信がある。


 昨日と同じように私が椅子に腰かけると、水晶もテーブルの上に着地した。

 その様子を見届け、私は真面目な表情を作って頭を下げた。


「まずは、ごめん。昨日、章介さんに調べ物をしてもらっている最中に、寝落ちしちゃったみたいで」


 その姿を見て、今度こそはっきりと水晶越しに溜息の音が聞こえてきた。

 今更誤魔化しようがないが、やはりバレていたのだ。説教の覚悟はしておこう。


「やっぱり『疲労を感じない』っていうのは嘘だったんだな?それだけ仲間の安否が心配だったんだろうけど。……お前、この状況を全部自分の責任だと考えているだろう?」


「……さすがに誤魔化せないか。うん、そうだよ」


 やはり章介さんは核心を突いてきた。


 正直なところ、あの時点での私の気力と体力はほぼ底を突いていた。

 立て続けに起きた事態のどれか一つを取っても、死力を尽くさねばならないものばかりだったのだから。


 けれど、私は弱音を吐けなかった。


 あの転移の際、あれ以外に助かる方法はなかった。それは事実だ。

 それでも、私の分の悪い賭けに文句ひとつ言わず信頼を預けてくれたみんなに対し、不完全な転移でこんな事態を招いた以上、無事を確認するまで休むわけにはいかない。


「――――とかなんとか、考えてるんだろ?」


 章介さんの言葉に私は絶句した。


 今まさに考えていたことを見透かされたからだ。まるで心を読まれたような錯覚。

 今、鏡を見れば相当マヌケな顔をしているはずだ。目は見開き、口は半開き。そんな自覚がある。


「……なんで?」


 ぽつりと漏れた声に、かすかに笑うような気配が返ってきた。


「なんとなくだよ。普通は無理だけど、お前の考えは何故か、なんとなく分かるときがあるんだよ」


『合ってるだろ?』と確認する声に、私は『……合ってる』と一言返すのが精一杯だった。


「ティオの気持ちは分かる。俺はお前らと違って安全圏にいるから無責任に聞こえるかもしれないけど、もし俺がお前の立場でも同じことをしたはずだ。……ただ、それでも、あの状態のお前を送り出す気にはなれなかった。だから悪いけど、一旦止めさせてもらった」


「え?」


 疑問符が浮かぶ。


「俺も謝らなきゃいけない。ごめん、昨夜お前が寝落ちしたのは疲労のせいだけじゃない。俺が最後に背中を押した」


 水晶(章介さん)から謝罪の言葉が響く。画面の向こうで彼が頭を下げている雰囲気が伝わってくる。


「どういうこと? ……もしかして、食事に何か盛った?」


 思い当たる節があるとすれば、あの食事しかない。

 もし睡眠薬でも入れていたのなら、女性に対してそれは『事案』だけどね。

 まあ、章介さんが変なことをするとは思えないけど、万が一の時は責任を取ってもらおう。

 これがソフィーなら、可能性は『万が一』から『十が一』くらいに跳ね上がるけど、それは二人に対する信用だ。良くも悪くも。


「いや、盛ったわけじゃないんだが、近いものはあるかもしれない。あの時飲ませたホットミルクには、寝付きを良くする効果があったんだよ。疲労を隠してるのは薄々気づいてたから、休ませるために飲ませた。……まあ、お前の言う通り本当に疲れがないなら、効果なんて出なかったはずだけどな」


 なるほど。

 章介さんが意図を持って食事を出したのは確かだが、結局は私の体力が限界だったという話だ。

 思うところが全くないと言えば嘘になるけど、それも私を心配してのこと。文句を言うつもりはない。


「それなら別に謝らなくていいよ。きっかけは章介さんでも、寝ちゃったのは結局私のせいだから」


「……そうか」


「ただ、それでも休んでいるつもりはないよ。誰に何と言われようと、転移の失敗は私が背負う。みんなと合流できるまで、この荷物を降ろす気はないから」


 それだけははっきりと伝えた。

 ソフィーもマリア姉もツバメさんも、間違いなく『貴方のせいじゃない』と言ってくれるのは分かっている。それは確信している。


 でも、もし私が研究を早めていれば。別のやり方を模索していれば。私に魔法の才能があれば。もっと別の結果を引き寄せられたかもしれないのだ。

 もちろん仮定の話だし、今回の結果が最良だった可能性だってゼロじゃない。


 けれど、そんな甘えに溺れている間に三人の身に何かが起これば、私は私を許せなくなる。

 だから、疲労を隠していたことは悪いと思っているが、それでもみんなを助けに行こうとしたこと自体を謝るつもりはなかった。


「分かってる。だからティオ、お前はやりたいように進め。ヤバそうな時は、俺が強制的に止めるから」


「は?」


 再び、呆けた声が漏れた。

 てっきり止められるか、『そんな考え方はやめろ』と諭されると思っていたからだ。

 私だって逆の立場ならそう言ったかもしれないからだ。現状は棚に上げて。


「そんな声出すなよ。俺だって、余計なもん背負い込むなとは言いたい。けど、お前は考えを改める気なんてないだろ? 頭が固いわけじゃないから俺の言いたいことも理解してるはずなのに、その上で悪いと思いながらの行動、だろ?」


 言葉が流れていく。

 私はアホみたいに口を開けたまま微動だにできなかった。

 自慢の頭脳は真っ白だ。


「いらないもんまで背負い込んで、それを他人と共有するのが苦手だろ?なまじ優秀な分、自分一人でどうにかしようとするタイプ。……なんていうかお前って、めちゃくちゃ賢いくせに、それ以上にアホな努力家だよな」



《貴方は非常に優秀ですけれど、どこか抜けたところがある頑張り屋さんですね》



 いつかどこかで聞いたフレーズが、記憶の底から蘇った。

 そして、さっき抱いた直感も。

 この人とは、生涯にわたって付き合っていくことになるだろうという予感というか運命を。


「……ふ、ふふふ……あはははは! ……そっかそっか。章介さんは、私に『進め』って言うんだ」


 気がつけば、私は大声で笑っていた。

 心からの笑い。

 ドラゴンの襲来から今まで、ずっと張り詰めていた糸が、わずかに緩んだ気がした。


 ……まあ、そんな私の様子に、章介さんは若干引いていたみたいだったけど。

読んでいただきありがとうございます。

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