018 【ブロート3】その2 ~ラスボス戦突入 ドラゴンの少女~
頭部の角に赤い稲妻を走らせた対戦相手は、本作のラスボス――ドラゴンの少女。
ゲーム内最強を誇るキャラクターであり、友人同士の対戦では『使用禁止』を言い渡されることも珍しくない。
【ドラゴン・ブレス】
それはドラゴンの少女が持つ、あまりに理不尽な必殺技だ。
発動後に起こした連鎖数を『2倍』にする。つまり、5連鎖は10連鎖に、10連鎖は20連鎖へと跳ね上がる。
高難易度になるほど、相手は息をするように連鎖を組んでくるため、その性能はもはや『極悪』の一言。状況によっては『技の発動=ゲームオーバー』を意味するクソ仕様だ。
俺が普段、ストーリーモードで必殺技設定をオフにしている理由が、まさにこれである。
特にレベル10の強さは凄まじく、これを攻略できるかどうかが、このゲームにおける最上級者のステータスとなっている。
ちなみに『必殺技オンの状態で、自分だけ必殺技を使わない』という縛りプレイは、究極のやりこみ要素と言われているが、いまだ世界中に達成者は一人もいないらしい。
つまり、何が言いたいか。
「うっがぁああああ!!!全っっっ然勝てる気がしないぃいいい!!!」
ドラゴンの少女にボコボコにされ、頭を抱えて吼える人物が一人。
史上最年少の魔導研室長(21)――ティオの姿があった。
現在、連敗記録は49を更新中だ。
「おい大丈夫か? 少し休めよ。お前がそこまで絶叫するのを見るのは、俺がお前の異世界話を信じてなかったとき以来だぞ」
「その話今やめてもらえる? ただでさえイライラしてるのに、思い出すとまた叫ぶかもしれないから」
どうやら相当キているらしい。
ラスボス戦の開始から約三時間。不休で挑んでは敗北を繰り返し、叫ぶ彼女の姿に俺は本気で心配になってきた。
彼女の名誉のために言っておくが、決して下手なわけではない。むしろ対戦のたびに上達しているのが見て取れる。全国ランキングでも最上位に食い込める実力はあるはずだ。
だが、相手はパズルゲームの上級者を容易に蹴散らしてきた『壊れキャラ』である。
ティオほどの腕を持ってしても、勝機が全く見えない。
「ただ、どうするか……。角の稲妻エフェクトはレベル10の証だし、このまま闇雲に続けても相当厳しいぞ」
「それは痛感してるよ。ただでさえドラゴンに襲われて今の状態なのに、本気でドラゴンのことが嫌いになってきたよ……」
「……まあ、そうだろうな。コンティニューができたのは唯一の救いだった。でなきゃ、今頃50回は命を落としてたかもしれない」
「違うよ。まだ49回だから」
「律儀に数えてるのかよ」
とはいえ、彼女の言う通りコンティニュー機能には救われた。
最初に敗れたときは血の気が引いたが、おかげで何度も再挑戦できている。
しかし、手を止めて一息つくティオの表情には、隠しきれない疲労が滲んでいた。レベル調整機能がバグで死んでいる以上、思いつく打開策は一つしかない。
「やっぱり、こっちも『必殺技』を使うしかないよな……」
相手が使えるなら、プレイヤー側にも相応の対抗手段があるはずだ。
それさえ発動できれば、逆転の一手になるに違いない。だが――。
「それは分かってるんだけどさぁ……。どんな技なのか、どうすれば発動するのかさえ分からないんじゃ、どうしようもないよ」
「だよなぁ。説明欄も文字化けしてて読めないし……」
溜息を吐くティオの隣で、俺もモニターの前で頭を抱える。
俺たちも思考停止で挑んでいたわけではない。最初から必殺技の必要性は感じていたし、試行錯誤も繰り返してきた。
だが、俺に操作を預けてキーボードの発動ボタンを叩いても、何も起きない。
本来のプレイアブルキャラではないティオには、必殺技が存在しないのではないか――そう疑いもしたが、バグった説明欄には確かに『何か』が記されている。
「……なあ。試しにさ、ティオ自身が魔法を使ってみれば? こう、手から火とか雷を出す必殺技みたいに」
半分は場を和ませるための冗談だった。
次元転移なんて規格外の現象を引き起こせるなら、そんな漫画のような魔法も使えるのではないか、という安直な思い付き。
「……それができなかったから、学院時代にあんなに苦労したんだけど?」
「え!? 本当にあるの? 冗談のつもりだったんだけど!」
驚いて声を上げてしまった。
どうやら、ファンタジーの王道を行く攻撃魔法は実在するらしい。
「あるよ。王立魔法学院に入学したら最初に教わる基礎中の基礎。私は、入学から卒業して今に至るまで、一度も使えたことがないけど」
「え? でも、お前は俺の目の前で『転移魔法』を使って見せただろ?」
その言葉に反論する。
なにせその証拠である金貨は、今も俺の手元にある。
しかし、ティオは力なく首を振った。
「あー、違う違う。あれは【魔法】じゃなくて【魔術】だよ、転移魔術。結果は同じに見えるけど、過程が全然違うの」
「魔術? 魔法じゃなくて? ……何が違うんだ?」
「……そうだね。章介さんにはまだ詳しく説明してなかったっけ。折角だし、気分転換に少しだけ講義してあげようか」
困惑する俺を見て、ティオは一旦ゲームの攻略を休止した。
彼女自身、かなりの疲れが溜まっているのだろう。俺への説明がてら少し休憩を入れるようで、『よっこいしょ』と腰を下ろし、息をつく。
「じゃあ説明といこうか。……と言っても分類は簡単だよ。『魔法』っていうのは、自分の魔力を直接変換して事象を起こすこと。さっき言ったみたいに火や雷を自在に出すようなものだね。本人の技量次第で様々なことができる。対して『魔術』っていうのは、術式の刻まれた魔法陣に魔力を流して、あらかじめ決められた事象を起こすこと。魔力さえあれば誰でも使えるけど、術式に書かれたこと以外はできない。……ほら、私はいつも何かしら道具を使っていたでしょ?」
言われてみれば、と思い当たる。
転移の際、彼女は必ず魔法陣を用いていたし、通信には水晶を介していた。
それに彼女は一度も、『魔法』という言葉を使っていなかったかもしれない。
「私はね、これでも百五十年続く学院の歴史上、最高値の魔力量を記録してるんだ。でも、その魔力を魔法に変換する才能が完全に欠如しててね。自力じゃ、火花一つ起こせないんだよ」
遠い目をしながら、彼女は『あはは』と笑い声を漏らす。
昔を思い出して乾いた笑いが出てきたようだ。
魔法学院に入学して魔法が使えなけりゃ、そりゃ苦労も人並外れていただろう。
「マジかよ……。というか、よくそれで入学できたな? しかも卒業までこぎつけるなんて、普通じゃありえないだろ」
たとえるなら、国立の外国語科に外国語が喋れないまま入学し、同じく喋れないまま卒業したようなものだ。
「入学試験は、筆記のほかは『魔力量の測定』で合否が決まるからね。魔力さえあれば、魔法が使えないなんてことは普通あり得ない。だから、資質がある子を獲って、後から鍛えればいいっていう考え方みたいだよ。魔力量だけは後天的に増やせない、生まれ持った才能だから。……まあ、私は前例のない例外中の例外だったわけだけど」
「……なるほど。システムの穴を突いた形になったわけか。学院側も、まさかそんな特殊個体が入ってくるとは思わなかっただろうな」
その後の試験内容が改定されたであろうことは、想像に難くない。
「おかげで私でも潜り込めたんだけどね。ただ、私が受ける数年前までは試験内容が違ってたらしいよ? それまでは魔力量じゃなく、魔法技術のセンスで判断してたんだって」
「え、正反対じゃないか。その数年で何があったんだよ」
もし昔の試験内容だったら、ティオは門前払いだったはずだ。
ティオにしてみればラッキーだったのだろうが、それだけ方向転換した理由が気になる。
「うーん、なんか聞いた話だとね?その数年前の主席合格者が、入学後に『魔力がほとんど無い』って判明したらしいの。入学試験のときに使った初級魔法以外、まともに発動できなかったんだって。それで学院側も慌てて、『後から鍛えようがない魔力量を最重視しよう』って方針転換したとかなんとか」
「……あー、そしたら今度は、正反対のお前が入学してきたと。ルールには従ってるけど、学院側は大混乱だな」
「どんなルールにも穴はあるってことだね。……それにしても、聞けば聞くほど私と正反対だよね、その先輩。あれ?そう言えばそんな話、つい最近どこかで………………あっ!?」
「わっ!? 急に大声出すなよ!」
考え込んでいたティオが唐突に叫び、俺は肩を跳ねさせた。
「あ、ごめん。何でもないよ。ただ、世間って思ったより狭いんだな、って思っただけ」
「……なんだそりゃ?」
俺にはさっぱりだったが、ティオの中では何かが繋がったらしい。彼女はスッキリとした顔で笑っていた。
「まあ気にしないで。……で、卒業できた理由だっけ? それは簡単。魔法の実技は退学レベルだったけど、魔導工学の結果と実績で黙らせたの。国家の発展に寄与する発明をいくつか提供したら、学院もおいそれと退学も落第もさせられなくなっちゃって」
「……さらっと言うけど、とんでもない偉業だよな、それ」
既存の価値観をひっくり返して卒業を勝ち取った彼女は、やはり傑物なのだろう。
普段のやり取りがアレすぎて、馬鹿をやっている友人以外の感情が湧いてこないが。
唸る俺の様子を見て、ティオはムカつくにやけ面でこちらを見た。
「どう? 今からでも私のこと崇めていいんだよ? 敬語とか使って」
「……いや。事実だけ聞けば凄いんだろうけど、俺にとっては友人のティオ以外の何物でもないからな。今さら敬語なんて使う気になれん」
本音をぶつけると、ティオは一瞬目を見開き、そして大爆笑した。
「あはははは! そうだよね、章介さんならそう言うと思ってたよ!」
「……俺はそこまで笑われるとは思わなかったよ。もしかして馬鹿にしてる?」
なおも笑い続けるティオに疑問を投げると、彼女は『ごめんごめん』と笑いを収め軽く手を振った。
「違う違う。章介さんはやっぱり私の友人だな、って再確認しただけ。気にしないで」
少し納得はいかないが、彼女の機嫌が直ったなら良しとしよう。
話は脱線したが、一つ分かった。ティオは魔法が使えない。つまり、彼女のキャラクターの必殺技も、いわゆる『魔法攻撃』ではないということだ。
雑談のおかげか、場の空気はすっかり和んでいた。
そしてお互い何を言うでもなく、再び攻略へと意識を切り替える。
「さて。再開するけど、やっぱり必殺技の詳細解明が必要だよね」
「結局そこだよなぁ。あのバグった説明欄さえ読めれば……。俺が操作してもダメ、ティオが試してもダメ。一体どういう必殺技なのか……って…………あれ?」
「? どうかした?」
操作説明の画面を何気なく開き直した俺は、さっきまでバグっていた説明欄で目が留まった。
ティオからはゲームの説明画面は見えないため、モニターを見ている俺しか気付かなかったが、先ほどまでとは明らかに異なっていたのだ。
「説明欄のバグが……直ってる」
「え、ホントに!?」
ティオが身を乗り出す。
ついに掴んだ突破口。今までの惨敗続きを思えば気持ちは良くわかる。
「ああ、本当だ。……でも何で急に直ったんだ?」
「……そうだねぇ。もしかしたら、ずっと対戦を続けてたことで、絡まってたデータの鎖みたいなものが解れたのかも。だとしたら、49連敗も無駄じゃなかったかな」
「そうかもな。……まあ、最初から勝てていれば連敗する意味はなかったけどな」
「それはそう」
軽口を叩き合いながらも、期待に胸が膨らむ。
俺はティオに急かされるまま、ついに判明したその『必殺技』の記述を読み上げた。
「「…………………………は?」」
二人の声が、完璧に重なった。
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