017 【ブロート3】その1 ~ティオの実力~
「これでどうだぁ!行っけぇええ!!」
叫び声と共に、ティオが拳を握りしめる。
画面内ではブロックが怒涛の連鎖を刻んでおり、ドッカン、ドッカンと爆発音を響かせながら消えていく。
激しいエフェクトが収まった画面には、【13連鎖】の大きな文字が浮かび上がった。
対戦相手であるウサギ耳の少年のフィールドには、送り込まれた邪魔なブロックが天井まで積み上がり、これ以上の続行は不可能となった。
画面中央に【YOU WIN】の文字が踊る。俺たちの勝利だ。
一人目の挑戦者を退けた――正確には、ティオが退けたのだが。
画面の中では、勝利の余韻に浸るティオが満面の笑みでガッツポーズを決めている。
「お疲れ。……というかお前、このゲームめちゃくちゃ上手いな。とても初めてプレイしたとは思えないんだけど」
さっきの立ち回りを思い返す。どう考えても、俺より遥かに筋が良かった。驚きと、ほんの少しの嫉妬が混じった声が出る。
「お、そう?ありがとね。最初は少し戸惑ったけど、途中からはまあまあ上手くいったと思うんだよね」
ティオが顔をこちらへ向けて笑う。実に楽しそうだ。
序盤の操作に手こずっていた時ですら、調子のいい時の俺と同レベルだった。
「いやぁ、このゲーム、前から一度やってみたかったんだよね。今までは異世界越しに見てることしか出来なかったしね。思っていたより楽しいし、結構得意かも。どうにかして元の世界に持って帰れないかな?」
「……確かに。以前、俺がプレイしている時に、画面越しにやいのやいのとヤジを飛ばしてくれてたもんな」
「だって章介さん、下っ手くそなんだもん。なんでそんなところにブロック積むの!って、ついつい口から出ちゃって」
にこやかにイラッとする言葉を投げてくるが、これだけの腕前を見せつけられては反論できない。悔しいが、言うだけのことはある。
以前も彼女のヤジにイラッときて机を叩いたことが何度もある。あれがもし隣で対戦している男だったら、今ごろリアルファイトに発展していたかもしれない。異世界越しの女性で本当に良かった。
……まあ、逆の立場なら俺も煽っていただろうから、お互い様ではあるのだが。
「でも、章介さんはもちろん、私もブロックを操作できたのは大発見だよね。ゲームの側から見ればキャラクターが操作しているんだから、当然といえば当然なのかもしれないけど」
「まあ、理屈はそうなんだろうけどな。キーボードを叩く前にブロックが勝手に動き出した時は、何のバグかと焦ったぞ」
「章介さんのプレイを見ながら『私だったらこうするのに!』って考えてる時間が長かったからね。念じたら思い通りに動いたから、私もびっくりしたよ」
おかげで俺は、今のところ見ているだけで済んでいる。せいぜい【次に進む】の決定ボタンを押すくらいだ。今も画面に映る彼女を眺めている。
勝利を収めたティオは、浮かれるのをやめて自分の体や周囲の様子を丁寧につぶさに観察し始めた。
「で、どうだ? 何か気づいたことはあるか? 僅かな違和感でもいい」
一度の対戦で何かがわかるとは思えなかったが、ダメ元で聞いてみる。予想に反し、彼女は何かに気づいたようで、しきりに腕や足を確認している。
「……そうだね。偶然かもしれないし、まだ確信は持てないんだけど。ひとまず、次の対戦をさせてもらっていいかな?」
「? わかった。じゃあ【先に進む】を押すぞ」
言われるままにクリックすると、『デデデーン!』という効果音とともにVSの文字が現れ、ネコ耳の少女が立ち塞がった。
ティオは今回もやる気満々のようで、指を組み、手首を回してストレッチをしている。
……ゲーム内なら思考だけで操作できるはずだから、肉体的なストレッチは意味がない気がするが。まあ、やる気だけは伝わってくる。
――――――――――――――――――
【YOU WIN】
そしてコイツ、やっぱ上手い。二人目にもあっさりと勝利しやがった。
画面には再び勝利の文字。
しかし、ティオは喜ぶよりも先に自らの状態を確認し、確信を得たように一つ頷くと、こちらに視線を向けた。
その真剣な眼差しに、俺も自然と背筋が伸びる。
「章介さん、一つ分かったことがある。どうやらこのゲームから抜け出すには、最後までクリアする必要があるみたい」
「どういうことだ? さっきから体を調べていたことと関係があるのか?」
俺の問いに、ティオは『おー』と感心したような声を出し、パチパチと小さく拍手した。
「正っ解。実はね、このゲームに入り込んだ時から、見えない鎖に絡みつかれているような違和感があったんだよ。それが、対戦に勝利するたびに弱くなってる。二回勝って確信が持てた。体感だと、あと三回くらいで完全に無くなると思う」
「合計で五戦……。ちょうどストーリーモードの対戦回数か。確かに計算が合うな」
こんな状況下でも冷静に思考を巡らせる、この頭の回転の速さは彼女の大きな長所だ。
「でも、なんでそんな囚われたような状態になっているんだろうな?」
ふと漏れた俺の呟きに、ティオは腕を組み、眉を寄せる。どうやら彼女の中ではすでに仮説が組み上がっているようだった。
「……あくまで推測だけどね?私たちが転移に失敗してPC内に異物として放り出された時、データやシステム自体が、糸が絡まるみたいにグチャグチャにバグっちゃったんじゃないかな。私もそれに巻き込まれた状態なんだと思う。だから、本来の手順通りにゲームをクリアして絡まった糸を解いていけば、ここから動けるようになるんじゃないかな、って」
「……なるほど。もしそれが正しいなら、ソフィーさんたちを他のゲームで見つけても、同じように攻略する必要があるってことか」
「可能性の話だけどね。とにかく、やってみればわかるよ」
ひとまずの方向性は定まった。これが『プログラムを書き換えろ』なんて話だったらお手上げだったが、ゲームの攻略ならまだ望みはある。
「じゃあ章介さん、次よろしく」
「はいよ」
クリックし、三人目の相手へ。狼の耳と尻尾を持つ少女が現れる。
ここまで二回程ティオの対戦を見ていたわけだが、彼女の腕前はかなり高い。多分最高レベルに近い8~9ぐらいでもクリアできるはずだ。
このゲームの標準はレベル3で、パズルが得意でない俺は、調子が良くてもレベル5が限界だ。なので俺は普段、このゲームのレベルを5以上に上げることはない。
だからティオなら難なくクリアしてくれるだろう。……この時は、そう楽観視していた。
だが、ここから予想外の事態が起きる。三人目の対戦時間が長引いたのだ。
そして四人目。獅子のたてがみを持つ青年。
ここで、悪い予想が確信に変わった。獅子の青年が、あろうことか『必殺技』を発動してきたのだ。俺は基本、この設定をオフにしているはずなのに。
【獅子の咆哮】
―― 対戦相手の操作を3秒間受け付けなくさせる ――
一瞬の動揺を見せたものの、即座に立て直したティオの集中力は見事だった。しかし、勝負は一進一退の激戦となる。腕前はティオが上だが、必殺技がその優位を強引に削り取っていく。
連鎖と連鎖の応酬。
最後は力と速さでねじ伏せるようにして、ティオが辛くも勝利を掴み取った。
「……はぁ、はぁ……っ、勝ったぁ……」
脱力したように深く息を吐くティオ。正に紙一重の勝利だった。
だが、事態は深刻だ。
「……ティオ、これマズいぞ。設定が書き換えられてる。確実にレベル9以上だ。おまけに、オフにしたはずの必殺技まで有効になってる」
「……だろうね。いやぁ、歯ごたえのあることあること。ただゲームを楽しむだけなら大歓迎だけど、今は勘弁してほしいところだよね……」
生死が懸かっているこの状況で、敵の強さは絶望でしかない。
そして次の五人目は、固定のラスボス。ドラゴンの少女。
元々スペックが高い上に、凶悪な必殺技を持つ『壊れキャラ』だ。四人目でこの苦戦なら、勝ち目はまずないと思っていい。
「……どうする?」
レベル6以上では、俺が代わったところで足手まといになるだけだ。ティオに託すしかない。
「……五人目はドラゴンの少女だったよね?章介さんが毎回苦戦してたのは覚えてるけど。……でも、やるしかないでしょ。ゲーム通りなら、負けてもコンティニューできるはずだしね」
「と言ってもゲーム自体がバグってるからな。万が一、コンティニューが効かなかったら……」
どうしても慎重になってしまう俺に対し、彼女はどこまでも前を向いていた。
「章介さん、言ったでしょ?『虎穴に入らずんば』って。進まなきゃいけない時は、躊躇しちゃダメだよ。前のめりで行こうよ」
彼女の強さが、眩しく見える。
一番の危機にさらされている本人がそう言うのなら、俺に拒否権はない。俺にできるのは、攻略法を死ぬ気で考え、少しでも彼女のサポートをすることだけだ。
「わかった。……ならいくぞ?」
「オッケー。いつでも」
【先に進む】
カチリ、とクリック音が響く。VSの文字と共に、画面にはラスボス、ドラゴンの少女が映し出された。
運命のラストバトルが始まる。
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