014 ティオside ドラゴン襲来その6 ~試作型貫通炸裂式魔導砲~
「急げ! 作戦開始地点まで全速力で駆けろ!!」
「ちょっとソフィー、速いって!押さないでよ!」
「ティオが遅いんですよ!貴方、体が鈍りすぎじゃないですか!?」
「お二人共、黙って走りましょうねぇ」
「…………………」【急げ急げ!(`・ω・´)】
頭上でフレイムドラゴンが旋回する中、私たちは駆けていた。
先程のブレスの暴発は、予想以上にドラゴンを警戒させることに成功したようだ。だからといって見逃してくれる気配は一切ないが、僅かながら作戦の準備時間を確保できた。
現在、テラスの中心部では、六十三人の騎士団員と十人の魔導研という、この場で動ける大半の戦力が展開している。彼らが魔法で牽制しつつ守りを固め、ドラゴンの注意を引きつけている隙に、私、ソフィー、マリア姉、ツバメさん、司令官と騎士団員四名が、東の研究棟へ続く屋上通路をひた走る。
通路の真ん中付近で立ち止まり振り返ると、テラスでは降り注ぐブレスによって、少しずつ戦力を削られる皆の姿が見えた。少ない人数でよく持ちこたえてくれているが、そう長くは持たないだろう。こちらもすぐに陣形を整える。
通路の幅は5mに満たない。
そこにマリア姉を中心に、すぐ後ろに私とソフィー、その周囲を大盾を構えた騎士団員が囲む。
この作戦を成功させるためには、二つの条件をクリアする必要がある。
一つ目は、急降下ブレスに耐えること。これは親衛隊の魔道具付き大盾と、マリア姉の反射防壁で対応する。
二つ目は、上昇に転じる瞬間の腹部を狙うため、ドラゴンを正面からの急降下軌道へ誘導し、私たちの真上を通過させることだ。
そのためにテラス中央で足止めした後、東棟へ直線に伸びる屋上通路へとドラゴンを誘い、急降下ブレスを誘発させる。この位置関係なら、確実に私たちの真上を通過するはずだ。
「ティオ様、申し訳ありませんが杖をお貸しいただけますかぁ?」
「え? あ、そうか。はい、どうぞ」
背負っていたことすら忘れかけていた杖を手渡すと、音響魔道具を足元に置いたマリア姉は、左手で杖の感触を確かめた。
念のためにとガラクタから掘り出してきた杖が、まさかドラゴン相手の実戦で必要になるとは、この杖も本望だろう。
学院時代は物干し竿としてしか役立ててあげられなくてごめんね。
「それではやるぞ。準備はいいか!?」
「「「はい!!」」」【はい!!ヽ(`Д´)ノ】
司令官の確認に、全員の声が重なる。
「では、始めろ!!」
合図と共に、マリア姉が右手のスピーカーをドラゴンへ向け、大きく息を吸い込んだ。
『こっちですっ!!!!!!!!!!!!!!』
大音量の一撃がドラゴンの意識外から直撃し、その巨体が揺らぐ。
今まで魔導研のメンバーの目眩ましを浴び続けて苛立っていたドラゴンは、横槍を入れられた怒りをこちらへ向け、溜めていたブレスと共に襲い掛かってきた。
「よし、首尾よく急降下ブレスを撃つようだ! シルヴァランス、任せるぞ! チャンスは一度だけだ!」
「お任せください」
急降下するドラゴンを見つめ、マリア姉の目が大きく開かれる。彼女はスピーカーを手放すと、杖を両手で構えた。
「今だ! 盾構え! 魔道具起動!!」
騎士団員が魔力を纏った大盾を掲げると同時、ドラゴンの顎が開き、灼熱のブレスが放たれる。
高速で迫る赤熱の塊を見据え、マリア姉は静かに呟いた。
「【反射防壁】」
――キィイイイィィン!
薄紫の膜が、金属を叩いたような高音を発し、刹那の狂いもない神業がブレスを受け止める。
瞬きほどの一瞬展開された特級防御魔法は、ブレスの一部を反射・相殺し、その威力を減衰させた。そして直後にやってくる衝撃に備え、私は足と筒を持つ手に力を込める。
一瞬後、盾を介して全てを薙ぎ倒すような衝撃が襲った。
攻撃直後の隙を狙い撃つため腰を落として踏ん張るが、そこで想定外の事態が起きる。
「………っ!? 吹き飛ばされっ……!」
(まずい、マリア姉のおかげで威力は落ちているけど、横への衝撃が最初の一撃以上だ!遠距離から急降下で、初撃よりもブレスが斜めに打ち込まれたせいか!?踏ん張りきれないっ!)
足が浮く感覚。気付いた時には10m近く後方へ吹き飛ばされていた。意地で筒だけは離さなかったが、有効射程を遥かにオーバーしてしまう。
(……痛つぅ……。っ、マズっ! 距離が遠すぎる、これじゃ鱗を抜けない!)
極限状態で引き延ばされた時間の中、視界に入る状況は最悪だった。
私とソフィーは狙撃地点から10m後方に倒れ、マリア姉は魔力切れの脱力状態で吹き飛ばされたせいでさらに遠く、東棟近くで失神している。騎士団員も数名が気絶し、残る者も復帰には時間がかかるだろう。
そんな私たちを嘲笑うかのように、ドラゴンは通路から僅か1mの高さを、上昇態勢で突き抜けようとしていた。
その様子をスローモーションのように見つめながら、私の頭は冷静に状況を判断していた。
(一か八か撃っても、この距離じゃ鱗を抜くのは不可能。しかも狙うのは腹部じゃなく、防御の固い正面になる。魔道具もほぼ動力切れ。戦力は半数以上戦闘不能。……さすがに、駄目か……)
敗北の文字がよぎった瞬間、スローモーションの視界の先で、一つの影が何かを拾い上げるのが見えた。
「……ツバメさん?」
「……ツバメ?」
上昇直前のドラゴンの前に立ち塞がったツバメさんが、片手で掴んだ魔道具へ向かって肺のすべてを吐き出した。
『止ぉまぁれぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
スピーカーから物理的衝撃を伴う爆音が響き、火花が散る。
その大声のせいか直前のブレスの衝撃のせいか、音響魔道具は最後の仕事を果たし、爆発して役目を終えた。
それなりの年月を共に過ごしながら初めて聞いたツバメさんの声に驚く間もなく、目の前でさらなる衝撃が起こる。
至近距離で頭部に衝撃を受けたドラゴンは、一瞬意識を飛ばしたのか、上昇せず慣性のまま水平に突っ込んできた。
――目の前の人物を、弾き飛ばしながら。
金属がひしげ、肉が打たれる音が響く。
15mもの巨体が、城壁を砕く勢いで激突したのだ。咄嗟に差し込まれた盾はくの字に折れ曲がり、ツバメさんの体は人形のように吹き飛んで、東棟屋上の建造物に叩きつけられた。
「ツバメさっ……」
「ツバメっ……」
視線を向けようとした瞬間、自分の上に影が差す。
意識を飛ばしたドラゴンが上昇することなく、私たちの真上を通過したのだ。
距離、僅か1m頭上。
それは完全に無意識だった。
倒れ込んだ体勢のまま、私は渾身の力で発射口をドラゴンの無防備な腹部へ向けていた。
合図はない。ただ、傍にいる親友を信じて――。
「ソフィィイイイイッ!!!」
「ティオォオオオオッ!!!」
お互いを呼ぶ声と流し込まれた魔力は刹那の狂いもなく。
切り札はドラゴンの鱗の隙間へと吸い込まれていった。
――ギィイイヤァアアアアアアアアアアアアッ!
体内に異物を打ち込まれたドラゴンが悲鳴と共に覚醒し、東棟屋上の建造物を破壊しながら再上昇していく。
私たちは風圧で数メートル転がりながらも、その姿を瞳に焼き付けていた。
「……や、やった……。完全に、鱗を貫いた……」
「……ええ。……いえ、それより、ツバメとマリアが!」
「っ! そうだ、ツバメさんがマズイ!」
私たちはすぐさま起き上がり、東棟へと駆け出した。
「私はマリア姉を助けるから、ソフィーはツバメさんを!」
「わかりました!」
倒れているマリア姉を一瞥しながらソフィーはその脇を駆け抜け、ツバメさんの元へと走っていく。
私はマリア姉の元へ駆け寄り、その頬を軽く叩いた。
「マリア姉!マリア姉しっかりして!」
「…ティオ様?…ああ、魔力切れで体が重いだけです。問題ありません…。それより、ドラゴンは…?」
「試作弾は打ち込めたよ。でもツバメさんが重傷だ。マリア姉、立てる?できればツバメさんのところまで移動したい」
「……ええ、それくらいならぁ……」
私は傍に飛ばされていた杖を拾い、マリア姉に肩を貸して歩き出す。
上空では、ドラゴンが苦痛に悶えながらのたうっていた。
「……くそっ、正規弾より炸裂が遅い」
思わず舌打ちをした瞬間、ドラゴンの縦長の瞳孔が私を射抜いた。
自分がこの苦痛の元凶だと、標的を定められたのが分かった。
背中に、嫌な鳥肌が立つ。
「やばっ……」
狙いを私に定め、激怒の咆哮を上げながら巨体が圧し潰さんと降下し始めたその時、待ち望んだ音が響いた。
――ズドォオオオオオオオオオオォンッ!
――グェヤァアアアアアアアアアッ!?
炸裂音と悲鳴が重なり合う。
威力こそ正規弾に劣るが、内臓を確実に損傷させた手応えがあった。
だが、一度落下し始めた巨体の軌道は変わらない。
「マリア姉ぇ!!」
火事場の馬鹿力でマリア姉を抱え、東棟へとダイブする。
私の体を巨体が掠めていく。
まさに間一髪、ドラゴンは東棟の一部と連絡通路を一階部分まで粉々に潰しながら墜落していった。
「ティオッ! 無事ですか!?」
「……っつつ……。……なんとか……」
マリア姉に覆いかぶさったまま、ソフィーの声に答えながら振り返ると、通路は20mにわたって崩落していた。
「ソフィーリア王女ぉ!ブルーベルベットォ! 無事かぁ!?」
ただ不幸中の幸いだったのは、司令官達が倒れていた場所までは崩落せずに済んだことだ。
崩れた通路の反対側から司令官の声が聞こえる。
「こちらは三名無事ですが、ツバメさんが重傷です!」
「……そうか!だが済まんがドラゴンが先だ! 奴はどうなった!?」
そうだ、ドラゴンはどうなった?叫び声だけは聞こえるが姿は見えない。
立ち上がろうとした瞬間、左腕に激痛が走った。ローブが破れ、上腕からかなりの血が流れている。どうやら完全には躱しきれていなかったらしい。
立ち上がり屋上から下を覗き込むと、断末魔と共に炎を吐き出し東棟周りを炎の海にに変えながら、横たわるドラゴンの姿があった。
だが叫びは次第に弱まり、一分と経たずにその動きが止まる。
「……倒した?」
半信半疑でつぶやくが、どうやら目の前の光景は幻ではないようだった。
僅か百人足らずでドラゴンを討伐したのだ。
「……やった……」
息を吐く。国亡の危機を越えたのだ。
張り詰めていた緊張が解け、安心感が体を包む。
安心する。
安心してしまった。
――だが、絶体絶命というのは、得てして唐突に訪れるものだということを、私はこの直後に思い知ることになる。
読んでいただきありがとうございます。
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