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チャット相手は異世界の女の子、転移失敗で俺のPCの中へ  作者: 約谷信太
第二章 厄災編

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013 ティオside ドラゴン襲来その5 ~ドラゴンブレス~

 それはまさしく、破壊の化身だった。


 頭上十メートルほどの高さを通り過ぎただけで、その風圧に吹き飛ばされそうになる。

 ドラゴンはそのまま旋回して高度を上げると、咆哮を轟かせながらこちらへ向けて急降下を開始した。降下のさなか、大きく息を吸い込み始めたその姿に、全身の細胞が最大級の警戒信号を発する。


「騎士隊、上空へ盾を構えろ! ブレスが来るぞ、総員、魔道具起動!!」


 司令官の怒号に、騎士たちは一糸乱れぬ動作で応じた。頭上に掲げた大盾の裏に取り付けられた魔道具が起動する。瞬間、盾が魔法の障壁を纏い、その防御力を三倍近くまで引き上げた。五人が連携して展開すれば、砲弾すら跳ね返す堅牢さを誇る。


 掲げた盾に庇われた私たちは、反撃の隙を窺おうと狙いを定める。だが、ドラゴンという存在を甘く見ていたことを痛感させられた。


 降下速度を上乗せしたフレイムドラゴンの火炎は、巨大な熱塊となって頭上から降り注いだ。





『               』





 瞬間、世界から音が消えたような錯覚に陥り、上下の感覚が霧散する。


 再び世界に音が戻ってきたとき、私は数メートル後方に叩きつけられていた。すぐ隣には、同じようにソフィーが倒れている。何が起きたのか一瞬理解が及ばなかったが、顔を上げ、周囲の惨状に息を呑んだ。


 ブレスを防いだ騎士団員のうち、二十人近くが倒れたまま動かない。私とソフィーは、司令官とツバメさんが守り通してくれたおかげで目立った怪我はない。だが、たった一撃で戦力の二割が戦闘不能に陥るという悪夢のような事態だ。魔法の障壁が防波堤となったため城への延焼こそ免れたが、その衝撃だけで外周の一部が崩落していた。


 百年前、一国を滅ぼしたという暴力の片鱗を目の当たりにし、背筋に冷たいものが走る。魔道具の補助がなければ、今の一撃で全滅していただろう。


 実戦は初めてではない。だが、あまりに現実離れした暴力に体が硬直する。しかし、戦況はこちらの動揺が収まるのを待ってはくれない。頭上には、さらなる脅威が迫っていた。


 旋回したドラゴンが、再び降下に移る。連続では放てないのかブレスの予兆はないが、その圧倒的な重量で全てを押し潰そうとする構えだ。その威容が、走馬灯のようにスローモーションで目に焼き付く。


「……あ」


 無意識に声が漏れる。だが、頭をよぎった死の予感を、鋭い一喝が吹き飛ばした。




『止まりなさいッ!!!!!』




 指向性を持つ爆音がドラゴンを直撃する。悲鳴のような叫びを上げて巨体がわずかに揺らいだ瞬間、その頭部を目がけて一筋の影が残像を引いて激突した。


 “ゴガンッ”という凄まじい衝撃音。ドラゴンの巨体は強引に進路を変えられ、再び城壁を削りながら下方へと姿を消していく。


「二人とも、ご無事ですかぁ!?」


 呆然と倒れ伏す私たちの元へ、マリア姉が音響魔道具とスピーカーをそれぞれ片手に抱えて走り寄ってきた。先ほどの聞きなれた声は、初めて聞く彼女の大声だった。


 そして、私たちの前で仁王立ちしているのは、大盾を構えたツバメさんの背中だ。ドラゴンの側面にシールドチャージを叩き込み、軌道を逸らしたらしい。あの速度と重量を弾き飛ばす身体能力……さすがは王国最強の第一騎士団、随一の実力者だ。


「…………………」【何とか間に合ったε-(´∀`*)】


「二人とも立てますかぁ? またすぐに来ますよぉ」


 その言葉で、ハッと我に返る。


(そうだ、私たちはアレを倒すためにここに残ったんだ。尻込みするのは後でいい。放心している暇なんてない!)


 倒れたまま、両頬を『パンッ』と思い切り叩いた。なぜか音が重なって聞こえたが、気にしている余裕はない。


「ソフィー!!」


 立ち上がりざまに振り返ると、私と同じように頬を赤くしたソフィーと目が合った。


(あ、同じタイミングで気合を入れたのね……)


 一瞬だけ顔を見合わせたが、すぐに転がっていた筒を拾い上げる。視界の端に映る巨体。再び上昇していくドラゴンを見上げ、私は忌々しく舌打ちした。


「ああやって飛ばれると、遠距離攻撃の手段が足りないのが響くね」


「そうですね。倒せなくても、せめて目眩まし程度の手札は欲しいところです。私も魔法攻撃に回りましょうか?」


「いや、ソフィーの魔力は温存したい。狙撃だけに集中して」


「……分かりました」


 こちらの会話が筒抜けであるかのように、ドラゴンが次なる行動に出た。先ほどの音響魔道具を警戒しているのか、今度は上空で高速旋回を維持したままブレスを溜めている。マリア姉が何度か音響魔道具で阻害を試みるが、ことごとく躱される。遠距離要員が彼女一人だと見抜かれ、マークされたようだ。


「まずい、またブレスが来る!」


「…………………」【二人とも私の後ろへ!ヽ(`Д´)ノ】


 ドラゴンがブレスを放とうと顎を割った瞬間――その口内に、鋭い雷光が走った。


“ゴオオォォォン!”


 放たれる寸前だったブレスがドラゴンの口元で暴発する。


「騎士隊、盾を構えろ! 衝撃に備えよ!」


 司令官の号令と共に現れた盾の列が、上空からの余波を遮断する。今回は直撃ではなく遠距離での爆発だったため、誰一人欠けることなく耐え抜くことができた。


「ソフィーリア様、ご無事で!?」


 盾を下ろしながら司令官が問う。その周囲には、隊列を組み直した騎士団員達が盾を構えている。さらに少し離れたところでは、ローブを纏った十人ほどの集団が杖を掲げていた。魔導研の研究員たちだ。中央には、グラム室長の姿も見える。


「今のは、魔導研の皆の魔法? ブレスを誘爆させたの?」


 私の呟きに、司令官が応じる。


集合魔法(アセンブル)だ。ブレスの瞬間に合わせて初級魔法を束ねて叩き込んだ。魔導研の面々でも、この程度なら使える」


初級雷撃(サンダーショット)ですか。学院の一年目で習う基礎魔法ですね」


「そうだね。私は卒業しても、まだ使えないけどね」


 私の告白に、周りが沈黙する。ソフィーだけは吹き出しているけど。司令官の『信じられない』という視線が痛い。仕方ないでしょ、学院史上最低の才能は伊達じゃないんだよ。


「というか今更だけど、グラム室長は音響魔道具の担当じゃなかったの?」


「私が本体を片手で持てると知って、『なら一人で大丈夫だろう』と魔導研の方に行かれましたぁ」


「見ての通りだ。魔導研を統率して指揮を執ってもらっている。個別の魔法では届かずとも、集合魔法(アセンブル)なら多少の撹乱にはなる」


 なるほど、一手増えたのは大きい。0.数パーセントでも、勝機は上がったはずだ。


 上空の爆煙が晴れるのを睨みつけていると、怒り狂った咆哮が響き渡った。再び姿を現したドラゴンには、目立ったダメージは見当たらない。嫌になるほどの頑強さだ。だが、今の爆発に少しは怯んだのか、先ほどより高度を上げて様子を窺っている。


「余波とはいえ、至近距離で爆発を食らってあの程度とはな……。やはり作戦通り、試作弾を直撃させるしかないか」


「ええ。となると、最初の状況が望ましいですね」


「……まさか、あの急降下ブレスを誘うというのか!? どんな被害が出たか見たはずだぞ!」


 司令官が驚愕に目を見開く。何せ一撃で部隊の二割が壊滅したのだ。


「もちろんです。私もあの時吹き飛ばされましたから。しかし、アイツはブレスを放った後、地面スレスレの高度から再上昇に転じます」


「……なるほど。降下から上昇に切り替わる瞬間、私たちの頭上で無防備な腹部をさらけ出すわけですね」


「さすがソフィー、その通り」


「となると、問題はどうやってあのブレスを凌ぐか、ですが……」


 そう、そこが最大の難問だ。魔道具を併用した防御すら容易く粉砕する破壊力をどう防ぐか。あと一段階、防御を上乗せする手段があれば……。そんな中、思いもよらない声が上がった。


「『反射防壁(リフレクトシェル)』ならどうですかぁ?」


「特級防御魔法の? そりゃ使えれば最高だけど、魔法師団にすら使い手はいないんじゃないの?」


「ああ。王国どころか、世界中でも三人といないはずだ」


「私、使えますよぉ」


「「「は?」」」


 衝撃の告白に、ドラゴン戦の最中であることも忘れて全員の視線がマリア姉に集中した。


「いやいや、何を言ってるの? 冗談を言っている場合じゃないんだよ?」


「そうですよ、マリア。もし本当なら、なぜ私のメイドなんてしているのですか?いえ、貴方をメイドにしたのは私なのですけれど」


 皆の表情が疑念に歪む。そんな魔法が使えるなら、魔法師団の隊長クラスは確実だ。メイドなんかをしているのは、もったいなさすぎる。


「それはですねぇ、ティオ様の『逆』なんですぅ」


「私の逆?」


「はい。私は魔法技術こそ学院史上最高でしたけどぉ、魔力量が学院史上最低でしたので、まともに魔法が発動しないんですよぉ」


「「「はぁ!?」」」


 再び声が重なる。全員の視線がマリア姉に釘付けだ。今ドラゴンに襲われたら全滅間違いなしだ。


「なんだその才能……!ブルーベルベットの魔力があれば、間違いなく歴史に名を残せただろうに!」


「そうですよ!ティオの持ち腐れている魔力があれば!」


「…………………」【勿体無いよね……(´・ω・`)】


「……皆、ひどい言い草だね。特にソフィー」


 自分でもそう思うが、面と向かって言われると腹が立つ。ソフィーに『後で覚えておきなよ』と睨むと、『後があるなら幾らでも』と返された。確かに今は生き残るのが先決だ。まずは彼女の話を聞こう。


「で、マリア姉。まともに発動しないって、反射防壁(リフレクトシェル)はどうなるの?」


「発動自体はしますよぉ。ただ、全魔力を注ぎ込んでも、持続時間は0.1秒以下といったところですねぇ」


「コンマ一秒!? たったの!?」


「それでも、ブレスが着弾する瞬間に合わせれば、反射された火炎と後続のブレスが打ち消し合って、威力は減衰できるはずですぅ。ただ、私は魔力切れで倒れてしまいますがぁ」


「いや、そんな瞬きのタイミングを合わせるなんて、現実的に……」


 しかも、一度使えばマリア姉は戦線離脱の博打になる。作戦に組み込むには、成功率が低すぎると口を開きかけた私に、マリア姉はニコリと微笑んで言った。


「できますよぉ。0.05秒までの精度なら、確実にぃ」


『……』


 皆、言葉を失った。考えていることは同じだろう。

 ……マリア姉のスペック、本当にどうなっているんだ。


「先ほども言いましたけどぉ、女性は不思議がいっぱいなんですよぉ」


 そんなことを言われても、不思議なのは『マリア姉』であって『女性』ではない。断じて。




 ――だけど、もしそれが本当なら。これこそが、起死回生の一手になる。




 私は素早く作戦の概要を伝えた。司令官は数瞬の沈黙の後、力強く頷き、傍らの伝令を走らせた。





 ――――対ドラゴン戦、最終局面の幕が上がる。

読んでいただきありがとうございます。

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