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チャット相手は異世界の女の子、転移失敗で俺のPCの中へ  作者: 約谷信太
第二章 厄災編

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010 ティオside ドラゴン襲来その2 ~第二の脅威~

 ブラウバルト王国は夜明け直後にも関わらず、かつてない喧騒と緊張に包まれていた。


 百年以上記録にないドラゴンの襲来、国家存亡の危機に平静を保てるはずもなく、避難誘導される住民たちが東西の門へと殺到していた。


 昨夜のうちに、北門から第二~第五騎士団、および第一~第五魔法師団が魔導兵器と共に出撃している。ヴァルワー砦に向けられた兵力は、騎士約三千、魔法師約五百。王城警護の第一騎士団(親衛隊)と避難誘導にあたる一部を除いた、王国のほぼ全兵力である。


 私は簡易指令室となった城の一角で、他の魔導研メンバーと共に、かき集められた十台ほどの魔導通信機の調整に追われていた。

 この魔道具は初期設定が極めて繊細であり、並の技術者なら一台に一時間、設計者である私でも三十分はかかる。すべての作業完了まで、あと二時間は必要だろう。


 無言で手を動かし続けるが、奥歯に物が挟まったような違和感が消えない。調査隊の報告を聞いた時から、何かが――致命的な何かが、見落ちされている気がしてならないのだ。

 思考の海に沈みかけていた私を、正面からの声が現実へ引き戻した。

 気づけば周りは設定を終えており、かなりの時間を無心で作業していたようだ。


「ブルーベルベット。お前の作業しているのが最後の一台だ。あとどれくらいかかる?」


 顔を上げると、神経質そうな痩身の男がこちらを睨んでいた。

 確か第四研究室の……名前が出てこない。とりあえず『ヒョロ男』でいいか。

 ――返事を躊躇した私に対し、彼は苛立ちを露わにして声を荒らげた。


「おい、聞いてるのか!? 会敵予想時間までもう余裕がないんだぞ!」


 実戦経験のない研究員にとって、この非常事態は荷が重すぎるのだろう。

 私は内心で溜息を吐きながら答えた。


「ああ、すみません。あと三分ほどで完了します」


「早くしろ! お前のせいで作戦に支障が出たらどうするつもりだ!」


(――私はアンタの倍の台数をこなしてるんだけど?)


 喉まで出かかった言葉を飲み込んだ瞬間、横から助け舟が出た。


「大声を出すな。ブルーベルベットは俺たちの倍は調整しているだろう。まさか、数も数えられんわけではあるまいな?」


 百八十センチ近いがっしりした体格の、白髪混じりの短髪の男性がヒョロ男を鋭く睨みつけた。グラム室長だ。

 その威圧感に怯んだヒョロ男は、ぶつぶつと言い訳を並べながら視線を逸らした。グラム室長は私に向き直り、すまなそうに眉を下げた。


「すまんな、ブルーベルベット。こいつも気が立っているようだ」


「いえ、グラム室長。謝っていただくようなことでは。このような事態では仕方がないかと」


 室長は『そう言ってもらえると助かる』と、人好きのする笑みを浮かべた。

 彼は第二魔導研究室の室長かつ魔導研の最古参でもあり、全体のまとめ役を担っている。

 かつて十代で室長に就任した私へのやっかみを抑えてくれた、恩人でもある。


「それにしても情けねえな。前線でもない城の中でこれほど慌てるとは。研究職とはいえ、我々も一応所属は王国軍なんだぞ」


 室長の言葉に、先ほどのヒョロ男が再び身を縮める。


「対してお前さんは落ち着いているな。俺たちの世代と違って、戦争も経験していないというのに」


「そういえばグラム室長は戦争経験者でしたっけ」


「ああ。一番ひどい時は王城のすぐ近くまで攻め込まれたこともあったしな。それに比べればマシだ。そもそも本来、ドラゴン相手じゃ負け戦は当然。だが今はお前さんの開発した攻城兵器のおかげで勝ちの目は十分、そして何よりこれがある」


 室長は、設置された魔導通信機を愛おしそうに撫でた。


「この魔道具の存在は大きい。これがなければドラゴンの接近を察知できず、奇襲で終わっていた。被害は計り知れなかっただろう」


「まあコレはそういうものですからね。離れた地点との素早い情報共有はなによりの武器になりますから。……よし、設定完了しました」


「よし、ご苦労さん! ――陛下、魔導通信機すべての設定が完了しました! ヴァルワー砦及びその他への通信可能です!」


 国王が重々しく頷き、隣に控える第一騎士団団長(司令官)に指示を出す。

 司令官は即座に通信機へと歩み寄り、各地への号令を開始した。


 私は深く息を吐き出した。これでひとまず私の役割は終わりだ。


 正直、攻城兵器の調整人員として砦に送られると思っていたが、割り振られたのは通信班だった。

 私の戦闘能力の無さを考慮したのか、あるいは『国益のある研究者』としての生存率を優先されたのか。

 ……おそらく後者だろう。

 その代わりに砦に派遣された魔導研の人たちには少し思うところはある。


(ガラクタの中から数年ぶりに杖も掘り出してきたんだけど……出番はなさそうね)


 壁に立てかけておいた杖を背負い直し、邪魔にならないよう壁際へと下がる。


 それとなく視線を国王陛下に向けると、ソフィーと同じ栗色の髪と瞳をした男性が、指を組んだり離したりと落ち着かない様子だった。


(国王閣下は人はいいんだけど、いざという時の頼りのなさがね。こういう時に留学しているソフィーのお兄さんが居れば安心感があるんだけど…。兄妹だけあって土壇場での肝の太さはそっくりだしね)


 などと、不敬な思考を巡らせながら室内を見渡す。


 ここにいるのは国王、司令官、十数名の騎士、宰相、そして私たち魔導研の三人のみ。

 残りの騎士団員は王城各所の見張りに散り、その他の人員は緊急時に備え詰め所で待機になっている。


 国王陛下は万が一を考え、ソフィー達家族は城から避難させたみたいだ。

 そのためソフィー付きのツバメさんやマリア姉も城にいないということになる。


 ……まあ、無駄になるだろうけど。


 王妃様や妹王女様は分かるけど、ソフィーがこういう状況で素直に避難するとは思えない。

 自分の存在が足手まといになるというなら迷わず逃げる子だけど、こんな状況ならばあの子なら……。


 その時、廊下が騒がしくなった。

 そして扉が開くと同時に現れた姿を見て、私は今日一番の、深~い溜息を漏らした。


(ま、そうだろうね……)


「お忙しい中、失礼いたします。私もこちらに同席させていただきたいのですが」


 学院時代の軽装鎧に身を包み、髪をポニーテールに結い上げたソフィー。

 その後ろには、ツバメさんとマリア姉が控えている。


「ソフィーリア!? お前、避難したのではなかったのか!」


 国王陛下が絶叫している。そりゃそうだ。さっきの扉前の騒ぎもそうだろう。

 避難させたはずの王女がUターンして戻ってきたら普通驚く。

 簡易指令室内のみんなも手が止まってしまっている。


「お父様。王国存亡の機に、兵たちが命を懸けて戦う中、私だけが逃げ隠れるわけにはまいりません」


「何を言う! 砦が抜かれれば、ここも安全ではないのだぞ!」


「もしそうなれば、国内のどこにいても大差はないでしょう?それに万が一があったとしても、国外にいるお兄様がいれば血筋も絶えませんし」


 ソフィーは毅然と言い放ち部屋中を見渡すと、視線を一身に集めて微笑んだ。


「何より、私はこの国のために戦う皆様を信頼し、命を預けております」


 そう微笑む彼女は何よりも綺麗だった。




 ――――――――――――――――――――――――




 ソフィーの宣言は、通信機を通じてヴァルワー砦の兵たちにも届いたようだ。

 通信機を通し、地鳴りのような歓声が漏れ聞こえてくる。


 見た目麗しい王女様から『皆を信頼しています。だから逃げません』と言われたのだからそうなるだろう。簡易指令室内の動きもさっきよりも良くなっている気がする。


 国王閣下はさっきまでソフィーに色々と言っていたが、大きく溜息を吐いた後はあきらめたようだ。

 今からじゃ下手に避難するより、城の中にいた方が安全ということもあるだろう。

 そんな王女様は現在、国王陛下の隣に腰を下ろしている。その姿は見るだけで安心感を与える落ち着いた姿だ。


 本当に人の上に立つ器だと思う。……これで例の悪癖さえなければな、と考えているとソフィーと視線があった。


(何か失礼なこと考えてませんか?)


(気のせいじゃないの?)


 笑顔だけでそんなやり取りを交わす。


 正直この緊迫した雰囲気に少し気が重くなっていたため、普段通りのやり取りのおかげで私の肩の力も抜けた。

 ソフィーの後ろに待機するツバメさんとマリア姉といったいつもの面子を見ると安心感が湧いてくる。


 やがて、砦から『迎撃準備完了』の報が入る。

 決戦の舞台は整った。




 ――――――――――――――――――――――――




 報告からしばらく経ち、ついに、空を飛ぶ災厄の姿を捉えたとの通信が入る。

 

 緊張が走る中、ついに作戦決行の時が来た。


 作戦は極めてシンプルだ。


 ①数騎の騎馬隊がドラゴンの視界に入り、囮となって攻撃を回避しつつ砦方向に誘導。


 ②次に魔道具で防御を固めた盾持ちの重装兵を壁にして、魔法師団が攻撃魔法、騎士団員が魔道具で威力を増した弓矢で攻撃。


 ③動きを止めたところに貫通炸裂式魔導砲で狙撃。


 ④それでも息があった場合、騎士団の歩兵部隊で攻撃。


 できれば通常の攻撃で退治できればいいのだけれど、過去の記録で並大抵の攻撃や魔法ではドラゴンの鱗に弾かれて決定打にならないことが分かっている。

 例えるなら空を飛ぶ城塞である。

 高速で空を駆け、一息で小隊を消し飛ばす攻撃力を持った城塞なんて過去に国が滅びたのも頷ける話である。


 一発限りの貫通炸裂式魔導砲(ドラゴンスレイヤー)を当てられるか否かが作戦の生命線となっている。

 もう何発か予備が作れれば良かったんだろうけど、その場合今度は金欠で国が滅びかねない。




 部屋に響くのは各所から届く報告をさばく司令官の声と、通信機から聞こえてくる騎士団と魔法師団の指示を飛ばす声。

 通信機からは、空を裂く咆哮と、鼓膜を震わせる地響きが絶え間なく流れてくる。


 緊迫した空気の中、いつまでも続くかと思われた時間が一発の砲音と共に終わりを告げる。



『ヴィイイイイイィィィィィィッ!』



 独特の風切り音の後、世界が揺れるような爆発音が響いた。貫通炸裂式魔導砲(ドラゴンスレイヤー)を使用した音だ。


 静寂。


 数秒後、巨大なものが墜落したような地響きの後、割れんばかりの歓喜が水晶越しに爆発した。


『ほ、報告します! 貫通炸裂式魔導砲(ドラゴンスレイヤー)にてフレイムドラゴン、左上半身の消失を確認! 討伐、成功です!!』


 通信機から興奮を抑えきれない報告と言う名の叫び声が聞こえてくる。


「!!間違いないか!?」


『はい!現在、騎士団がドラゴンに接近して確認を取っておりますが、生命活動は停止しているとのことです!』


 司令官からの問いにすぐさま返答が返ってくる。

 その言葉を聞き、室内が狂喜に沸いた。


 国王陛下は椅子から崩れ落ちてるし、ソフィーも深い息を吐きながら目を瞑って天を仰いでいる。

 抱き合ったりガッツポーズをしている騎士団員もいる。鼓膜にダメージを受けそうな騒ぎっぷりだ。

 最悪の場合、国亡の危機を乗り切ったと思えば仕方がないのかもしれないけど。


 私も壁にもたれ、ようやく肺の空気をすべて吐き出した。思っていた以上に緊張していたようだ。


 しかし残念なことに何時までも歓喜に浸っていられない。事後処理が待っているのだ。


 司令官が各地への戒厳令解除を指示し、被害状況を吸い上げていく。


「ではヴァルワー砦の被害は北側の一部が崩落のみだな?」


『はい、あとは衝撃で内部の物資などに被害がでていますが、詳細は現在確認中です』


「分かった。なるべく早めに確認してくれ。人的被害はどうなっている?」


『はい、騎士団が死者が百人程、魔法師団が四十人程。怪我人は重軽傷合わせて全体の三分の二程です』


「……そうか。亡くなった者達には悪いが、この人数で済んで良かったというべきか…」


『誘導と足止めのみに徹していましたからね。これで魔道具なしで討伐となっていたら、間違いなく壊滅をしていたでしょう。……かつて国を滅ぼしたというのは誇張表現ではないかと』


 隅で話に聞き耳を立てながら、それでも出てしまった死者に少し胸が痛くなる。


(……私は兵器を作るために魔道具作りの道に進んだわけじゃなんだけどね。まあそれでも結果、被害がこれで済んだと思えばまだ救われるのかな?)


 溜息を吐きながら壁から背を離すと、目の前に人影が現れた。


 視線を上げるとグラム室長の姿があった。


「お疲れさん。今回、国が救われたのは間違いなくお前さんの力が大きい。考えてることは何となく分かるが、そんな辛気臭い顔をするもんじゃないぞ。それはお前さんが背負うものじゃあない」


「……そうですね。そう思うことにします」


 そう言って笑うと、グラム室長も二カッと笑った。


「そうしとけ。……それにしてもあの攻城兵器の威力はすげえな。まさかドラゴンを一撃でやっつけるなんてな。まさに竜を屠る兵器(ドラゴンスレイヤー)だったな」


「正直な話、完成品はぶっつけ本番で成功して良かったですよ。予算の関係で試作品しか試射できませんでしたからね」


「まあ金額が金額だからなあ」


 そこでグラム室長は言葉を切り、周りをグルリと見渡す。


「…魔導通信機はまだしばらくは各所の連絡に使うだろうし、今すぐにできることは特にないな。ここは俺が残るからブルーベルベット、お前さんは一旦戻っていいぞ。ただ待機命令は完全には解除されないから城からは出ないように。……おい!お前さんも戻っていいぞ!」


 少し離れたところでニヤケていたヒョロ男に声をかけると、彼はビクッとしたあと顔を赤くし、返事をしたあとそのまま部屋から出ていった。


 それを見送りつつ、退室の挨拶をするため私は足を進める。


「それでは国王陛下、ソフィーリア王女。私は一度失礼いたします」


 そう言いながら頭を下げる。公式の場なのでもちろん敬語だ。


「うむ、この度はそなたの発明のおかげで国難を乗り越えることができた。後日正式に褒美をとらすとしよう。今は一度戻り疲れを取るといい」


「いえ今回の危機を乗り越えたのは王国軍の全員が力を合わせた結果です。ですので褒美は不要ですので、事後処理に充てていただければ」


「ティオ=ブルーベルベット。私からも感謝の言葉を」


「ソフィーリア王女、もったいないお言葉。ありがとうございます」


 頭を上げ、ちらりとソフィーに目を向ける。お互い普段とは違うかしこまった態度に違和感がすごい。

 よく見ると口元が少しひくついている。笑いをこらえているのがバレバレだ。私も軽く吹き出しそうになる。


 挨拶を終え、扉に手をかけた、その時だった。


 ヴァルワー砦からの通信機が、再び悲鳴のような怒号に染まった。


「……何事だ!? 落ち着いて報告しろ!」


 司令官が叫ぶが、返ってくるのは混沌とした音の渦だけだ。


『……え……確認、しろ! ……申し上げます、非常事態発生! 北方より、ドラゴンが、もう一体接近!現在、防衛陣を急いで再構築中!指示を…至急、指示をお願いします!!』


「……な……?」


 歓喜は、瞬く間に絶望へと塗り潰された。


 弾を使い切った魔導砲。満身創痍の兵士たち。


 そこに現れた二体目の厄災という最悪の事実を前に、室内の全員が、ただ凍りつくしかなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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※読み切りでコメディ寄りのラブコメ、【下駄箱を開けたらパンツが入っていた】を投稿しました。

よければそちらも読んでみてください。


~あらすじ~

朝、登校した俺の下駄箱には何故か女物の下着が入っていた。

そしてその日水泳授業中に起こった女子生徒の下着盗難事件。

学校一斉に行われる持ち物検査。

俺のバッグの中には今朝の女物のパンツ。

二つの事件が重なった時、混乱の教室内で告白劇が始まる。

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