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9.努力をしたからといって、必ず報われるわけではない

 

 朝。 「そこの女、返事しろ、今すぐ確保しに出向いてやる!」とか怒鳴られる夢を見て、びっくりして飛び起きた。メイ姉さんも背中の毛を逆立ててフーフー言っている。

 一体あれは何なんだ!



 テントの周りを歩き、二メートルくらいの高さに枝が出ている木を選んで大ざっぱな円形になるように目印を付けた。直径十五メートルくらいだろうか。大きくすれば柵を作りきれないような気がするし、小さくしようとするとメイ姉さんから「もっと大きくするんだよ、気が滅入る!」と指導が入る。軽快に木に登って、枝から枝へと飛び移る姿がカッコイイ。周りの木を見ながら、したしたっと前肢で枝を叩いて「これだ、この枝にしな」と指示を出す。かわいすぎて逆らえない!


 大きな巻き尺を買って、幹に巻きつける長さを含めて寸法を決め、ロープを買ったのだが、これが完全に失敗に終わる。

 ロープって、思うより重かったのだ。ひと巻のロープを頭の上の高さまで持ち上げるなんて到底できなかった。きゃいきゃい言いながらああでもないこうでもないと下らない策を練って、梯子と踏み台を駆使してロープを張ろうと奮戦した。まあ、ほとんどできなかったのだが、努力はした、それはもう頑張った。

 そして力尽きて這いずりながらスポーツドリンクとシリアルバーにたどり着いたのだった。


 どうせこうなるんだから、最初から腰にぶら下げておけばいいのに……



 何となく敗因に思い当たり、プランを練り直すことになった。

 とにかく重量が問題で、藍に力もなければ体重もないところが作業を困難どころか不可能域に追い込んでいるのだ。だったら、道具を工夫するしかない。ここには一馬力ならぬ一人間力いちにんげんりき、しかも超貧弱な、しかないのだから。


 こういう時にこそいて欲しいのが脳筋だ。no筋の藍は土木工事にはまったくもって不向きそのものであった。


 猫と人間の知恵を集め、安易にロープを注文したのが敗因、ということになった。

 ネットショッピングでロープの重量を確認し、工事現場で立入制限に使われているトラロープが軽量だということがわかり(50mで1.4kgだ)ほっとした。

 張り巡らせたトラロープに、シーツを竿に掛けるようにバサリと、ネットを掛けて、下端を両側から内側に入れ込んで、ネットとネットの間にコンクリートブロックを並べて押さえたらどうか。これならなんとかいけるかもしれない、と必死で重量計算をした。

 壁にするネットだって重い物を選んでしまえば、せっかくロープを張ってもその高さまで持ち上げられないだろう。そこで霞網のような、網目が小さくて糸が細い、軽いものから選ぶことにした。買ってみればそれはそれで、薄いネットがれないように切り分けた一枚ずつの端にナイロンロープを通すという泣きそうな手間がかかったのだが、no筋の藍は力のなさを掛ける手間で補う以外にないのだった。


 ああ~、わかってはいても、これはつらい~~。めんどくさい!


 さらに! ロープが無事に掛かり、ネットもきれいに張れたとしても、当然ながら、コンクリートブロックを「湧き出し口」から「設置場所」まで両手で持ち上げて一個ずつ何度も運ぶなんて藍にとっては絶望的な作業だった。積みあがったブロックの山を前に、うなだれる藍。何か月かかるんだろう……。

 メイ姉さんがリアカーという便利グッズを知っていたのはラッキーだった。藍は見たこともなかったのだから。リアカーという名前さえ知らなかったのだが、メイ姉さんの言うままにショッピング画面を探し当て、これがあればなんとかイケそうな気がして、リアカーを買った。


 最初からこうすればいいのに。いやいや、失敗してみないとわからないこともある。

 これは重量的にひとりじゃ無理、こっちを使いなさい、と教えてくれるAIとか、DIY熟練者とかがいてくれればどんなに楽だったことだろう!

 髪の毛をポニテに縛り、Tシャツとジャーパンに軍手、首に手ぬぐいを巻いて流れる汗が目に入りそうになるたびに拭い、スニーカーを履いた足を地面に踏ん張りながらブロックをリアカーに乗せる藍の姿は、悲壮ですらあった。すこし賢くなって、リアカーの柄にスポドリとエナジーバーをぶら下げるようになったのはほめられてもいいポイントだろうか。 ごくろうさん。


 材料選択に成功したようで、作業は相当楽になった。藍作業員とメイ現場監督の迷コンビがぐるりとネット柵を巡らせ終わるのに都合八日もかかったが、それでもやり遂げたのだった。



 八日も作業していたのに、どんな野獣も魔獣もちらと見さえもしなかったのだから、すでにモーマンタイということで、作業は放棄してもいいような気がするのは、作者だけ?



 作業の仕上げとして、愛はネット柵の外側に五十センチ間隔で花が咲くタイプと葉だけのタイプの蔓植物の苗を植えた。どの植物がここの気候と土で育つかわからないので、買える種類は全部買って植えてみた。運が良ければいくつかは成長して、やがて外からはテントのルーフ部分さえ見えなくなるだろう。


 出入口? そんなものはいらない、藍だから。 まして木に登って枝伝いに出入りできるメイ姉さんには、無用の長物だ。

 蔓植物を植える出入りには、苦労して張ったネットと木の幹の間のすごーく狭い隙間を使った。しゃがんで、這うようにしてなんとか通り抜けた。そしてその隙間さえ、苗を植えた後は園芸用ビニタイで結び合わせてしまった。


 あーあ、どうすんのよ藍、異世界でもヒッキー?




 作業中が半分ほど終わった頃、ついに我慢できなくなった藍は、何が何でもという勢いでお風呂を作ろうとした。待てまて、とメイ姉さんの制止が入り、行水を教えられた。お湯に肩まで漬かるのではなく、腰くらいまでの少ないお湯を使って、体も髪も洗うやり方を経験者のメイ姉さんが懇切丁寧に教えた。

 それなら、というので、藍はベビーバスを買って、トイレ専用にしていたテントを半分に仕切ってスノコを置き、ベビーバスにぬるいお湯を張って、何か足りないとバスソルトも入れて、ようやく入浴に似た満足感を手に入れた。


 もっとも、大きなやかんにお湯を沸かすためにコンクリートブロックで湯沸しかまどを作ったり、使ったお湯を流すための溝を掘ったり、二リットルのペットボトルからトポトポとやかんに水を注ぐのが心底面倒になったり、いろいろ、いーろいろ、あったのだが。もちろん、半身とはいえどお湯に漬かって、髪を洗ってさっぱりできたのだから、それだけの甲斐はあったのだった。


 誰も知らないところで、藍の体力と筋力、土木知識が少し上がっていた。

 この先使うチャンスがあるかどうかは、不明~、だけどねえ。


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