3.ショッピング機能はありがたいけど、だからといって注文品が湧き出してくる?
なぜかアクティブな通信は、ちょうど眩暈で立ち上がれなくなったときネットショッピングに繋がったままだった。
中空に消えている電源コードをそっと引っ張ってみたら、30cmほど手前に来たが、そこまでだった。それはおよそコードの長さのようだった。
『何やってるんだい、藍』
「うん、パソが生きてるみたいなんだよね、ちょっとこれ切って違うところにアクセスしてみる」
『待ちな、今繋がってるのはネットショッピングだったかね』
「うん」
『それならそのまま注文してみな、どうなるか見てみようじゃないか』
「え、うん。メイベルがそう言うなら」
マンションに配送されて、受け取り手がいないんだからドアの前に置きっぱなしになるだけだと思うけどな、いや、インターホーンに応答する藍がいないのだから、建物に入れるかどうかすら不明だよね、とは思ったが、猫と揉めるのも不毛ではあった。
『カートに入ってるのは何だい?』
「メイベルのドライフードでしょ、高原の清水が1ダース、歯ブラシ5本とシャンプーに麦わら帽子」
『なんだい、その麦わら帽子は。あんたはろくすっぽ外に出やしないじゃないか』
「あー、うん、あったかくなったから、今年はちょっとだけ公園とかなら行ってみようかなーって」
『はあ、そうかい、いい志だよ。おかげさまで公園どころじゃないところにいるけどね、帽子はちょうどいいさ。さ、確定してみな』
確定して受け付けられたと思ったら、電源コードが消えている場所からまるで湧き出してきたように、メイベル好みのドライフード、2リットルペットボトルの水が12本入った箱、封筒に入った歯ブラシが5本に、エアクッションに包まれたシャンプー、そしてなんだかとてもお高そうな円筒形の帽子箱が積み上げられた。
歯ブラシとシャンプーの上に乗っていた帽子の箱が、バランスを失ってパサンと落ちた。
円筒形の箱はころころと転がった。ピクピクっとなってしまった前肢を抑えきれなくなって、メイベルがプライドを捨てて転がる箱を追いかけた。
チョー能力で会話できるといっても、猫は猫だった。