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27.これは“呪い”らしい

 

 お茶の後、メイ姉さんとハインツを客間に残し、藍はハンスに案内されて中庭に面したテラスに移動した。ふたりにはまだしなくてはならないたくさんの話があるだろう、というハンスの気配りだった。


 テラスで軽い食事をとり、藍はメイ姉さんとの出会いと一緒に過ごした日々、召喚されてからの“準召喚魔法”頼りのテント生活について、順に話していった。ハンスは人の話を聞くのがうまく、合いの手を入れるタイミングが絶妙だったから、藍は時系列を間違えないできちんと話していくことができた。


 話を聞き終わったハンスは、うーん、と考え込んだ。

「藍、これは呪いかもしれません」

「呪い、ですか?」

「そうですねえ、藍はまだこの世界のことわりを知りませんから、思い至らないのも当然です。

 さつきさまは、本来ハインツと同じくこちらの世界に転生してくるはずだったのではないでしょうか。さもなければ、ハインツがさつきさまの誕生に気付き、確信をもって召喚しようとするのは異常です。

 二十五歳になるまで女性を寄せ付けなかったのに、突然誰も知らない女性を妻と呼んで探し回ろうとしたのですから。

 ここでは、たまにそういうことがあるのですよ」

「えーっと、少佐は現在二十八歳なのですね。でも、メイ姉さんは三歳です。二十五年のギャップがありますけど」

「そうですね、だから猫だったのでしょう。猫は一年で大人になるでしょう?」

「え、いや、メイ姉さんの猫種は、成猫になるまで三年かかると言われています。人間換算で現在十八歳から二十歳でしょうか」

「そうでしたか。ハインツの話では、忠治と五月は五歳違いだったそうですよ」

「ふーん、そうだったのね。 まあ、死亡時の七十五歳に現在の三歳を加えれば、中身は七十八歳ですけどね」


 ブファ、っと、ローエングリムが噴き出しかけて、慌ててテーブルナプキンを取って口元に当てた。笑いが口についてしまって、なかなか抜けない、ちょっとしたことでも再び爆笑に陥りかけてしまう。

「そうですね、たしかに。すごい迫力ですよ。ハインツを正座させるとか実力者すぎですね」

 ハンス・ローエングリムは、この半日でハインツ・エッシェンフォルゲンの面倒を見てきた三年分の苦労が吹っ飛ぶだけ、たっぷり笑わせてもらった。だから、もう一息がんばってみることにした。


「藍、これが呪いなら解けますよ。すこし待っていてくださいね、解呪できる人を呼びましょう」

「え、できるんですか、そんなこと」

「そうですね、呪いというのはすこし言葉が悪いでしょう。別に誰かがさつきさまを“呪った”ということではありません。輪廻の流れに則って転生するとき、なにか少し手違いが生じて、本来の転生先とは違う場所で生まれることがあるようなのです。それを正して、本来の姿に戻すのですね。何と言いますか、あるべき姿を取り戻させる、というような意味合いです。

 解呪すれば、さつきさまがこちらで生まれていたらそうなっていた、という女性の姿を取り戻せますよ」

「ええー! あるんですかそんなこと、メイ姉さん、人間になるの?」

「そうです。猫のままではハインツの妻になれませんからね。あの方が妻になってくだされば、私の苦労の大半は消えてなくなりますから、私も真剣です」

「え、あ、そこはそうかな、と思います、はい」


 メイ姉さんじゃなくなっちゃうのか……。藍はちょっと、いや、かなり納得できない、なんだか寂しい気持ちになっていた。


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