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18.八百屋の忠さん

 

 次の朝も、さつきー、返事してくれーという相変わらずの、それしかないのか絶叫するしかないのか、普通には呼びかけられないのか、というエッシェンフォルゲン少佐の大声で目が覚めた藍とメイ姉さんは、うんざりしながら朝パンと朝ドライフードを食べた。


『藍、どうする』

「うん、メイ姉さんはどうする?」

『あれ誰だろうねぇ』

「誰だと思う、姉さん」

『そうだねえ、忠さんかねえ』

「ちゅうさん?」

『亭主さ、八百屋のオヤジ。忠治ちゅうじっていうんだけどね、まあ、八百屋の忠さんさ』

「へ?」


 メイ姉さんの説明によると、さつきだった前世、結婚した八百屋のオヤジは、忠治という名前だった。長女、長男、次男と三人の子を産み、第二次世界大戦の焼け野原にもとの八百屋を建て直すまで、その頃の誰も同じだったように、なかなか壮絶な苦労をした。女子挺身隊から八百屋のおかみさんだ、大変な苦労だったろう。でもまあ、周りも大体似たようなカンジだったので、そんなものだと思ったそうだ。

 復興が進むにつれ、長女は共学になった普通科高校に進み、長男は商業高校に進んだ。次男はその頃は高嶺の花だった工専に進学した。そりゃまあ、モテたもんだよ、当時はね、とさつきだったころの思い出を語るメイ姉さんだった。


 八百屋の忠さんは、朝は夜明け前から家兼八百屋を出て市場で仕入れをし、仕入れた野菜を入れた背嚢を背負い、ミヤタ自転車の荷台に野菜を詰めた木箱を載せられるだけ載せ、ハンドルにもサドルにも麻袋をぶら下げ、自転車を押して帰ってくる。

 朝ごはんのために走って買い物に来るご近所さんのために店を開け、仕入れて来た野菜を小分けして竹かごに盛った。


 働いて、働いて、三人の子が就職するのを見届けて、忠さんは仕入れの帰りに脳溢血を起こして倒れ、路上から救急車で運ばれた。それでも何日かは命を繋いでさつきと三人の子に見送られて旅立った。


「でさ、なんでその、メイ姉さんの前世の連れ合いの忠さんが、異世界にいるの?」

『知らない』


 だよね。



『でもね、あたしをさつきと呼ぶのは、忠さんだろうね。だって、父親はあたしが生まれたことは知ってただろうけど、会ったことないしね。舅は終戦より前に戦死して会ってない。兄も弟もいないし、あと男衆と言えば息子がふたりだろ、忠さんだねえ』

「ふーん」

『なんでもあたしに相談しないと決められない亭主でねえ、声デカいし。いつ前世の記憶が蘇ったか知らないけど、そのとたんに、さつき! と呼んだのは間違いないねぇ』

「愛されてる?」

『愛じゃない』

「ちがうの?」

『依存だよ』

「いぞん……」


 うわー、キビシ~イご意見~。


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