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17.お家(テント)に帰ろう

 

「帰ろうか、姉さん」

『そうだね』

 メイ姉さんは駕籠にぴょんと飛び込み、藍はそろそろと向きを変えると、やってられるかと思い切りよく立ち上がって、黙って籠を背負った。


 白い石も、クレゾールも、なんだったら水とシリアルバーと雨具も、全く必要なかった。藍のマンションから二番目に近いコンビニに行くほどの歩数しかないところに、その城塞都市はあった。正確に言うなら、崖を滑り落ちなければならないが。


 歩きながら藍とメイ姉さんはげっそりとしたまま話し合う。

「ねえ、本当はあそこにばれたのかな」

『そうだろうねぇ』

「ふたりだったからズレた?」

『そんなところかねぇ』


『あの鐘の音は堪えたねぇ』

「うん、カーン、とか。はずれを引かされた気分になった」

『いい音だったけどね』

「余計にね」

『カランカランカラン、ならね』

「うん、それなら、あたり、だけどね」

『そうさね』



 白い石を拾いながら帰ろうとしたが、べつにいいか、と放置した。人がいるところを見つけたのだからもういらないし、置いた石も二、三日したら見当たらなくなるだろう。

 やってらんない、という気分そのものの一人と一匹であった。

 こんなに近くに人が住んでいたのか、何だったら一週間くらい歩くのかもしれないし、とかいう覚悟はどうしてくれるんだ。行く方向を間違ったら、野垂れ死ぬかも、とまで思ったのに、藍的には壮絶な覚悟だったっていうのに……。



 まっすぐ行っただけなので、まっすぐ帰りつき、隙間をくぐってテントに帰った。

 洋風弁当と、お疲れ様で缶ビールも一個、メイ姉さんはほぐし牛肉入りの高級猫缶をゲットして、黙々と食べた。はぁ~。


 お昼の後は、もうお昼寝しかなかった。そっくりの姿勢でべちょっと横になる一人と一匹。


『藍、鐘の音だけどね』 

「うん」

『聞こえなかったよね、今まで』

「あ、うん、そうだよね。

 聞こえてれば、人がいるのがわかって、見に行ってたよね」

『そうさねぇ』


 距離にしてわずか三百メートルほど。聞こえてもよさそうなものだった。


「うーん、やっぱりあの地形かなぁ、こう、向う側に向かって緩い馬蹄型? 扇型?

 なんていうか」

『ああ、なるほど、こう、音が向うへ行っちまう?』

「うんうん、そうそう。

 崖よりこっちに音が来ても誰もいない、作った人はそう考えるでしょ? 城方向っていうか、できたら城壁より向こうでも音が聞こえる方がいいんじゃないかな、ほら、敵が来るぞー、壁の中に逃げ込めー、みたいなときとか」


『そこまで聞こえるかねぇ、こっちでは聞こえないのに?』

「え、そりゃ頭のいい人はどこにでもいるでしょ?

 低い音はどこまで行くか、高い音ならどうなるか、そういうのってスピーカーとか通信施設があるところではあんまり関係ないけど。こういう場所では考えるんじゃない? あれって、たぶん、時鐘だったんだよね、正午の」

『ああ、そうだろうね』

「どのくらいの大きさの鐘で、どこで撞いたら下の、あの畑とかがある場所まで届くか、計算できる人がいるってことじゃないかなあ」

『ああ、なるほど』


「崖を反響板に使う的な?

 向うに音が行って? うーん。えーっと音波が何とかで、音が物に当たるとどうとかで、うーん、物理の授業で聞いたような、わからなかったような。

 でも、音楽を演奏するホールでは、音が観客席の最後尾まで届くように設計するってのは聞いたことがあるよ。崖は半円みたいだったし見下ろしてたところは切り立っていたから、あるのかも、ごめん、よくわかんない」

『そうかね、あたしゃ全然わからんね。

 まあ、あっちは開けてるし、こっちは森だからかね』

「そうそう、森では音が吸収されやすい? やっぱりよくわかんないけど」


『うーん、それにしても』

「もうすこし崖側に着地してればね」

『そうだね、その日のうちに見つけたかもね、まあ、いいさ、あたりの方向に歩いたってことで。

 反対方向に行ってたら』

「やっぱり今頃は帰り道だっただけだよ」

『ああ、そうだね、いつかは見つけたんだろうね』

「まあね」


 時間の問題だったってことかな? 鐘の音が聞こえなかったのは、“天慮”か何かだったかもよ?

 いきなり異世界の人に会ったりしたら、藍は対応できたかどうか。




 その日の午後は、完全に無気力でだらだらと過ごすだけになった。


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