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16.左足から踏み出そう

 

「じゃあ行こうか、メイ姉さん」

『マジかい?』

「うん」

 メイ姉さんは、いさぎよく籠に飛び込んだ。男前だ。


 藍は水とシリアルバーと迷彩柄ポンチョをもう一度確認して、一カ月前に狭くて低い出入口を塞いでしまったビニタイを解いた。


 さあ、出かけよう。たぶん五百メートルくらいだけど。



 藍は、しゃがんでネットをくぐり抜け、メイ姉さんが入っている背負い籠を引っ張り出した。

 よいっしょ、という掛け声とともに背負い篭を持ち上げて腕を通す。


 背負い紐に両手を掛けて、運がいいようにと左足から踏み出した。

 メイ姉さんが籠の中で立ち上がり、藍の肩に前肢を掛ける。

『藍、どっちに行くんだい?』

「まっすぐ」

『はあ?』

「だって、わかんないもん」

『だね』


 二十メートルほど歩いて振り返ると、まだ柵は見えていた。テント類は緑か茶色だから見分けづらいが、蔓植物がまだ十分に成長していなくて、トラロープの黒と黄色がいい目印になっていた。あんなに目立つとは。藍はトラロープを何とかしなくちゃと心にメモしていた。


 立ち止まったついでというわけでもないが、藍はポケットからアクアリウムに使う白い小石をひとつ取り出し、地面に置いた。


 不安感から多めの石を持ってきていたが、あまり頻繁に置いたら五百メートルだって行ききれないだろう。時々振り返って前に置いた石がまだ見えているかどうか確認する。

『藍、大丈夫さ、石もいいけど、なにか匂いのするもの、そうだね、クレゾールとかいっそ香水とかを吹きかけておいてくれれば、帰り道はあたしが教えられるよ』

「あ、うん、そうだね。メイ姉さんがいるんだもん、今度は念のために木に何か吹き掛けておく」

『そうしておくれ』



 三百メートルも行かないうちに、そんな心配は全部吹っ飛んでしまった。深い森の中だと思っていたのだが、色の濃い葉が茂った背の高い木々は、二百メートルほど進めば若草色の葉を付けた幹の細い木々と低木へと変わった。前方が明るくなったので元気が出てさらに進んでいくと、突然崖っぷちに出た。崖下から風が吹き上げ、藍の髪の毛を下から上へと撫でる。


「うわー、危なーい」

 驚いて跳び退すざった。

『ああ、ゾクッとしたね』

「メイ姉さん、出る? ここ乾いてるよ」

『ああ』


 背負い篭を下ろすと、メイ姉さんはひょいとジャンプして地面におり、毛づくろいした。

 猫だからね、落ち着くよね、毛づくろい。


 藍は、崖に近寄るのが怖いので、こっちに来てからすっかりおなじみになった匍匐前進ほふくぜんしん。崖の縁からそっと顔を突き出して下を見た。


「うわー」

 そこには大きな城塞都市が拡がっていたのだった。


 その城塞都市は、三方に山がある地形を利用して作られていた。壁は扇型に展開しており、山腹に一枚、二枚……五枚の壁が上に上がるにつれて次第に小さな扇型を描きながら、かなり高いところまで築かれていた。

 一番低い壁の外には、小さな建物と畑や果樹園がかなり遠くまで広がっている。街道があるのもわかる。

 一枚目の壁と二枚目の壁の間には石造りの建物の間を人々が歩き回っているようで、二枚目と三枚目の間は広くとられていて、あまり建物がない。壁の上の通路を兵士が歩いているのがわかる。攻城に備えた防衛ラインであり、兵舎や馬房がある兵練の場でもあるのだろう。

 三枚目と四枚目の間には赤や黒の屋根の比較的大きな建物が、そして四枚目と五枚目の間には、城があるようだった。尖塔に旗が翻っている。

 五枚目の壁と崖の間には、白い石を使って建てられた低い建物が並んでいる。鐘楼も見えるから、時刻を知らせるのだろう、つまり、お坊さんか神官さんがいるお寺か神殿のような施設なのだろう。


 目を丸くして下を覗いていると、鐘楼からきれいな鐘の音が青い空に響いた。

 カーン~~~‼


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