15.迷彩藍ちゃん
晴れても、一日雨に降られた森の中はすぐに乾くわけではなかった。じっとりと湿り気を帯びた空気と、少し風が吹けばそのあたりの木々から落ちてくる水滴に、三年ヒッキーといっても快適マンション籠りだった藍はうんざりしてきた。
いつまでもこんなことをしてはいられないと実感したのだろう。寒くなったらマジで死ぬかもしれない。
それに、すごく正直に言えば、召喚されたのはどうやら自分じゃなくて、メイ姉さんで、自分は巻き込まれ召喚だとわかってすごーく気が楽になっていた。いや、決して口には出さないが。
三日前と同じようにテントの裾を跳ね上げ、ゴミ穴に石灰を撒き、前回で懲りて段ボール箱の代わりにベニア板を掛けておいた湯沸かし竈を復活させ、溜まっていた段ボール箱を小さく切って火をつけた。火がしっかり付くと、メイ姉さんの言うとおり今度は段ボールを強めに巻いて火に入れる。こうすると火持ちがいいのだそうだ。
これで湿気も少しはましになるかもしれないと期待したのだが、森の湿気には対抗できそうもない。
畳を上げて乾かすのは後にして、パソの前に座り込んで珍しく衣類を検索し始めた。メイ姉さんが脇から覗き込む。
『長靴? 田んぼでもやるのかい?』
「雨季かも知れないしぃ、っていうか、そんなわけある?」
『そうだねぇ』
「土踏まずの所をぐるりと紐で縛って、パンツの裾を長靴に入れてそのあたりをカバーするでしょ? そうすると歩きやすくなるし、靴に水や虫が入るのを妨げるんだって」
『ふーん』
『迷彩?』
「うん、ジャンクロ風はどうかな」
『すごくいいんじゃないかい』
「あとは、これ!」
『これって、藍、これにあたしを入れて運ぶのかい?』
「うん、一緒がいい」
『おとといおいで、あたしゃ自慢じゃないけど体重六キロだよ、それ背負ってどのくらい歩けるっていうのさ』
「大丈夫、ちょっとだけしか歩かないし。メイ姉さんが濡れるのはイヤだもん」
『イヤだもん、じゃないよ、五百メートルしか歩かないで帰って来るってかい』
「うん、そんなもの」
『……ああ、もう。仕方がない子だねぇ』
できあがった藍の“お出掛け着”は、恐ろしく珍妙で、もし鏡があったら、ここが異世界だといっても、たぶん誰にも会わないとしても、断固お出掛けを拒否するべきものだった。
ベージュ基調の迷彩柄防水帽子、首には藍染めのさらし手ぬぐい、迷彩柄Tシャツの上から、どちらのソルジャーさんで、と言われかねない迷彩ジャケット。念には念を入れて、迷彩柄のストレッチパンツの裾を茶色い長靴に突っ込んで、長靴とパンツの境目はこげ茶のレッグウオーマーで覆っている。メイ姉さんを運ぶための籠を背負い、おっとと、これを忘れてはいけない、黒い軍手だ。
藍、不審者。