14.さつきーーー!返事してくれー!
晴れの日が二日続いた。藍はテントについた泥を落とし、置き畳を立てて風を通し、断熱シートを物干しに掛けて乾かし、勢いでヒノキのスノコも立てかけて乾かした。すこし筋力がついていたようで、ぶっ倒れることなく干し終わって、元のテントを取り戻した気になっていた。
芝草の種を蒔き、雨泥が跳ね返っていたテント回りには広めにジョイント式人工芝を敷いた。住んでいるテントの上にタープを張り、雨漏り対策も整えた。
だからそうじゃないって! メイ姉さんは心で叫ぶだけで、藍に伝えようとはしなかった。
三角座りして藍を眺め、香箱座りしてため息をついた。そして、ネット柵外に太い枝を伸ばしている大きな木に登り、枝に体を擦りつけるように伸ばして一体化してしまった。
この姿勢で動かないでいられると、見つけるのは至難の業だ。藍が呼ぶ声が聞こえても不貞腐れて黙ってやり過ごした。「ボンジュールよー」と声を掛けられるまでだったけど。
中二日で、また雨。
朝、久しぶりにエッシェンフォルゲン少佐の頭に響く怒鳴り声で目が覚めたら、外は雨だった。
『あー、いきなりやられると、限りなく腹が立つねー。もういっそ返事して、迎えに来させて、怒鳴り返すかね~』
「メイ姉さん、もっと怒鳴られるだけだってば」
『ああ、そうだね、わかってるさ』
「遠隔モードであれだよ、直接対決とか、耳を押さえて座りこんじゃうよ」
『それで、馬鹿者!耳を押さえるな、しっかり聞け! とか五倍モードで怒鳴られる』
「気絶するかも」
『ああ、そうしな、そうしたらもう聞かなくて済むかね』
「済むといいねぇ~、目が覚めたら鼓膜にこびりついた怒鳴り声が再生されるんじゃないかなあ」
『ありそうだねぇ』
夕方まで降り続いた雨がやみ、藍とメイ姉さんはじっとりと湿った空気の中で、寝苦しい夜を迎えた。
そして、朝。
「返事しろ、どこにいる、さつき! 答えてくれ!」
懇願するようなうめき声に藍とメイ姉さんが飛び起きた。メイ姉さんの全身の毛が逆立っている。
「メイ姉さん、さつき、だって……」
『ああ』
「私じゃないんだ……」
『ああ』
「どうする?」
『びっくりしたよ』
「だよね……」
だ・よ・ね!
怒鳴り声が聞こえなかった間、少佐は南部の砦に出張していました
さつきのことが頭から離れず、仕事を通常の3倍で片付け、副官以外の部下ではついてこられないスピードで馬を駆けさせて帰ってきたのでした