10.努力と根性は品切れで、休暇中
柵が完成したところで、もともと少ししか在庫がなかった藍の努力と根性が尽きた。メイ姉さんはがんばって“孫を崖の下に蹴落と”そうとしたが、“暖簾に腕押し”とか“糠に釘”とかいう結果しか発現しなかった。
藍はデッキチェアとパラソルを買って寝そべり、サングリアにちびちびと口を付けながらここまでやり遂げた自分を誉めていた。
考えてみれば、ここが異世界だろうが地球だろうが、キャンプ地だろうがマンションだろうが、自分がやることにそう変わりはないのではないか、藍はそう考えながらゆったりと寝そべって十日に渡る肉体労働の疲れをしみじみと癒していた。
メイ姉さんは藍の危機意識の低さにあきれ果て、高原の清水二リットル、一ダースが入っていた段ボールに入り込んで丸くなっている。底面の大きさでは丸くなりきれなかった、しっぽを含む体長が一メートル、体重六kgの姉さんは、箱を横に倒してそれでもまだ少しはみ出している。はみ出した部分が、モフかわいい。
うだうだと寝転び、たまにどの蔓植物が育ったかな、とネット柵の内側から見て回った。
カセットコンロを買ったので、コーヒーを淹れるだけでなく冷凍食品も食べられるかなと、自然解凍後空鍋にクッキングシートを敷いて温めるようになった。ネット検索で“お鍋でご飯を炊く方法”を見つけ、お米を二キロ買い、意外とうまく炊けたりもした。調理して森の中に“おいしそうな匂い”を流すのが怖かったので、つくだ煮を使ったおにぎりしか作れなかったのだが、握りたてのおにぎりに塩味おにぎりノリを巻いてかぶりつくと、もう、すごく、おいしかった。パソ神さまありがとうと、感謝とミニおにぎりを捧げる藍であった。
行水に使った後のぬるいお湯で洗濯するという技も覚えた。洗った衣服を絞るのが大変すぎるということに気が付いて、手動洗濯機という、手でハンドルをぐるぐる回す簡易洗濯・脱水機を手に入れ、嬉々としてベランダ用物干し竿やピンチハンガーにぶら下げた。マンションでは乾燥機を使うようになっていたので、お日さまの匂いのする洗濯物がうれしかった。
お日さま、木漏れ日オンリーだけどね!
藍は何を目指しているのだろうか。異世界テント暮らしヒッキーか?
いや、きっと何も考えていないに違いない。目前の問題にただ対処しているだけ、たぶん。