6 手紙がイラっとする
「異国の言葉ゆえ、読みにくい部分もあるやもしれませぬが」
不思議と読めるんだよなあ。
この異世界というか、鎌倉世界に来てから、言語の壁にはまだぶつかっていない。
昔の人間は現代と違う言葉を話すはずなのに、だ。
この古文書みたいな手紙もそうだ。
歴史学者じゃないと解読しないような手紙。
なぜか俺の頭には文章がすっと入ってくる。
『フビライの、ちょっとおこなお手紙】
なんだこれ……。
「フビライってのは……」
「フビライ・ハーン。元の皇帝です」
とりあえず、読み進めることにした。
『やあやあ日本の王様!
こちらは、大モンゴル帝国のスーパーミラクル皇帝・フビライ様だよ〜ん☆
天のパワーをがっつり受け継いだ、世界のドンってやつだ!
でさ、ちょっと思ったんだけど〜??
昔っから、お隣の国同士って仲良くしましょ♪ ってのが、暗黙の了解っていうか、基本ルールじゃん?
うちのご先祖チンギスもさ、天のGOサイン受けてあっちこっち攻めまくって世界のボスになったわけよ。
そんな元っていうモンゴル帝国のこと、
「うわ〜こえ〜でもちょっと好き〜」
って、ビビりつつもリスペクトしてくれる国が山ほどあったわけ☆
で、朕が皇帝になった時の話ね。
ちょうど高麗(※朝鮮)が戦争でボロボロだったから
「よし、もうやめやめ! 帰れ帰れ! おじいちゃんも子どももおうち帰れ!」
って、やさし〜く命令してあげたの。
そしたら高麗の王様たちが
「パネェ、マジ神っす……! ついていくッス!」
ってお礼に来たのさ。
その姿が、親子みたいでちょっとほっこりしたんだよね☆』
うへあ。
文体はともかく、内容もやばい。
俺が一番偉い感がすごい。
自分話を始めるおっさんって、長いんだよなぁ……。
武勇伝になればなるほど、長い。
少しうんざりしながらも読み進める。
『うん、でね、日本って高麗のすぐ近くでしょ?
ていうか、昔から中国とはちょいちょいお話してるくせに?
なんで朕には一回も手紙もラインもないわけ? おい? なめてるよね?』
いきなりの不穏。
突然の急降下。
てかラインはないだろ。
『いや、たぶん、
「えっフビライって何者?」
って朕のこと知らないだけだよね〜?
だから今回、うちの特使くんにお手紙持たせて、日本に送ってみたワ・ケ!
これをきっかけに、おたがい仲良くしようよ♪
世界はひとつ!
地球は家族!
みんなともだち!
ケンカなんて誰も好きじゃないよね〜?
だからそのへん、ちゃんと考えてね(圧)
でゎでゎ☆
至元3年(1266年)8月 フビライより』
いや、やばいやつじゃん……。
これは俺の『関わり合いになるな』という回避アンテナが、ピコンピコンと反応している。
絶望的な表情で安達さんを見ると、難しい顔で頷かれた。
「いかがなさいますか」
「うーん……」
どうしよう。
チラッと隣を見ると、則子さんが不安そうにこちらを見ていた。
いや、こんな美女の前でオロオロしてちゃだめだろ。
「……と」
「と?」
「とりあえず、スルーしよう」
俺は問題を先送りにすることにした。
そして1年が経った。