5 妻が美人
「時宗様! 気が付かれましたか?」
目を開けるとーー
天使がいた。
いや、和風天使。
もっちりした色白の美人が心配そうにのぞき込んでいる。
正直に言って、かなり可愛い。
いや、めちゃくちゃ可愛い。
寄せた眉をじっと見ていると、目の前の和風天使がほっと息を吐いた。
「よかった……連日無理をなさっていたのではありませんか?」
いや、時宗歴1日だから、正直よく分からない。
っていうか、かっわいいなああ!
素朴な感じがいい。
「兄上も心配しておりました。担ぎ込んできたときには、瞳孔が開いておりましたゆえ、どのようなことかと思いましたが」
「えっと……すみません。あの、実は俺、記憶がなくて」
嘘は言っていない。
吉宗としての記憶がないのは本当だ。
「まあ」
美女は口元を押さえて、びっくりしたように下がった。
「兄上を呼んで参ります」
「えっと、その兄上っていうのは……」
「兄様! 兄様!」
廊下からドタドタと走る音が聞こえてきた。
いや、これ、なんかデジャブ感があるぞ?
「時宗様ァァァァッ!」
レスラー! じゃない、安達さん!?
「えっ兄上? って、え? え?」
天使と悪魔、というよりは、天使と獣、いや、天使とドンキーコング、ピーチとクッパ?
「兄上、時宗様は記憶を失っておられるみたいです」
「何ぃぃ」
安達のおっさんはガックリと膝をついた。
「おいたわしい……! 今朝がたから不自然に感ずるところはあれど、時宗様を守り切れなかったこの不肖安達! どのように詫びればいいかも分かりませぬッ! 申し訳がありませぬ! 天地を分け入ってでも、どのようなこともいたしましょうぞ、どうかご命令を!」
「あ、……いや、断片的には覚えてるんですけど……ちょっと記憶がとびとびのところがあるっていうか」
俺はもにょもにょと言い募った。
確認せねばなるまい。
「えーっと? こちらの美女と? 安達さんが?」
「異母妹にござりまする」
「則子です」
信じたくなかったー……。
このレスラーと美女が?
というかDNAってすごいな。
異母ってことは25パーセントはDNAを共有しているといえる。ええ、4分の1が共通していても、こんなに別の人間が創りあげられるのですね。
宇宙の、生命の神秘だ。
「えっと、則子……さん」
「いやですわ。則子とお呼びください、吉宗様。夫婦ではありませんか」
則子さんがプクッっと頬を膨らませた。
かわいい。
じゃない、待て待て、聞き捨てならないことを聞いた。
「め、夫婦?」
「ええ」
則子さんがにっこりする。
これだよ。
これこれ。
異世界っていったらこういうの!
ラッキーラブコメがないと!
「えっへへへへ……えー、そうなんですか」
こんな可愛い子と夫婦設定なんて、きっと俺は現世で知らないうちに徳を積んできたんだろう。
でれでれしていると、則子さんは不思議そうに首を傾げた。
「もう体調はよろしいのですか?」
「あっああ! もちろん! 元気元気」
安達さんが切腹しそうになる前に回復をアピールしておく。
「あの……俺、最近はどんな仕事してたの? 体はいいんだけど、やっぱり何も……覚えていなくて」
さすがにずっと動物園のパンダ状態というのはまずい。
政務だとか、今の状況が気になる。
則子さんは少しお待ちくださいといって場を立ち、手に一本の巻物を持ってきた。
「これは元から来た最初の手紙です。時宗様はほぼ読まずに足で踏みつけておられましたが」
いや、踏むなよ……。
でも、もしかしたらヒントがあるかもしれない。