3 会議が長い
えー、まさかまさかの展開である。
明け方の部屋に飛び込んできたレスラー、否、安達のおっさんにより、俺は叩き起こされたわけだが。
現在もまだお日様が出ていない。
朝の4時くらいか?
バカか?
全員バカなのか?
ろうそくをつけてまで起床する意味ってある?
日の出前だぞ?
禅の修行とやらは嫌な予感がしたので、腹が痛いとか頭が痛いとか言って、何とか回避した。
で、安達さんに連れられて暗闇の中、謎の建物に押し込まれた。
そして、俺は今、まさに北条時宗として朝の政務に臨んでいた。
というか、臨まされていた。
立派そうな部屋に入れられて、なぜか全員の一番前、全くうれしくないお誕生日席で、座禅を組むという意味の分からない時間を過ごしている。
というか何よりもクサイ。
動物園の臭いがする。
そんな俺の前で、えらそうな人たち、全員男、たぶん俺の家来のような人たち、全員プロレスラーみたいだ、が、ペチャクチャ喋っている。
「本日、早馬にて蒙古の使節、再来たるとの報が届いておりまする」
「先の使節を斬ったはずではなかったのか?」
「それが……なにやら、また別の……」
どういう仕組みなのか、現代人の俺にもこの武士たちが喋っている言葉が普通に分かる。
異世界転生物のハーレム漫画に書いてあったのは正しかったのだ。
そういう知識なら無限にあるのだが、いかんせん日本史の知識がない。
ここ、どこなんだよ。
畳の間に正座させられたまま、俺は半分意識が飛びそうだった。
まず膝が痛い。
すでに神経が麻痺してきた。
こんなの意味ないだろ!
理系の研究室に正座は存在しない。
存在してはいけない。
ゆえに、俺の繊細な両足は初めての前時代的感覚に虐げられている。
ていうか斬るって何だよ。
ケーキとかピザの話じゃないのはなんとなく分かる。
断じて分かりたくはないが。
「時宗様、ご意見を」
こっち見るなよおおおおお!
何か言わなきゃ。
北条時宗っぽいことを。
でも無理だ。
なにより、日本史の知識が致命的に足りない。
かといって、開き直って、
「ハ~イ、おしま~い! 斬るとか斬らないとか、物騒なことやめてさ。ラブandベリーピース。もうあとは休憩しようぜ。楽にやろうぜ。鎌倉フゥ~」
とか言ったら、確実に悪霊退散と叫ばれながら俺が斬られる。
わかっているのは、蒙古がやってくるってことと、それがやばいってことだけだ。
俺は苦し紛れに口を開いた。
「お前……じゃねぇ、そ、……そなたら、……まずは落ち着いて話そう。冷静にな」
シィン。
それだけで、周囲の家臣たちが静まった。
「……枕を」
「は」
「枕を変えるのじゃ」
「ま、くら……でございますか?」
ウッウンッと咳払いをして言う。
「布の……布のものにせよ。今朝、ちょうど、仏からの託宣があったのだ」
偉い人たちは半信半疑のようだ。
わりと俺、というかトキムネが、この中だと、若く見えるもんな。
「木枕は松の最高級品ですが、それが何か?」
「ハッ!」
安達のおっさんがカッと目を見開いた。
「もしや、木を守れということか!? 元の進行が海岸からだとしたら、そこには木々があったほうが守りやすい」
「然り」
「なんと」
「心得た」
心得ちゃったよ。
安達のおっさんは時宗様に忠誠を誓っているようで、良いように捉えてくれる。
ありがたい。
とりあえず、木枕を廃止するのには成功したようだ。
座禅を組ませられながら、脳裏によぎったのは四文字の言葉だった。
(生・活・改・善)
蒙古とかいろいろヤバイのは分かった。
けど、とりあえずだ。
俺の鎌倉ライフがきちんとしなければ、防衛どころではない。
つーかさっきも言ったけど、この部屋めっちゃ臭い。
男ばっかの研究室(※工学部)でも、ここまでムワッとしてなかったぞ。
ギュルルルとおなかが鳴った。
朝飯も食べずにここに連れてこられたのだ。
この会議いつ終わるんだ?