3.5 番外編 笛未子と不買運動
ある晩。
テレビを観ながら、ひとり寂しくコンビニ弁当をつつく笛未子。
テレビのあるCMに目が留まる。
アニメ調の若い女性が夜、吐く息が白くなるほど寒い部屋の中で、テレビドラマを見て涙を浮かべる。
そして、できあがった「緑のきつね」を前に、頬を赤らめながら麺をすすると「うまっ」とつぶやく。
笛未子は肩をワナワナさせ割り箸を置いた。
「頬を赤らめた女性がクネクネして食べる様!
麺を啜る音!お揚げを食べる口元のアップ!!
全てが性的だわ!!」
急いでスマホを手にして、SNS『Zet』にノート(投稿)した。
そして、動画サイト『Yo⭐︎Tube』の公式チャンネルにも批判コメントを書き込んだ。
「今すぐ不買です! 仲間たちにも早速拡散しないと!」
深夜遅くまで不買運動を拡散しつづけた笛未子であった。
数日後のとある大型スーパー。
笛未子は買い物カゴを片手にフロアを歩いていた。
カップ麺コーナーで、カップ麺を選んでると、くだんの商品を見つける。
一瞬手に取ろうとしたが、すぐに手を引っ込めた。
「だ、誰が買うものですか!」
すると後ろから黄色い声がした。
「ダーリン!こっちです!早く来て下さい!!」
「おいおい、引っ張るなよ」
金髪の美少女が男の手を取り、カップ麺コーナーに向かって来たのだ。
(ん?この聞き覚えの声は?)
笛未子は咄嗟に商品棚の向こうに身を隠す。
(あの男と搾取されてる計算高い外国人女性…… )
笛未子は緊張した面持ちで二人を見ていた。
「ダーリン!ありました!『緑のきつね』!
あの可愛いCM見て以来、ずっと食べたかったんです!」
美少女はカゴに何個も商品を入れる。
「そんなに食べるの?」
男が美少女を見て言う。
「ダーリン!今あのCMを気持ち悪いって批判してる一部の人たちが不買運動してるんです!
だから応援も込めて沢山買うんですよ!」
美少女は指を立てて説明した。
「まぁ確かにあのCMが性的って言うのは無理やり過ぎるよな……
ああいう人たちって、四六時中性的なものを探してるのかねぇ……」
男は眉を顰める。
「個人で気持ち悪いと言うのは勝手です!
ですが、不特定多数が見るネット上に書き込み、集団で攻撃するのはいけません!!」
「結果的にそれが話題になり、サーシャみたいに買う人が増えるから、企業としては成功ってわけだな」
男は笑って肩をすくめた。
「さぁ、早く帰って食べましょう♡」
美少女は男の腕に絡みつき、仲睦まじくレジへ向かって行った。
棚の向こうにいた笛未子は震えた。
「わ、私たちの活動が否定された……
しかも余計に購買欲を高めてたなんて……」
ドサッと買い物カゴが床に落ち、眼鏡がずり下がる。
「ギャオぉぉーん!!」
笛未子は頭を抱えて叫んだ。
その声はフロア中に響き渡り、驚いた買い物客が振り返る。
しかし、妙に明るい声の店内放送ですぐに打ち消された。
「本日、緑のきつねが特売となっております!」




