早々に
人のような形をしていてもそれは鉄の塊、自身の体格よりも何倍も大きなそれを手足のように動かした。
その機体、バレットは指先一本一本が絶妙で的確な最適な挙動を取る。
そうすれば、握られた長剣は敵を両断した。
「12」
漏れる声。
それはこちらに手を上げ、鉄の残骸へと変わった『AHRM』の数だ。
実にその数十二機。
大会参加者の六十人からしてその数がどれだけ驚異的なものかがわかるだろう。
その数を誇るでもなく、淡々と記録を取るように数える少女は撃破し、損傷の少ない機体から補給を済ませる。
本来、短時間に多数の機体と交戦すれば持続的な戦闘は不可能だ。
しかし、彼女はそのことごとくを撃破することで本来無防備になるはずの補給の隙を作り安全な状態でそれを繰り返していた。
ただ、それは誰にでも真似ができるものではない。
それを可能にするのはひとえに一度として手傷を負わず、エネルギーの補給だけに済ませることの出来る彼女の腕があってこそだ、
しかし、絶対というものはない。
補給のために目に見える範囲の敵を倒しても、隠れ潜む者は存在する。
故に。
物陰から突き出した銃口はバレットに向けて火を噴いた。
──銃声。
外れた。
しかし、正確な位置は捉えた。
狙撃手は目ざとくこちらに目を向けたバレットを振り切るために移動した。
バレットは発砲したが方角だけで正確な位置は割り出せていない。
一撃では仕留められなかったが次は外さない。
周囲に分かりやすい大きさのものが存在しないために、正確な位置を測れなかったが、先の狙撃でどのくらいの位置にバレットがいるかは予測できた。
移動した先でスコープを覗く。
気付かれてはいたが相手は方角程度しかこちらの居場所を突き止めていない。
仮に、見られていたとしてもすでに移動したこの機体を見つけるのは至難だ。
「───っ!?」
ただ、元々バレットがいた場所にも移動しているであろう予想した方にも機体は存在しない。
いや、見える範囲に存在しない。
そんなわけが、と考えがめぐってスコープから目を離した。
俯瞰した視界では、やはりバレットがいない。
そして、バレットの行動にその場から離れようと機体を跳ね上げた時、機体の頭部が真上から貫かれた。
剣で貫かれたのだろうなんて思う前に、敗退に追い込まれる。
バレットのパイロット、リアの実力をその身に刻まれた。
◆
「バレットと言う機体のプレイヤーは相当な実力者に見えるな」
ギテツ院、娯楽施設『Cube』の奥、オーナーと関係者しか入れない事務室でムジムラはそう言う。
現在『アングラ』内で行われている大会、「アルテミス」でのリアの活躍を見ての言葉だった。
その驚異的な実力は一目瞭然。
「ムジムラから見てナーとの力の差はどのくらい?」
言葉を洩らしたムジムラに対してクモイは疑問を呈する。
片手間にノートPCを操作する彼女ではあるが、その興味の大部分はNAことナナセが参加するアルテミスに向いていた。
しかし、彼女にはナナセとリアの実力を測る術がないのかムジムラに意見を求めた。
彼女の『アングラ』における知識の多くは機械的な部分にあり、パフォーマンスはともかくとしてプレイヤーの能力値を測れるわけではなかった。
そんなクモイの疑問に便乗するようにソヨカも耳を傾けた。
「そうだな。端的に言えば軍配はリアに上がるだろう」
詳細な説明もなしにムジムラは結論だけを話した。
しかし、それだけで伝わる物でもないと彼も理解しているのか言葉を続けた。
「まず、機体の差がある。クモイならあのバレットと言う『AHRM』の性能を正確に測れているだろうが、そうでなくとも何の手も施されていないセフワンとのスペックの差は一目瞭然だ」
ムジムラの言葉にクモイは頷いた。
クモイほどの知識がなくとも性能差は如実に表れている。
すでに発信するだけでも初動に大きな差が見てとれるほどだ。
デフォルト機体と、カスタムされたものでは当たり前ではあるが変わってくる。
それに、現実でもセフワンは欠陥機体扱いされる代物だ。
ゲームにおける上方修正を受けたカスタム機にスペックでアドバンテージが取れるはずもない。
「そして何より、プレイヤーだ。相当慣らしているぞ、あれは」
ムジムラの「慣らす」と言う言葉に何を指すのかクモイは思考回す。
そして、ムジムラが説明を省いた意図を含めて予想を立てる。
恐らく仮想世界の順応度を言っているのだろう。
『アングラ』に限らず『Pit Coffin』ではそのアバターが前面に現れる機会が少ない。
だがそれでも、アバターと現実の身体の差はプレイへと現れる。
一瞬のそれは積み重なり絶対的なパフォーマンスへの影響を及ぼす。
そして、ムジムラの目からそれが感じられないと言うのであれば、仮想空間に順応しているのだろう。
誤差などないと本人が思えるほどの出来のアバターを作ることの可能なクモイであっても、仮想世界でのパフォーマンスの低下はゼロにはできない。
故に、それを最終的にゼロへと繋げるのはプレイヤー自身の「慣れ」であった。
「正直、NAが勝てるとは俺に思えない」
◆
セフワンには圧倒的に継戦能力が足りないことを実感する。
そして、私には運のなさもあるのだろう。
その二つの現実が私に叩きつけられる。
「まだ、クライマックスには早いだろ」
自分でもどんな表情をしているのだろうか。
半ば笑うような声音でそう言った。
目の前には、家紋のような紋章が刻まれた一つの機体。
それは視線を躱すようにこちらを見ていた。
バレット。
「遅い」
機体名を表すように向けて来たのは、小銃。
こちらのみすぼらしい拳銃とは比較にならない装備に唇を噛みながら加速する。
速攻で決着をつける。
セフワンが勝てるとすればそれしかない。
銃弾の中を突き進むように滑る。
ここまで来るときに適当に奪った敵機の装甲を盾代わりにして銃弾をいなす。
いや、いなすことも敵わない。
立派な損傷と言えるだろう。
装甲によってわずかに弾丸が逸れるもセフワンの表面を確実に削り取る。
だが、そんなことは関係ないと拳銃を向ける。
「ちぃ」
押し付けた拳銃はいつの間にか抜かれた直剣に弾かれる。
しかし相手も小銃を離している。
それだけでいい。
短剣をそこに合わせて身体を捻る。
身体を半ば倒すように無理な体勢で回転する。
受け流すなんて上等なものではなく、ただ奴の剣の勢いを躱す。
そのまま回転して、奴の腕を巻き込もうとして交わされる。
「──ッ!」
そのままの慣性を使ってもう一撃を入れるが掠るだけにとどまった。
お互いの距離が離れてやっと呼吸を思い出す。
「──すぅ」
浅く、最低限の酸素を補給した。
◆
前見た時とは違う。
実力を隠しているとかそういう気配ではなかった。
確かにあの時は本気じゃなかった。
しかし、その底は見えていた。
だから、あの時とは違うとわかった。
「なにが」
何があったのか。
無改造のセフワン、いや、NAと言う少女に。
目の前のセフワンはリアに飛びつくように肉薄する。
異常だ。
まるで理性的な雰囲気を感じさせない。
しかし。
「いいだろう!」
リアは声を張り上げた。
自壊でもしてしまうだろう勢いで二刀の短剣をこちらにぶつける。
直剣で応戦するも、むしろセフワンのダメージの方がデカいだろうと思うほどに軋ませる音を出す。
しかし、すぐに跳ね上がり、攻撃を与え続けて来る。
未だ「アルテミス」が始まって十数分。
NAは全くの継戦を考えていないように見えた。
「っ!?」
一瞬、背後に回られたのに気付かなかった。
圧倒的な自らをも自滅させてしまうほどの機動力を持つと言っても、こんな芸当は出来ない。
これは痛覚を完全に再現する『アングラ』だ。
技術があれば出来る戦法ではない。
一体、あの中で生きることはできるのだろうか。
しかし、もう油断を出来る状況ではない。
そんなことは頭の端へと追いやった。
機体をひしゃげながら、三百六十度様々な方向から攻撃を仕掛けて来るのに反応する。
プレイヤースキル。機体の性能。すべてにおいてこちらが優位だ。
だが、何故か仕留めきれない。
直剣を奴の首に伸ばせば短剣が挟み込まれる。
蹴りを入れようとすれば、その場から一歩先へと移動している。
瞬間的な速度はそこそこに出ているのだろう。
だが、緩急をつけるように動かざるを得ない奴の機体にこちらが追い付けないわけがない。
腕に掠る。脚に掠る。だが、致命的な損傷を与えられない。
一瞬で決まる戦いを無理に長引かせているようだ。




