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009 魔力測定

「はぁあああ」

「えぇえええ」

「な、なんだこりゃああ」


 面接官たちは、この場にふさわしからぬ声を上げた。

 いや、私もびっくりである。

 あれだけ自信満々に保障されたので、つい力をいれすぎてしまった。

 自分の手を見ると、割れ方がよかったのか、傷一つない。


「ごめんなさい、つい力を入れすぎてしまって。弁償はとてもできないですけど許して下さい」


 私はあわてて謝罪する。

 だが面接官も受験生も、私の言葉を聞いていなかった。


「魔法は使えないといってたけど、すごい魔力じゃないか」

「いや、確かに反応してなかった」

「力だけで?信じられん。あれを砕く魔力なんて災害級だぞ」

「水晶が壊れてたに決まってるさ」


 皆口々に話す。

 公爵令嬢のリーリアだけは、無言で前を向いていた。


「とにかく、替わりの水晶が届くまでは、この場の面接は一旦休止です」

「あ、あの……私はどうなりますか?まさか不合格……」


 私はおずおずとたずねる。


「合否は後日掲示板で発表します。この魔力検査は事前の公表の通り、合否には関係ありません。では解散」


 そういって面接官たちは退室する。


(あーあ。やっちゃったかなぁ)


 私は前世を含め、今までのやらかしを思い出そうとしてやめた。

 外に出て椅子に座っていると、面接が終わったエマが話しかけてくる。


「セシルどうだった?何かみんな騒がしいみたいだけど」

「うん。あのね」


 隠しても仕方ないので、私は正直に話す。


「魔力測定の水晶が砕けたぁ?そんなの聞いた事ない」

「しっ。声が大きいって」


 だがその話は既に、他の面接者によってそのホールにいる人達に広まっているようだった。 

 ちらちらとこちらに刺さる視線が痛い。

 エマもそれに気付いたようだ。


「とにかく外でお昼食べよ、セシル」

「うん」


 受験生は一部例外を除き、学内の教室や校庭のどこでも昼食をとることができる。

 私たちは大きな木の下のベンチに座った。


「そっかぁ。でもそれってセシルの魔力が凄いって事でしょ?じゃあ合格間違いなしだね」

「だといいんだけどねぇ。魔力測定は合否に関係ないってさ」


 とりあえずは、エマの言う事に同調しておいた。

 私の力の秘密を話しても、理解してもらえると思えないし、混乱させるだけだろう。


「あたしは合格してるかなんて全然わかんない。悪くないと思うんだけどさ」

「筆記の結果手ごたえあったんでしょ?大丈夫だよ、エマ」


 高等学院の合格率自体は低くない。

 それだけの学力を身につける事自体が困難だからだ。

 それに学費や諸費用の問題もある。

 奨学金制度はあるにせよ。


「うん、まぁね」


 そういうと彼女はまた話し始めた。

 実家の話、好きな物、帝都で流行っているもの。

 主に彼女が話し、私は相づちをうつ役である。


 とはいえ彼女の話は興味深い。

 私がこの世界に来てから、カンブレーの村とその周辺、ロレーヌ伯の治めるレパンドの街くらいしか知らない。


 帝都は上下水道が完備し、夜は灯に照らされ、劇場や図書館や様々な店もあるという。

 人により生活水準の差はあっても、思った以上に文明は発達しているようだ。

 私は少し気になった事をたずねる。


「学術書とかじゃなくて、物語の本ってないの?」

「セシルはそういうの好きなの?あるにはあるけど……」


 一応冒険物語とか恋愛話とかの娯楽のための本もあるらしい。

 ごく一部の貴族や富裕な商人に、主に貸本として流通しているのだという。


 私は元々web小説やその書籍が好きだった。

 転生もの、婚約破棄もの、悪役令嬢もの、シンデレラストーリー等々。

 私の数少ない趣味だった。

 

 こういう世界に転生したので、今までは半ばあきらめていた。

 しかし実際にあるというと、俄然読みたい気持ちがわきあがってくる。


「それってどこで見れるの?」

「うちにも少しならあるよ」

「本当、エマ!?」

「今度うちに遊びに来なよ」


 という事で私は三日後、エマの家に行く事になった。

 合格発表までの一週間、私は神殿に滞在することになっている。

 

 エマの家までは歩いていけない距離ではないらしかった。

 だが馬車を迎えに寄こすという。

 

 私は最初は遠慮したが、結局受け入れる事にした。

 エマの家はどうやらかなりの資産家で名家らしい。

 あちらのやり方に合わせた方がいいだろうと思ったのだ。


「じゃあまた三日後にね、セシル」

「うん。じゃあまた、エマ」


 私はエマと別れ、神殿へと向かった。

 帰り道、受験生らしき人間たちの視線がささる。

 何やらひそひそと私を見て話している。


 あの面接の事かなと、私は少し気が重くなる。

 でも仕方ないではないか、私が悪いわけではない。

 それに、あれは合否には関係ないと試験官は言っていた。

 そう気を取り直す。


「ただいま帰りました」

「おかえりなさいませ」


 神殿に泊めてもらうといっても、無料というわけでもない。

 お金はとられないが、そのかわり掃除や洗濯等を手伝うことになる。


「クッキーを作りたいので窯を貸していただけないでしょうか?」


 私は司祭だという女の人に言ってみた。


「ええ、かまいませんが」


 不審そうな顔をする女性に、私は友達へのプレゼントのためだと言った。

 材料費として、大銅貨を三枚渡す。

 その女性は遠慮しつつも、受け取った。

 小麦や砂糖や卵等も、信者の寄付によって不自由はしてないらしい。


 他人のお宅に招かれるのに、手ぶらというわけにもいかないだろう。

 翌日は神殿の雑務をこなし、クッキーの仕込みをする。

 試験の事は今は悩んでも仕方なかった。

 そこまでする必要はないかもしれないが、念のために生地は一晩寝かせた。

 

 孤児院の子供たちにも配りたいと司祭の女性が言ったので、大目に作る。

 本当はエマの家に行く当日に焼きたかったが、さすがに朝から窯を占領するわけにもいかず、前日に焼くことにした。

 クッキー作りは母マリアに習ったものだ。


 そして、エマ宅へ訪問の当日――


「セシル、来たよ!」

「おむかえありがとう、エマ」


 お昼前に、豪華な飾りつけの四人乗りの馬車が迎えに来た。

 御者の人が帽子をとって挨拶するのに、私も礼を返す。

 

 三十分ほどで、エマ宅へ到着した。

 大通りから少し奥へ入った、閑静な住宅街だった。

 エマの自宅はその中でも一際大きく豪華な、四階建ての建物だった。


「こんにちは、お邪魔致します」


「いらっしゃい、娘がお世話になりまして」

「いらっしゃい。ゆっくりしていってくださいね」


 エマの両親であろう中年の矮人族(ドワーフ)の夫婦が玄関で出迎えてくれた。

 ホールは豪華なシャンデリアに、絨毯、神話をモチーフにした絵が飾ってある。

 幾人もの男女の使用人たちが、丁寧にあいさつしてきた。


「これはちょっとしたお土産です。よろしければ」


 私はバスケットに入ったクッキーを渡す。

 神殿の窯で焼いたのだというと、恐縮したように受け取ってくれた。

 

 同じものでも神社やお寺で売っているとなれば、何となくありがたい気がするものだ。

 前世よりも宗教が大きな力を占めているこの世界では、なおさらだろう。

 ちょっとずるいやり方だったかもしれない。


「エマの父のヨゼフ・ヘルトリングです。まずは娘を助けてくれてお礼を申し上げます」


 エマの父が頭を下げる。


「とんでもありません。当然の事をしたまでですわ」


 私はあわてて言った。

 私たちはテーブルに座り、東方から取り寄せたという磁器のカップでお茶を頂いた。

 紅茶ではなく、中国茶のような味がした。

 

 私の身元に関して語る事はあまりない。

 ロレーヌ伯爵領のカンブレーの村出身で、聖女マリア・シャンタルの娘であるセシルだと自己紹介する。 


「ふむ、聖女マリア……どこかで聞いたような」

「母をご存じなのですか?」

「いや、直接知っているわけでは。南方のロレーヌ伯領に、位の高い聖女様がおられて、地元のために尽力されているという話を耳にした事がありましてな」

 

 矮人族(ドワーフ)は人間より背は低いが、体格がよくて力が強く手先が器用な事で知られている。

 職人が多いイメージだ。

 ただエマの父のヨゼフは、ヘルトリング商会という会社を一代で築き上げたらしい。

 様々な商品を手広く扱い、貴族やリヤウス教団とも取引があるという。

 

 それから豪華な昼食をごちそうになる。

 オリーブオイルをかけたサラダ、野菜のポタージュ、牛肉の赤ワイン煮、白身魚のムニエルに、イチゴのムース。

 料理を運んできた召使いが説明してくれた。

 私がこの世界に来てから食べたことがないようなものだった。

 

 食後はお茶と私が持ってきたクッキーだ。

 もちろん味見はしていたのだが、思ったよりよくできていると、あらためて自画自賛する。


 最初の方はやや儀礼的でぎこちない雰囲気の会話も、時間がたつにつれ徐々に打ち解けてきた。

 二人ともエマに似ておしゃべりなように感じた。

 特に父のヨゼフは仕事柄、国内だけでなく、国外の事情にも詳しいようだった。


「ヨゼフさんは、本は取り扱っておられないのですか?」


 私は聞いてみた。


「本ですか。手に入るのは入るのですが、あれはなかなか」


 なんとなく奥歯に物がはさまったような言い方だった。


「そうそう。本を見に来たんだよね?私の部屋にいこ、セシル」


 エマの言葉で私たちは二階の彼女の自室に向かう。

 

「ほら、これだよ」


 エマが一冊の本を私に見せた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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