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今世は聖女になります~魔力ゼロの無能と言われた私、魔術至上主義を物理で壊して自由に生きます~  作者: 流あきら
第一章 帝国高等学院入学編

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008 受験生たち

「さすがにすごいなぁ……」

 

 帝都に近づくにつれ人はどんどん多くなり、そうしてやって来た帝都アッシュールは別世界だった。

 街には多くの人が行き交い、長耳族(エルフ)矮人族(ドワーフ)、獣人族までいる。

 市場には各地から様々なものが集まり、ただの庶民の家ですら豪華でおしゃれに見える。


 そういえば来る途中に、多くの商人らしき人達や荷車が集まっている場所があった。

 あれは何かと聞いてみると隊商宿だと言われた。


 隊商宿とは取引所や倉庫、宿泊施設が一体になった施設だという。

 商人たちは東や南の砂漠をこえ、北の山々や魔物地帯にも分け入り、多くの貴重な商品を運ぶ。

 行商人は隊商宿で商品を仕入れ、近郊の村や小さな町をまわるそうだ。


 そういった行商人がうちの村にも来たことがある。

 いつか自分の店を持つのが夢だと言っていた。


 前世で私がいた地方都市なんかよりも、帝都の方が断然賑やかだ。

 転生した時は中世ヨーロッパのようだと思ったが、ずっと文明は進んでいるのだろうか。

  

「よろしくお願いします」

「頑張ってくださいね。大聖女アニエス様はきっとあなたをお守り下さいますよ」


 司祭の女性は穏やかに微笑んで言った。

 聖女の紋章はつけていない。

 神殿や教会の女性が全員聖女というわけではないらしい。


 リヤウス教の施設は規模の小さな順から、伝道所、教会、神殿と呼ばれている。

 宿泊先の神殿は、今まで見た事の無いほどの規模で、高い天井に祭壇、あちこちに神像が飾られ、ステンドグラスにも神々が描かれていた。

 

 宿泊部屋は大部屋をカーテンで仕切ったもので、私以外にも何人か宿泊者がいた。

 いよいよ明後日は本番の試験だという事で、最後の追い込みだ。


 私は本とノートを取り出す。

 紙の本もノートもまだまだ高価だった。

 石板や蝋板も筆記具として使われている。


 ただこのあたりは、地方差が大きいらしい。

 帝都の一部では、魔法を使った筆記具、紙、本もそれなりに流通しているという。


 筆記試験、口頭試問、あとは魔力検査がある。

 魔力検査は試験結果とは関係なく、適性をはかるためのものだ。

 魔法の適正によって進むべき進路をアドバイスするのと、まれに精度の低い魔力検査で己の適性を誤解している生徒もいるので行うらしい。


 そして翌々日、朝早くに私は試験会場でもある帝国高等学院へと出発する。

 帝都は、現代で言うタクシーのような辻馬車、バスのような乗合馬車も発達していた。

 だが私はお金の節約のために、歩いていくことにする。

 一時間ほど歩くと、広大な敷地と瀟洒な建物の高等学院が姿をあらわした。


 徒歩や馬車で様々な人が集まってきている。

 たまに長耳族(エルフ)がいるくらいで、ほぼ人間族しかいない。

 そういえば、この世界の長耳族(エルフ)は人間と寿命は変わらないらしい。

 まぁ私も人よりちょっと背が高くて牙が生えているだけで、黙っていれば普通の人間にしか見えない……かもしれない。


 私は門をくぐる。

 その時、かなりの速度で馬車が走ってきた。

 人も大勢いるのにあんなにスピード出していたら危ないよあなぁ、と思った時だった。


「きゃあああ」


 女の子の悲鳴が響く。

 走ってくる馬車をよけ損ね、服の端がひっかかって転倒していた。

 馬車は急停止する。


「おい。どこ見て歩いている!」


 御者の男が馬車を降り、転んだ女の子を怒鳴りつけた。

 学生たちは、目をそらしながら側を通る。

 周囲を見回しても、学校の職員らしき姿は無かった。


「す、すいません」


 転んだまま、女の子はこたえる。

 女の子は茶色の縮れ毛に、小柄で丸顔、尖った耳。

 おそらくは矮人族(ドワーフ)だろう。


「どなたの馬車だと思ってる。この紋章が目に入らんのか?おそれ多くも帝国三大公爵たる、クレルモン公爵家のご令嬢であるリーリア様がお乗りになっておられる。卑しい矮人族(ドワーフ)ごとき手打ちにされても……」


「待ちなよ」


 私はその男に声をかける。

 まったくこんなやつは何処にでもいるものだ。


「なんだお前は」


 若干ひるんだような声だった。

 その男の方が歳は上だろうが、私の方が見下ろす形になる。


「あんたが悪いだろ。前も見ずにあんなに速度出してさ」

「なんだと……お前はこの紋章が……」


「関係ないよ。高等学院の敷地内においては、リヤウス神の名において、貴族も平民もどの種族だろうと平等だ。門の横の石板に設立理念が刻まれてるだろ」


 男はぐっと言葉に詰まる。

 騒ぎを聞きつけた受験生が、興味深そうにこちらを見たり、横目で見ながら通り過ぎたりしていた。


「大丈夫?」

 

 私はその矮人族(ドワーフ)の子に手を差し出す。


「ええ、ありがとう」

 

 その子は私の手を取ると立ち上がる。

 どうやら怪我はないようだ。


「お待ちなさい」


 御者の男がなおも言葉を続けようとした時、馬車の中から一人の少女が降りてきた。

 金髪に緑の瞳、できるならこんな姿に転生したかったという、私の夢想を具現化したような美少女だった。 


「その方の言う事に理があります」

「ですがお嬢様……」

「お黙りなさい」


 有無を言わせぬ厳しい声だった。

 そしてその女の子は、私たちの方を向くと、ドレスの裾を軽くつまんで一礼する。

 豪奢な金髪が軽く揺れた。


「ごめんなさいね。服の弁償や怪我の保障をさせていただくわ。あなたお名前は?」

「だ、大丈夫です。ショールが引っかかっただけですから。本当にお金も何も……」


 矮人族(ドワーフ)の女の子は少しおどおどした様子で言う。


「そうはいかないわ」

「本当にいいんです。あたしも少しぼっとしてましたし」


 何となく矮人族(ドワーフ)の少女の気持ちはわかる。

 事情はどうあれ、貴族とトラブルを起こしたのは事実だ。

 身元を調べられ、とんでもない因縁をつけられるかもしれないのだ。 


「そう。わかったわ。あらためてお詫びするわ」


 金髪の少女は何かを察したのか、そう言うと馬車に乗り込もうとする。

 だがふと立ち止まると振り返って私を見る。


「あなたは?お名前をきいていいかしら?」

「セシル。セシル・シャンタルだよ」


 私は少女の緑の瞳を見ながら言った。


「私は、リーリア・ド・クレルモンよ。あなたたちに学問の神(マーサ)のご加護がありますように。それでは」


 そう言って馬車に乗り、リーリアという少女は去っていった。


「ありがとう!セシルって言うんだ。私はエマ・ヘルトリング。よろしくね」

「よろしくね、エマ。本当に大丈夫だった?」


「うん全然たいしたことないよ。それよりさ。凄くない?さっきの女の子」

「ああ公爵家のご令嬢だってね」


「ちがうよ!夜会服でもないただの外出着なのに、あれ高そうじゃない?さすがは貴族よね。うちの職人の一年分くらいの給料はするね」

「そうなの?」

「うん、それに髪飾りにアクセサリーに、そもそも馬車の扉の飾りつけも……」


 エマは私にはわからないことを、一気にまくしたてる。


「……あの、そろそろさ」

「ああ、ごめんねセシル。とにかく助けてくれてありがとう」


 エマは後日お礼がしたいからと、私がどこに住んでいるのか知りたがった。

 少しためらいはあったが、私は地方の村の出身であることと、今は帝都の神殿に泊っている事を伝え、住所を教えた。

 

 そして私たちはそれぞれの試験会場に向かう。

 試験場となった教室には何十人もの受験生がいた。

 筆記試験は二日がかりで行われた。

 

 問題の中には前世までの知識の応用で解けるものもある。

 異世界でも基本的な物理法則は変わらないのかもしれない。

 歴史だの神学だのは覚えなければならないが、問題は思ったより簡単だった。


 そして筆記試験が終わると、口頭試問と魔力の適正検査だ。

 これは受験生五人ひと組で、何組か同時に数日間かけて行う。

 要は面接試験だ。


 私は初日だった。

 受験生たちは大きなホールに集められ、グループごとに別室に呼び出される。

 どのグループに自分が属するかは、掲示板に張り出される。


「エマ、あなたも初日?」

「あれ?セシル?」


 私とエマはグループは違うが、同じ日の面接だった。

 私たちは試験の出来や互いの身の上話をする。


 エマは帝都にある商会の娘であるという。

 帝国内で手広く色々な事業をしているらしい。


「そっか。私はカンブレーという小さな村出身でね。お母さんが聖女だから、私も聖女になりたいなって」

「すごいじゃない。聖女様って誰でもなれるわけじゃないんでしょ?」

「うん。私も頑張りたいって思ってる」


 その時私の視線の片隅に金髪の少女が映りこむ。

 クレルモン公爵の令嬢とかいうリーリアという子だ。


 彼女に個人的な恨みもなにもないが、あんなトラブルがあった後だし、できれば大貴族とかかわりたくはない。

 お付きの人間の振る舞いをみても、面倒な事が多そうだと感じていた。


(同じグループでなければいいなぁ)

 

 だがこういう時、大体悪い予感は的中するものである。

 

「第七グループの方は、緑の間に入室してください」


 係官の声がすると、リーリアは立ち上がる。

 どうやら私と彼女は同じグループなようだ。


「行ってくるね、エマ」

「私も、もうすぐかな」

「終わるまで待ってるよ」

「ありがとセシル。一緒にお昼食べよ」


 部屋に入って着席する。

 私たちの座る五つの椅子の前には、三人の面接官がいた。

 その中間にある台の上には、水晶球が設置されている。


 面接の内容は、簡単な神学上の問題と、志望動機や希望学科などだった。

 高等学院には聖女科や聖騎士科等の学科があるが、入学時ではなく入学後に振り分け試験がある方式だ。


 そして私の番になった。

 問題は聖女アニエスの四つの業績というもので、これは簡単だった。


「ところでセシル・シャンタル。あなたはどの魔法が得意ですか?」

「魔法は全く使えません」


 私はなるべく胸を張って答えた。

 使えないのだから仕方ない。


「初歩の魔法もですか?希望学科は?」

「聖女科に進みたいと思っています」


「聖女科志望で全く魔法が使えないとは……他には法律や神学など魔法が使えなくても問題ない学科もありますよ」

「失礼ですが、リヤウス教団の規定において、聖女になるのに魔法が使えるかどうかは必須ではないはずです」


 面接官たちは顔を見合わせる。


「まぁいいでしょう。前に出て魔力測定の水晶に手をかざしてください」


 私は言われた通りにした。

 だが水晶はぴくりとも反応しない。


「全く反応しないのもおかしいですね。万一という事もあります。神に祈りをささげ、強く念じてみてください」

「あの……これ、強く握っても壊れませんか?」


「あなたがそうしたいなら。でもこの魔力水晶は選りすぐりの魔術師が、神に祈り魔力をこめて作ったもの。大槌(ハンマー)だろうが破城槌(はじょうつい)だろうと砕けませんし、万一破壊するとして聖級魔術師でも一日がかりです」


 面接官はさすがに少し呆れたように言った。

 他の受験生たちからも、失笑が漏れる。


 だが私はもはや気にしなかった。

 呼吸を整え神へと祈りをささげる。

 

 この世界は、神というものが前世よりずっと近い。

 神は人が考え出した概念上のものではなく、あらゆるものに宿り、具体的に力を貸し与えてくれる存在だった。

 その神の力が現世に顕現したものが魔法である。 


 もしかすると強く念じれば、祈りが届き急に魔法が使えるようになるかもしれない。

 私は心の深くから思いを絞り出し、右腕にこめる。

 

(偉大なるリヤウス神よ。セシルは魔法を使いたい。魔法が使えるようになりたいです)


 そして私は、水晶を握る手にさらに力をこめる。


 力をこめ……

 力をこめ……

 力をこめて……


 ガキッッッッ!


 鈍い音を立て、水晶は砕けた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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