076 覚醒
一同はしばらくあっけにとられていた。
だが空から降りてきた物の姿を見て、私は何が起こったか瞬時にさとる。
「いかがですか、セシル殿。俺は役に立つでしょう?」
地面に降り立った竜は胸をそらして私を見る。
もちろんそれはあの黒竜だった。
「ありがとね黒竜さん。さすがだよ」
「いやぁ、お役に立てて何よりです」
だが敵はまだいた。
鷲獅子たちの一団が左側から回り込み、城壁内部へと侵入しようとする。
しかし今度は白い巨大な光が魔物の軍団を一瞬で焼きつくす。
「ぼっとしすぎですよ、あなた」
その巨大な白銀の竜は大地へ降り立つと、黒竜を叱責した後、軽く私に頭を下げる。
「セシル様でございますね。話はうかがっております。私もセシル様に従います。今後ともよしなに」
「あなたは?」
「白竜とでもお呼び下さい」
「あの……もしかして……黒竜さんの奥さんですか?」
「はい。不肖の夫ともども、よろしくお願いしますわ」
その時、エマ、アリス、リュウジが近づいてきた。
「クー、クー、クー」
「リュウジ!それにエマにアリスも。ここは危ないよ。逃げた方がいい」
「実家には心配ないって、手紙をことづけたよ。あとなるべく遠くに逃げた方がいいって」
「わたしたち、そもそもどこに逃げたらいいんすか?あんなのに襲われたら助からないっす。セシル先輩のそばが一番生き残れる可能性が高いと思うっす」
それは確かにアリスの言う通りかもしれなかった。
リュウジはちょこちょこと、竜たちのもとへと近づく。
そして不思議そうに見上げたり、匂いを嗅いでみたりしていた。
「おおこれは……」
「不思議な竜であろう?」
「あなたの顔の真ん中についてるのは何ですか?この方は……」
白竜が何かいいかかけた時、再び空から声が響く。
「無駄なあがきを!だがこれを見ろ」
映し出された巨大な映像は、光の遺跡だった。
だが石造りの遺跡は、突然崩壊し崩れ落ちる
そして地を揺るがす爆発音が響く。
振り返ると炎の柱が天へと昇るのが見えた。
「あれは……光の遺跡の方角?」
「遺跡が……でもどうやって」
周囲から驚きと戸惑いの声があがる。
その時、アッシャの槍を手にして目を閉じていたリーリアが口を開いた。
「地下深くに魔力反応がある。彼らは何らかの方法で、地下から遺跡を破壊し、力を吸い取っているわ」
デギル教徒が遺跡の宝珠を狙っているというので、光の遺跡にも騎士や魔術師達が配置され、障壁も張り巡らされているはずだ。
だがその障壁も地下深くまでは到達していないだろう。
いくら遺跡の防御に人を配置していたところで意味はない。
これが私たちが知らない、古代の技術なのだろうか。
「もう一度言う。大人しく首都を明け渡せ。その前に一つ見せてやろう」
鋼鉄の城の前面が開く。
中から次々と現れたのは、一つ目の巨人だった。
生い茂る木々より頭一つ高い。
数十メートルはあるだろう。
そして要塞から巨大な砲台が出現する。
その先から、突然光の束が発射され、帝都の城壁に命中する。
一瞬で城壁の一部が破壊され、崩れ落ちた。
「魔術?古代遺物?」
「あんなものをどうしたら」
人々のうめきは絶望に近かった。
「要塞の周囲にも、強力な障壁を感じるわ。あそまで行けたとしても……」
リーリアが唇をかんだ。
「光の宝珠の力は吸い取らせてもらうぞ。何をしようと無駄よ。古代の民の力、そしてデギル神の与えてくださる力の前には、お前たちの魔術など赤子のようなものだ」
暗黒司祭の声が響く。
どういう技術を使っているのか、次に空中の映像は光の遺跡内部、宝珠が安置されている場所に切り替わった。
次の瞬間、画面に映った宝珠は粉々に砕け散る。
皆の口から一斉に悲鳴がもれた。
「光の宝珠は砕けた。ザイターン様が地上に降臨なさる準備は整ったぞ」
勝ち誇った声で男が言う。
私は傍らのリュウジを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。
その時だった。
私の腕の中のリュウジの体が、突如光を帯びる。
見る間に体が膨れ上がり私の腕の中から飛び出した。
そして十メートル以上の黄金の竜の姿へと変化し、空へと高く舞い上がる。
「リュウジ、お前……」
そして私の脳内にあの声が響く。
『……との接続成功。緊急覚醒条件を満たしました。機能ロック解除……神竜と同期《シンクロ》します。銀の体を解放します』
私の脳内に景色が広がる。
地上から空を見下ろしている映像。
正面にはあの要塞が見える。
おそらくこれはリュウジが見ている光景だった。
「キュルルルイーーーーーーーーーーーーーン」
大気を震わせるリュウジの咆哮があたりに響く。
その瞬間、世界が止まる。
要塞の光が消え、巨人たちは動きを停止する。
一瞬の混乱の後、皆は戸惑ったように顔を見合わせる。
「あれは、聖なる咆哮!伝説の神竜様が使われたという、全ての魔術と魔物たちの攻撃を無効化する息ですわ!」
白竜が叫んだ。
「わかったっす。あの光の遺跡の本当の秘宝は、光の宝珠じゃないっす。その竜だったんっすよ!」
アリスも私に向けて、興奮したように早口でまくし立てる。
「いや凄いものだな。しかしこれでは我も飛び立つことができんぞ」
「あら、確かに」
黒竜と白竜が声をそろえる。
敵の戦力をある程度は無効化できたらしい。
リュウジの聖なる咆哮は、敵味方全ての魔力効果を無効にしてしまうようだった。
「キュー、キュー」
リュウジが私を見、次に要塞を見て鳴く。
どうやら急げと言っているらしい。
この技も、おそらくは効果時間があるのだろう。
絶好のチャンスだが、とれる手段は限られている。
要塞は道なき森の中にあり、しかも障壁で覆われている。
通常の手段では、到達するのに時間がかかりすぎるし、侵入する事もできない。
だがやる事は一つだ。
あの要塞を破壊し、カールを取り戻さなければならない。
「光の遺跡から魔力を吸い上げている。あの障壁を突破するのも難しい。何らかの方法で内部に侵入して破壊するしかないが、われらにはその手段がない」
クローヴィスの言葉の前に、私は既に決断していた。
「リュウジ、あそこまで行けるな?私を運んでくれ。頼むぞ」
「キュイー」
クローヴィスも何かを決意したように私に向かって言う。
「他に方法は無いか……セシルとリュウジの力を頼るしかないな。役に立たないかもしれんが、これを持っていけ」
私はクローヴィスが渡してくれた槍斧を持ち、剣を腰に吊るす。
「ありがとう、クローヴィス」
「好きに暴れろ、セシル。そして危なくなったらいつでも離脱するんだ。もし何かあってもカールの事は気にするな。責任は私がとる」
「わかりました」
私はリュウジに飛び乗る。
リュウジは私を乗せ、空高く舞い上がる。
黒竜と戦った時は、私の神力無効のせいで、黒竜は飛び立つことができなかった。
だがリュウジにとっては、何の苦もないようだった。
「黒竜さん、白竜さん。あの魔物や巨人たちは頼みます!」
「わかり申した」
「ご武運を。動けるようになり次第、私たちも向かいます」
私とリュウジはそのまま一直線に要塞を目指す。
「あそこか!」
再び私の頭の中に声が響く。
『神竜と同期中。神力無効により、要塞の障壁は無効化されます』
どうやらこの障壁は強力な魔術によるものらしい。
このまま突っ込んで、カールを救出し、できれば首謀者をとらえるか倒す。
要塞の動力源を破壊し、無力化できればなお良しだ。
そしてリュウジは砲台の上に着地した。
「リュウジ!これ壊せるか?」
「グー!」
リュウジはその強力な爪と尻尾で、まるで紙細工を引き裂くように砲台を次々と破壊していく。
するとその場所に空間が出現した。
どうやら広間らしき所につながっていたらしい。
私は砲台があった場所から、一気に下へ飛び降り叫んだ。
「こら、私の弟子をかえせ!」
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