075 救援
「エマとアリスを助けてくれてありがとう、リーリア」
リーリアは軽くうなずいただけだった。
先日の襲撃事件の時や、去年の学校襲撃事件の時の事を言っているのだろうと思う。
なかなか律儀な女のだった。
私に借りを返そうにも、魔物との戦闘では私は無敵である。
かわりに私の友達を、ということだろうか。
単にプライドが高くて、他人に借りを作りたくないだけかもしれないが。
だがぼっとしている暇はない。
私は再び、ドラゴンゾンビに立ち向かう。
この頃になってようやく守備隊の一部が到着し始め、こちらの戦力も充実しつつある。
だがまだ油断はできない。
帝都の城壁を障壁で守れるのか。
それだけの魔術師を配置できるのか。
いやそもそも、あんな魔物たちが襲撃してくることなど、想定してないだろう。
私もリーリアもクローヴィスの指示に従いつつ、敵を撃破していく。
兵士たちも十人単位なら、ドラゴンゾンビに立ち向かえるようだった。
「西側に一体回り込んだよ!」
その時、エマの声が響く。
私は全速力でその方向へダッシュした。
だが私よりも速く、ドラゴンゾンビは城壁にとりついて、破壊しようとする。
「リボーグの怒りを受けよ、狂嵐の刃!」
私が到達するより早く、マルスが剣を振る。
剣先から発した風の刃がドラゴンゾンビを襲う。
それは胴体を真っ二つに切り裂いて、魔物は地に倒れ伏した。
「やるじゃん、マルス」
「いやぁ、セシルさんにそう言われると恥ずかしいですよ。あれはそう何度も全力でうてないんで」
私とマルスはクローヴィスたちの所へ戻る。
「ご苦労だった。何とか全部倒せたようだな」
クローヴィスの言葉に、あらためて私は周囲を確認する。
思ったより被害は多い。
死者や怪我人の数はわからないものの、所々城壁が破壊されている。
私達が倒し損ねたドラゴンゾンビは、どうやら内部の守備隊か増援が倒したらしい。
私は急いでエマ達がいる城壁の下に行く。
「もういないって。ありがとね、エマ、アリス、リュウジ!」
「ううん」
「無事でなによりっす」
「クー」
拡声器を通して二人と一匹の声がきこえた。
念のため、兵士や私たちは、まだ敵がいないか城外を確認する。
だが残念ながらまだ終わりではなかった。
急に空の一部が暗くなる。
そして徐々に何かがあらわれる。
それは去年も見た、空中での三次元画像だった。
「やれやれ、とんだことをしてくれたものだ」
フードを被った男があらわれる。
デギル教の暗黒司祭というやつかもしれない。
どういう技術を使っているのか、男の声は周囲に響き渡った。
「お前が何者か知らんし、知るつもりもない。さっさと帝都から退散しろ」
クローヴィスが叫ぶ。
「ほほほほ。元気の良いことじゃ。だがこれはどうかな?」
映像が切り替わり、室内が映される。
瞬時に頭をよぎった私の嫌な予感は当たった。
そこにいたのは――
「カール!」
見間違うはずもない。
金髪の少年はカール王子だった。
近くには執事のガストンと侍女のディアーヌらしき姿もある。
「クローヴィス、カールが……」
「やはりか。あの執事たちが、デギル教徒と通じているらしいという報告があってな。監視はつけておいたのだが、この混乱でそれも意味ない物になってしまったな」
「まさかそんな……」
「あやつらにとっては、私も父上も、主君の仇だからな」
皇帝への復讐のために、ガストン達はデギル教徒と手を結んだのだろうか?
だからといって、カールを売り渡す真似をするだろうか?
私は空中の映像を観察する。
ガストン達の表情には、想定外の事態に遭遇した戸惑いと怒りの感情が浮かんでいた。
ひょっとするとデギル教と手を組むつもりが、彼らに裏切られたのかもしれない。
そこでふと私は周囲の空気がおかしい事に気づく。
「カール?」
「ほら、陛下の兄上のお子の。甥御にあたる……」
「大きな声では言えんが、これがクローヴィス様でなくて良かっ……」
私の鋭い耳は、兵士たちのひそひそ声をとらえる。
今の皇帝に仕える人間たちにとっては、カール王子はどうでも良い存在なのだろう。
むしろ厄介払いできてほっとしているものすら、いるかもしれない。
部下達以外には、存在もろくろく知られず、生死すらどうでも良いものとして扱われる。
そんな孤独な王子……
「残酷な事よな。誰にも知られず、必要とされない王子か。だが安心しろ。こやつは古いルディアの血を引く。ザイターン様復活の生贄となってもらおうぞ」
「おい、やめろ!そいつは……」
どうしようもない感情に駆られて、私は叫ぶ。
カールは私にとって何なのだろう?
ほんの一時知り合って剣を教えただけだ。
だが普段見せない彼の思いを私は知っている。
少年らしい笑顔も知っている。
こんな所で運命を終えて良いはずがなかった。
「さて、余計な事を話している暇はない。我の言いたい事は一つ。ただちに降伏して首都を明け渡せ。さもないと後悔するであろうぞ」
「戯言を!ルディアを甘く見るな!」
クローヴィスが鋭い怒声を浴びせる。
相手はまだ戦力を残しているのだろう。
撃退するにしても、そもそもどうやってあの要塞まで到達するのか。
森と山に阻まれて、地上から近づくのは至難の業だ。
だが私たちに悩んでいる時間は与えられなかった。
突如として要塞より、無数の魔物が飛び立つ。
「おいあれは」
「蛇鳥、鷲獅子、闇飛竜……暴走の時だってあんなにいないぞ!」
それは空を覆わんばかりの魔物の群れだった。
(十、二十どころじゃない……百……ひょっとしたら千以上……)
一体一体は、さほど強力ではない。
だがいくら弱いといってもあれだけの数だ。
宮殿や重要拠点は守れるかもしれない。
だが民間人はどうなるのだろうか。
私自身は傷一つ負う事はないだろうが……
(孤児院の子供たち、キーラやその家族やガバロさんに、エマの両親に……)
その人達だけじゃない。
エマ、アリス、マルス、そしてリュウジ。
私の力がどんなに強力だろうと、一戦闘で一体しか倒せない。
魔術のように広範囲に複数の敵にダメージを与えられない。
これほど魔法が使えればと思った事はなかった。
私はクローヴィスを見る。
彼自身も迷っているようだ。
魔物の襲撃や住民のパニックで、戦力や指揮系統も乱れている。
全体の状況がどうなっているかは誰もわからない。
(……やるしか……ないか)
とにかく一体でも多くの敵を倒し、一人でも多くの人を守るしかない。
私がそう思った時だった。
突如上空に黒い巨大な飛行物体があらわれる。
そして魔物の群れに向かっていくと、口から黒炎を吐き出し蛇鳥たちに叩きつける。
その竜の黒い炎は、広範囲の敵を、数百匹まとめて骨も残さず一瞬で焼き尽くした。
読んでいただき、ありがとうございます。
「主人公を応援したい」「続きが気になる」
そう思った方は
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします。
ブックマークもいただけると嬉しいです。




