074 ドラゴンゾンビ
ドラゴンゾンビは、森の中を飛び跳ねながらこちらに近づいて来る。
大きさはおそらく十メートルを大幅に超えるだろうが、動きが鈍い。
飛行というより、ジャンプだ。
だがあの巨体で攻撃を仕掛けられたらひとたまりもない。
やっかいな事が重なるときは重なるものである。
だが……
「こうなったら仕方ない。アリス。みんなを飛行魔術で城内に運んで。時間は私が稼ぐから」
私の言葉にアリスは急いで首を振った。
「む、無理っす。わたし垂直方向にしか飛び上がれなくて……」
「ちょっとぉ」
「いや、エマ先輩。ほ、ほんとはもっと練習しようと思ってたっす。でもでもちょうどその時、ロムルスとオクタヴィアの出会いのシーンが思いついて、それで……」
このまま逃げても、相手が城壁を飛び越えて攻撃してくれば、たどる運命は同じだ。
(何とかなるか……いやでも……)
この世界の魔物の攻撃は、私にはきかない。
相手がどんなに強大なパワーをもっていようが無効化できる。
それに相手は大灰色猿よりは弱いだろう。
だが、三十体ほどもいる。
幸いな事にというべきか、ドラゴンゾンビがやってくるのを見た人々は、城門の前から逃げ出した。
あるものは、城壁にそって、あるものは、小麦畑に入り必死にその場から離れようとする。
そのため、ようやく守備隊の一部が、城外へ出る事ができ、こちらへと向かってくる。
「殿下、ご無事で。早く城内へ!」
「この様子だとそうもいかんだろう。ほうっておけば、我々は終わりだ」
クローヴィスはドラゴンゾンビの一団を指し示す。
そして私たちの方を向いて言った。
「もう、授業の一環とはいかんな。とりあえず君たちは逃げろ」
その言葉で、幾人かの生徒たちが城門へ向かって駆け出す。
「ねぇ、セシル。はやく行こうよ」
「そうっすよ。さすがにあれは無理っすよ、セシル先輩」
私はエマとアリスの言葉にはこたえず、そばにいたリュウジを抱き上げる。
「リュウジ、エマとアリスと一緒に帝都の中に逃げるんだ」
「クー、クー」
「私は大丈夫だよ、リュウジ。これはリュウジを守るため、ずっと一緒にいるためだから」
リュウジは奇妙な目で私を見た後、やってくるドラゴンゾンビたちに目を向ける。
「クー」
そしてうなずくと、エマとアリスのところへちょこちょこと近寄っていく。
「エマ、アリス、リュウジを頼むよ」
「で、でもさ」
「エマ先輩、わたしたちがいたら足手まといっす。早く行くっすよ」
私は城内へ駆けだす二人と一匹を見守った後、周りを見回す。
護衛の兵、帝都の守備隊の他にも、残っている人間がいる。
その中にはマルスとリーリアもいた。
私はあえて何も言わなかった。
彼らもそれなりに覚悟があるのだろうし、危なくなれば逃げられるだけの力はある。
それに今更あれこれ言い争っている暇はない。
「クローヴィス!私の援護はいらない。私が相手する敵は必ず倒せるから」
「わかった。とりあえず左手のあれを頼む。あとは君の判断に任せる。一体でも多く倒してくれ」
クローヴィスが指し示す先には、集団から少し離れて、側面に回り込もうとする一体がいた。
敵の要塞は森の中の小高い山の上にあり、それなりに距離があるらしい。
魔物たちの動きも早くはないのも幸いし、私たちは迎撃態勢をとることができた。
私は主街道から離れ、左方面のトウモロコシ畑を金棒を持ったまま突っ切る。
収穫物を滅茶苦茶にしてしまう事に気がとがめたが、今は他に方法が無い。
とりあえずはあの敵を倒してから、クローヴィスたちの応援にまわるべきだろう。
皇子の護衛は歴戦の手練れだろうし、帝都の防衛隊の戦闘力を信じるしかない。
上級魔物に対して、どれほど通用するかはわからないが。
ドラゴンゾンビはさほど動きが俊敏ではなく、長時間は飛べないようだった。
時々地面に降り立ち、ジャンプして再び飛び上がっていた。
ドラゴンゾンビに急所というのはあるのだろうか。
魔物というのは体内の魔核が力を与えており、それを破壊すれば活動は止まるはずだ。
できるならなるべく短時間で倒したい。
もっと魔物について勉強をしておけばよかった。
そう思った時だった。
「胴体っす!ドラゴンゾンビの魔核は胴体にあるっす!」
アリスの声が聞こえる。
私はドラゴンゾンビの着地際を狙って、胴体に飛び蹴りをくらわせる。
大した手ごたえならぬ、足ごたえもなく、ドラゴンゾンビの骨は砕け胴体は真っ二つになる。
倒れた魔物の体を見ると、砕けた赤い球状の物体があった。
これがおそらく魔核なのだろう。
「便利よねぇこれ」
「エマ先輩、声がでかいっすよ。早くこの拡声器のスイッチを切るっす」
「ないわよそんなの。だってまだ試作中の魔道具なんだから」
遠くの城壁の上に、エマとアリス、そしてリュウジが見える。
どうやら魔導具で声を届かせていたらしい。
「ありがとう、エマ、アリス」
聞こえるはずもないが、私はそうつぶやいた。
「セシル、西南の方角だよ!」
今度はエマの声で指示が飛ぶ。
私と同じくらいの背丈のトウモロコシが生い茂っている畑からでは、敵の全体の動きが見えないからありがたい。
私はジャンプしつつ走り、視界に入ったドラゴンゾンビの足を、今度は持っていた金棒で思いっきり殴る。
その魔物の足は砕けて吹っ飛んだが、同時に金棒も曲がってしまった。
とりあえず倒れたドラゴンゾンビの胴体を殴りつけ、魔核を破壊する。
「こっち来たらどうすんの?」
「大丈夫っす。城壁にそって降りられるっす」
エマとアリスの話す声が響く。
だが一匹が二人のいる所めがけて突進しはじめた。
私は全力で走り出すが、少し距離が遠い。
「エマ、アリス、逃げろ!」
私は思いっきり叫ぶ。
その時城内から一条の赤い閃光が城外へ向けて射出される。
それは放物線を描き、クローヴィスのいたあたりに落下する。
次の瞬間、エマ達めがけて突進していたドラゴンゾンビは、天から降り注ぐ炎の雨にうたれ、一瞬で焼き尽くされた。
「あの魔術は地獄の炎雨!初めて見たっす」
「クレルモン大公家に伝わるの神器、アッシャの槍ね」
私はエマとアリスの安全を確認すると、クローヴィスたちの所へと戻る。
リーリアの姿が見える。
その手には、柄の部分が真紅の槍が握られていた。
(あれが伝説の武器、アッシャの槍か)
私には魔力の強さなんてわからない。
だが紅の槍を持ってたたずむリーリアの姿には、どこか神秘的で神々しさすら感じられた。
「借りは返したわよ、セシル」
リーリアは私を見て言った。
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