073 迫りくるもの
「障壁を張れ!」
クローヴィスの声が届くより早く、生徒たちは既に行動に移していた。
障壁が矢を跳ね返す。
だが一部は城門の前にいる商人や農民たちの集団へと届き、悲鳴があがる。
「なるべく広範囲に障壁をいきわたらせろ」
クローヴィスは命じたが、何しろ敵の数が多い。
私はちらりと城門の方向を見る。
まだ救援は来ない。
「どうしよう。あたし程度の魔術じゃ、大してきかないし」
エマの表情が暗い。
いざとなったら、エマとリュウジだけでもかかえて逃げる事はできるかもしれない、私なら。
だがアリスもいる。
マルスもクローヴィスもリーリアも、他の生徒たちや多くの人々も。
そんな選択肢をとるわけにはいかない。
何より聖女にふさわしくはないだろう。
生徒たちは大量の魔物を掃討する魔術はまだ覚えていないはずだ。
どうするか。
「クローヴィス!飛行魔術で上空から魔法をうてば」
上空からなら加速がつくので、弱い魔術でも威力は上がるはずだ。
「矢が飛んできているし、それに飛行術を使えるものがいるか?」
それには私は心当たりがあった。
「アリス、できる?」
「あまり高度は出せないっす。でも、さ、三人までなら、なんとか……いえ、わたしやるっす」
アリスは青い顔で声を震わせながらも言う。
「しかし上空にいる所を狙われたら危険だ」
「私が敵陣に突っ込んで攪乱します。私については、相手の矢の事もこちらの魔術での巻き添えも心配しなくて大丈夫です!」
救援が来るまで、今は少しでも時間を稼ぐしかない。
クローヴィスもそれを察したのだろう。
その間も矢は飛んできており、周囲の人間たちは必死に障壁で防いでいた。
アリスが飛行魔術で飛ばす人間はすぐに決まった。
障壁が得意でないか、攻撃魔術が得意なものかだ。
「あ、あたしが……なんで……」
「僕がサポートするから大丈夫だよ、エマ」
「足をひっぱらないで頂くだけで、結構ですわ」
メンバーは、エマ、マルス、そしてリーリアになった。
戦いは、やや膠着状態に陥っている。
数は多いがさほど戦闘力の高くない魔物なので、商人の護衛らしき魔術師たちも加わり、魔法で足止めし、障壁で防げている。
ただこのままだと数の圧力にやられてしまうだろう。
「セシル、頼む!皆、セシルの事は気にせず攻撃しろ!」
氷や風の刃が舞い、騎士たちの剣先から雷が飛ぶ。
「グー、グー」
「リュウジはここにいて。大丈夫だから」
私はリュウジの頭をなでると、敵陣へと突撃する。
目指すは後衛の弓部隊だ。
私は無人の野を行くがごとく突進する。
持っている金棒を回転させつつふると、何人もの屍食鬼や骸骨戦士たちはまとめて吹っ飛ぶ。
私の事を認識したのか、周囲の魔物たちは、徐々に私目掛けて集まり始めた。
さりげなく後ろを振り向き、視界の片隅で上空を確認すると、既にエマたちがいる。
私に遠慮しない事を祈りながら、さらに魔物の群れを突っ切って骸骨戦士の弓部隊へと到達した。
多少は知能があるのか、指揮官らしき一際大柄な骸骨戦士の指示で、私に向かって一斉に矢が射かけられる。
『神力無効発動中です』
私の頭の中に、例の声が響く。
私は襲い来る矢を払い落す。
何本か私の体に当たったものは、一筋の傷をつけることもなく、私の体にそって滑り落ちる。
神力無効は、魔物の肉弾攻撃だけでなく、魔物が使う武器の攻撃も防いでくれるらしい。
その時上空から、一斉に岩石や氷が襲い掛かる。
空から落ちてくる無数の塊に、骸骨戦士たちはなすすべなく打ち倒されていく。
私は素早く周囲を確認する。
弓部隊はこの一角だけのようだ。
弓の攻撃が弱まったので、クローヴィスたち地上部隊は障壁を張る魔術を、攻撃へ向けることができた。
残り少ない骸骨戦士は上空の部隊に任せることにして、私は一旦引き返し、クローヴィスの地上部隊と魔物を挟み撃ちにする。
さすがに情勢が不利と悟ったのかどうか。
魔物たちは森の中へと引き返しはじめた。
「よしここはいい。民間人たちを援護するんだ」
護衛団らしき部隊は、街道の周囲の畑にいる魔物たちと戦っていた
幸いにも私たちへ集中していたので、数は少ないのと、さほど強くない魔物たちであったので、被害は少ないようだった。
その時、数人の騎士が近づいてきて、次々に魔物たちを切り伏せる。
今度こそ残った屍食鬼や骸骨戦士も一目散に逃げだした。
一人の男がやってきて、クローヴィスの前に跪く。
「殿下。帝都の第七防衛隊、隊長のベルトランと申します。ご無事で何よりでございます」
「ご苦労。状況はどうだ?」
「今のところは、街への被害はございません。殿下、すぐに城内へ」
「それより中央魔術師団は?帝国騎士団は?親衛隊は?まだ来ないのか?」
ベルトランは眉を曇らせる。
「それが……突如城が出現し魔物があらわれたとの情報がどういうわけか広まって、恐慌に襲われた人々が一斉に逃げ惑っております。中央通りも第七通りも群衆で塞がれ、こちらへ来れないと連絡が」
「何だと……」
クローヴィスは一瞬黙り込み、私の背筋にも悪寒が走る。
「おい、早く入れてくれ」
「押すな。押すなって」
「こっちは魔物がいる方だよ。逃げるんなら別の門からにしな」
城門に押し寄せる人と、不確かな情報でこちらの門から逃げようとする人々がぶつかり合う。
門番の騎士たちの怒号が飛び交い、何とか群衆を落ち着かせようとするが、このままでは破局は間近だ。
「殿下、とりあえずは城内へ」
「あれでは無理ではないか?」
「こちらへどうぞ」
という事で、騎士たちは特別な通用門へと案内しようとする。
だが、そう簡単にはいかない。
帝都の外にこんなにいたのかというほど人はどんどん密集してきており、それをかきわけて進まねばならない。
「どけどけ!」
「皇子殿下がお通りになられる」
必死に声を張り上げるが、人々は聞いていない。
旅行者や商人だけでなく、周辺の農民らしき人々も城壁の内部へ入ろうとしている。
「そうだ!カール。カール王子を見かけませんでしたか?」
私は隊長に聞く。
「カール王子?さぁそれらしき方はおられなかったと思いますが……」
「……そうですか」
このような状況では、少年とお付きの人々の所在など確かに確認しようもない。
こうなれば時間はかかるがアリスの飛行魔術で数人ずつ、城内に運ぶしかない。
そう思った時、事態はさらに急転する。
敵の要塞が、地鳴りのように鳴り響く。
壁の一部が開き、中から現れたのは――
「ドラゴンゾンビ……」
私の目はその姿をとらえていた。
近くにいたリュウジをそっと引き寄せる。
それは白骨化した巨大な竜の魔物だった。
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