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007 入学試験

「知ってたのね」


 母の声は、それほど意外そうでもなかった。


「私、お母さんと全然似てないし。それに魔法も使えないし……」


 魔法が使えるかどうかは、かなりの確率で血筋で決まるという事を私は既に知っていた。

 そして母は金髪に水色の瞳で、どちらかといえば小柄な体つきだ。

 私は黒髪に茶色の瞳で、すでに大人と同じくらいの背丈がある。


 私は、村のおじさんが酔ったはずみにもらした言葉を聞いたと言った。

 これは嘘ではない。

 本当は赤ん坊の頃の記憶から、母マリアの子供でない事はわかっていたのだが、当然そのことは黙っておく。

 

「いつかセシルが大きくなったら話さなきゃと思っていたの。ごめんね」

「お母さんが謝る事は無いよ。知りたかっただけだから」


 そして母は話し始めた。

 それは私の記憶とほぼ一致した。


 母がこの村へ来てからしばらくたってからのこと。

 森に薬草を採取しに行ったとき、産着につつまれた私を見つけたそうだ。

 普段はめったに人の立ち入らない森の奥であり、他に置手紙などもなかったという。


「この子は神様からのさずかりものだって、その時思ったの。そして自分の子供として育てようって」


 私は父は死んだと聞かされていた。

 聖女は結婚は禁止されてはいないらしいが、母はずっと独身だったという。


「嘘ついてごめんね」

「ううん。でも何で結婚しなかったの?」


 ご縁がなかったからかなと言って、母は笑った。

 どこか靄が晴れたような気分だった。

 知っているのに黙っていたのも、自分自身で心に負担だったらしい。


 だがもう一つ。

 私にはずっと疑問に思っている事があった。

 それは私自身のことだ。


「私って人族とは違うよね?私ってなんなんだろ?」

「母さんも色々聞いてみたけど、羅刹族(ラクシャーサ)の一族かもしれない」


 羅刹族(ラクシャーサ)とは、東方に住む、鬼族(オーガ)の一種とのことだ。

 古代種族の生き残りだとも言われ、黒髪に長身、驚異的な怪力を誇るらしい。

 だが実際に見たものはほとんどいないという。


「そうなんだ」

「確信はないわ。もしセシルが大きくなって、本当の両親や自分と同じ仲間を探したいというなら、母さんも協力しようと思ってたの」

「うん……」


 実は今の世界での本当の両親を探したいという気持ちは、あまりない。

 前世の記憶を取り戻す前のセシルは、マリアが本当の母だと信じていた。

 そして私にとっての本当の母とは、あまり思い出したくない前世の母であった。

 

 ただ私には気になる事がある。

 前にも母に話したが、魔法が使えないにもかかわらず、私には不思議な事が起こる。

 赤ん坊の時といい、あの剣士達を倒した時といい。


「あとね。何か私変なんだ。魔法を受けた時もなんともなくて」

「そうね」


 母は少しためらう様子だった。


「これは限られた人にしか言っていないけど、あなたには不思議な力があるの。あなたには魔法が効かない。治癒魔法も」

「やっぱりそうなんだ。でも治癒魔法も?」

「ええ」


 母は説明を始めた。

 私を拾ってからまもなく、南方の魔族討伐の応援に、私を連れて出かけたことがあったそうだ。

 その頃はまだ村に来てから間がなく、信頼して預けられる人がいなかったという。


 楽な仕事だと聞いていたというが、討伐部隊全体に油断があったのだろう。 

 私は後方の部隊にいたらしいが、そこが奇襲を受けた。

 障壁(バリア)を張っていたが突破され、かなりの被害が出たという。


「その時ね。あなたは全く無傷だったの。ありえないわ」


 念のために治癒魔法をかけたが、魔力が消失し効果が無かったらしい。

 それ以降も、時折治癒魔法を私に試してみたり、微弱な魔力で探査をしてみたりしたようだ。

 だが何の効力も発揮しなかった。

 これ以降、母は遠征に私を連れていくことはなくなったという。


「この事は、大祭司長様と数人にしか話してない。誰もがそんな事はありえないというの。いつかあなたが話してくれた神力無効(アンチザディバイン)についても、結局何もわからなかった」

「私の力って魔法とは違うの?」


「魔術師の使う障壁(バリア)や魔法吸収とは違うわ。魔法を使うには、火の神、水の神……様々な神様の加護がいるの。それには限界もあるし痕跡も出る。でもあなたの力は限界が無いとしか思えない」


 そうは言っても、魔法を無効化って何だか地味な能力だ。

 それに治癒魔法も無効化してしまうのでは、デメリットの方が大きいようにも思えた。


「なぜあなたがそういう存在であるかはわからない。でも神様がそういう風にあなたをおつくりになったのは、何か意味があると思うの」

「そうなのかな?」


「以前は、あなたの力を知られてはいけないと思っていた。でもいつまでも隠しておけるわけじゃない。いつかきっとあなたの力が役に立つ時が来る。そう思っているわ」

「ありがとう。お母さん」


「愛しているわ、セシル」

「私も。お母さん……お母さんは、ずっと私のお母さんだよね?」

「もちろんよ。私はあなたを本当の娘だと思っているわ」


 月日は流れ、私は中等学校へ進学し、十四歳になった。

 成績はトップクラスであり、運動も抜群。

 相変わらず魔法は全く見込みがなかった。


 だが私は諦めたくはなかった。

 努力すれば何とかなるのではないかという思いがぬぐえなかった。


(ある一定経験値を得たら急に強くなる、みたいな事もあるかも) 


 そして魔術理論を学び魔法に関する知識だけは増えていった。

 火、水、土、風、闇、光、の各属性と神々や精霊。


 この世界の神には二種類の系統がある。

 秩序と光の神たるリヤウス神族と、混沌と闇の神であるデギル神族だった。

 リヤウス神族を信じる人間はリヤウス教徒とひとまとめに言われるが、主に信仰する神によっていくつかの派があるという。

 デギルの神を信じるデギル教は帝国では禁教とされているが、一部の地方や生き残った魔族に信仰されている。 


 それぞれの神の力により魔法を使うのだが、特に神官や聖女が使う光魔法は神聖魔法、デギル教徒が使う闇魔法は暗黒魔法と呼ばれていた。

 

 初級、中級、上級、超級、聖級、神級という区分は、魔法の威力を表すだけでなく、魔術師自身のランクをも表す。

 攻撃、防御、治癒、召喚といった魔法や、魔法陣を設置することにより、自分の魔法威力を高め、相手の魔法を弱める方法もあった。


 私は母が使っていた魔術書を貰い、いつも持ち歩いていた。

 そして折に触れ、そこに書いてある様々な呪文を何度も唱える。


「氷と暗闇の世界に、光と熱をもたらせし者。天にあっては太陽に、地にあっては祭火にありて、人の心を燃やし希望と情熱の火を与えし者。炎の神アッシャとの古の契約によりて、我は命ず……」

 

 実際は魔法を使うにあたって、一部の例外を除き、詠唱というものは行わない。

 最初に魔力の使い方のコツを覚えるために唱えたり、あるいは何らかの原因で不調に陥った時に、基本に立ち戻るために詠唱を行ったりするらしい。


 そして二月の終わり。 

 高等学院の受験のために、帝都アッシュールに向かう日がやってきた。


「行ってらっしゃいセシル」

「行ってきます、お母さん」


 今では母より私の方が頭一つ分は背が高かった。

 合格はまず間違いないだろうと、先生にも言われていた。


 高等学院を受験するのは、村では私だけだ。

 魔力優秀と判定されたデジレは、神殿学校へ行くそうだ。


 帝都は私の村から、馬車で十日ほどの距離にある。

 向こうでは母の知り合いの神殿に宿泊させてもらうことになっていた。


(綺麗だなぁ)


 馬車からは一面の小麦畑や、緑の山々が見える。

 遥か遠くの山頂には、うっすらと雪が積もっている。

 四季の移り変わりは日本と変わらない。

 違いは私の住んでいる所では、めったに地震がおきない事くらいだ。


 私はすっかりこの世界に馴染んでいた。

 美しい自然と、素朴な食べ物、優しい人々、十月にはアニエス祭と言われるお祭りもある。

 日本の暮らしへのなつかしさは、ほとんど感じない。

 たまに日本食が食べたいなと感じる事と、web小説が読みたいなと思う程度だった。


 整備された街道はどこまでも続いている。

 元々は古代の民が造ったという街道で、この大陸中に張り巡らされていた。

 

 魔法では通常よりも早く移動できる方法はあるが、瞬間移動のような事はできない。

 ただこの世界には「神の道」と呼ばれる、遠隔地に一瞬で移動できる転移陣や古代の民の遺物である転移装置があるとも噂されていた。

 母に聞いてみたら、『セシルが大きくなったらね』と笑ってはぐらかされてしまった。


 この世界には色々な国があり、行ったことのない場所がある。

 北西にアングリム王国、南方にギアーラ王国、東にはレンディアやキタイ、そして北東には魔物地帯。

 魔物地帯には様々な魔物だけでなく魔族達も暮らし、そしてそこには魔神ザイターンが封印されているという。


 これはこの世界に来てからの初めての長旅だった。

 これからどんな未来が待ち受けているのだろうか。

 私は胸の高鳴りを抑えきれなかった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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