069 古代文明
そしてしばらくは何事もない日々が続いたある日。
特別授業で「古代語と古代文明」という講義があった。
「ルドモンドです、よろしく」
講師は長耳族の特徴である長い耳を持つ、四十代くらいの男性だった。
わざわざ他国から招いたらしく、その分野では高名な先生らしい。
今日は座学なので、教室にいる皆もそう真剣ではない……と思いきや、意外と真面目にきいていた。
やはりあの襲撃事件以来、皆も変わったのかもしれない。
基本的な古代語は、通常の授業でも行う。
だが古代魔術や古代遺物に関するものは、さらに高度で難解な言語が用いられる。
「既に皆さんご存じの事ですが……」
教授は話しはじめる。
それはこの世界の始まりの物語だった。
この世界は第一文明期、第二文明期、第三文明期に分けられる。
第一文明期の前に、大空白期と呼ばれるものがあるが、それ以前の事はわかっていない。
大空白期の後、神々が地上に降り立ち、人類とその文明が誕生する。
これがいわゆるシアンの民と言われる人たちである。
そしてシアンの民の文明が崩壊し、魔神ザイターンとその眷属が跋扈する第二文明期。
ザイターンが倒され、ルディア帝国が成立して以降、すなわち現在の私たちは第三文明期に分類される。
第一文明期に作られた、現代では再現できない機能を持つ様々な装置を古代遺物と言う。
簡単な通史の後に、特別な古代語の解説と文字や文法を記した薄い本が配られる。
かなりペースが早い。
「今日はこのくらいにしましょう」
授業が終わったころには、私はぐったりしてしまった。
通常の講義では、聞いた事のないものばかりだ。
「セシル、ちょっと」
授業終わりにクローヴィスに呼ばれ、赤の寮の談話室へと向かう。
そこには既にルドモンド教授の他に、マルス、エマ、リーリアらがいた。
「こ、こんにちはっす」
続いて入ってきたのは、意外なことにアリスだった。
だがアリスはルドモンド教授の顔を見て、口をとがらせる。
「パパ。恥ずかしいから来ないでって言ったはずっすよ」
「いやいや、仕事だよ!」
私は二人を見比べる。
「ああ、言ってなかったね。こちらはヤコブ・ルドモンド教授で、こちらがお嬢さんのアリス・ルドモンドさん。というわけさ」
クローヴィスの言葉にようやく合点がいった。
確かに風貌が似ている気もするし、アリスが古代語に詳しく本に親しんでいるのも納得できる。
「なるほどねぇ。それでか」
「アリスは十二歳で、古代魔術言語に関する論文を書いてね。界隈では有名人だよ。実は是非高等学院に来てくれと、ルディア側から誘ったのさ」
この世界において、私の頭脳もそれほど捨てたものではないと思っていたが、何事も上には上がいるらしい。
「すごいじゃない、アリス」
「いやいや、セシル先輩の方がずっと凄いっすよ!」
私たちを笑顔で見ていたルドモンド教授が言う。
「皆さんいつも娘と仲良くしてくださって、ありがとうございます。クローヴィス君もね」
やけに親し気なルドモンド教授の口調が気になった。
「実はルドモンド教授は小さい頃、私の家庭教師をしてくれていた事もあってね」
クローヴィスが説明する。
そして話題はデギル教団や、古代遺物にうつる。
とはいえ――
「こんなところで、こんな大事な話をしていいんですか?」
リーリアの疑問は当然だったかもしれない。
「障壁を張っているし大丈夫さ。それに皇宮だからといって、安心できるとは限らない」
そういうものかどうかはわからないが、どのみち寮の内外には護衛の魔術師たちもいるのだろう。
話はすぐ本題に入った。
まずは光の遺跡で発見された碑文や古代遺物についてだ。
「結論から言うと、まだほとんどわかっていない。それに関してはルドモンド教授の協力を得て、引き続き調査していくが」
碑文や古文書には、神聖言語で記述されているものも多いという。
そのため、教授は少し前からルディアに来ているらしい。
ただし神聖言語には少々やっかいな点がある。
「今更だが、神聖言語は文字を知っているだけでは読めない。解読には特殊な魔術が必要だ。それができる者はこの世に多くは無く、その第一人者がルドモンド教授。そしてその娘であるアリス・ルドモンド、というわけだ」
「いやいや。おほめ頂いて恐縮ですが、解読はさっぱり進んでおらりませんで。そこで不本意ながら娘の協力を得ようかと……なぁアリス」
「……」
「おい、何とか言えよ」
「イヤっすよ。パパと喋ると訛りがうつるっす」
「何を言ってるんだ。俺はなまってなんかいないっす……おい、俺がうつったろうが」
一同の笑いの後、クローヴィスが問題の核心に触れる。
「ザイターンを封印している地水火風光闇の六つの宝珠。その力が弱まっている。それはおそらく確かなことだ」
列席者の間に緊張がはしる。
ザイターンを復活させるためには、これらを破壊するというのが考えられる。
だがそれは簡単な事ではない。
特にこの間の襲撃事件より、遺跡の警備というのは厳しくなっているし、宝珠自体が強力な障壁に守られている。
「昨年の襲撃事件もありました。デギル教徒は何をしようとしているのでしょう?宝珠を破壊する以外に、ザイターンを復活させる方法があるのでしょうか?」
マルスが問いかける。
クローヴィスはルドモンド教授を見る。
「それは今のところわかりませんな。残念ながらデギル教徒は我々より、古代遺物や古代魔術、古代文明そのものに詳しい可能性はありますな」
ルドモンド教授が難しい顔をしている。
クローヴィスが教授の後に言葉を続ける。
「デギル教といっても、リヤウス教のように統一された組織があるわけではない、というのが定説だ。それでもいくつかの派閥に分かれていることまではわかった」
皆は口一つはさまずに、クローヴィスの言葉に耳をかたむける。
「昨年の高等学院の事件と最近の演習場での襲撃にからんでいるのは、最も過激な一派らしい。彼らが何を狙っているのか。帝都を占拠しようと考えているのか。ルディア皇帝家の暗殺でもたくらんでいるのか。まだまだわからない事の方が多い」
一同はそれぞれ黙って物思いにふける。
しばらくして口を開いたのは、ルドモンド教授だった。
「我らの知らぬ情報にせよ、奴らの使う魔術や古代遺物にせよ、光の遺跡で見つかったものを分析すれば何かわかりそうです。その点はアリスの力が役立ちましょう。この子は天才だ……と、残念ながら認めざるをえません」
「まだ手伝うとも言ってないっす。それにもっと娘の事を素直にほめるべきっす」
二人のやりとりに、私は自然と笑みがこぼれた。
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