063 対決
「黒竜様、本日はお願いがあって参りました」
クローヴィスが頭を下げ、聞いた事のないような口調で丁寧に述べる。
「お前は?」
「ルディア帝国の第一皇子、クローヴィスと申します」
「ふむ。それで今回は何の用だ?」
その口からどのように言葉を発しているかはわからないが、黒竜はルディアの共通語で言った。
クローヴィスは今までの事情を説明する。
「ふむ。古代遺跡の竜とな」
黒竜はリュウジに視線を向ける。
「確かに竜の子に見える。だが大した魔力もなく、死にかけているようだ。我にできることはなさそうだな」
「しかし、黒竜様。この竜は古代遺跡で眠っていたもの。貴重な同族ではございませんか?」
「ここでそやつが死ぬとしたら、それもまた定命。どのみち我らは滅びゆく種族よ。用はそれだけか?」
黒竜は反論を許さない、厳しい口調だった。
「待ってください!」
私はあわてて言う。
「なんだお前は?」
「セシルと申します。どうかこの子を助けてもらえないでしょうか?」
「先ほども言ったが我には関わりのないこと。先般より、ザイターンの復活も近いとて、我に力を貸せと、ルディアの者どもが騒がしい。だがデギルの徒もザイターンやその眷属にも我は関心はない」
黒竜は取り付く島もなかった。
だが私は呼吸をととのえつつも、さらに言葉を続ける。
「お願いします。もうあなたしか頼れる方がいないんです。この子は……」
この子は?
リュウジはなんなのだろう、私にとって。
ただ偶然出会ってなつかれただけだ。
だけど……
「私はこの子を助けたい。ずっとずっと遠い世界から来て、誰も頼れる人がいなくて。後悔したくないんです、私は。もう二度と」
途中から自分でも何を言っているかはわからなくなってしまう。
「うるさいやつだな」
黒竜はいささか興味深そうな声であった。
「ふむ。まぁそこまで言うならば、心当たりがないでもない。ただし条件がある」
「それは?」
「我ら竜族は強きものに従う。お前が我より強い事を示せば、望みをきいてやろう。必ずその竜が助かるとはいわんがな」
「ああ……なんだ。そんなことですか。いいですよ」
私は少しほっとしていた。
ひょっとして嫁になれといったような、とんでもない無理難題をふっかけられるのではと内心びくびくしていたのだ。
「ほう。その程度の魔力で、我に挑もうというのか」
黒竜は重々しい声で言う。
さきほどには無いような真剣な響きが混じっている。
「おい、セシル。何を言っている」
クローヴィスが少し慌てたように言う。
「大丈夫です。それに今まで、協力を断られていたのでしょう?これしか方法はありません」
クローヴィスはじっと私を見る。
そして何やら決意したのか言った。
「仕方ない。こうなったら我々も……」
「戦うのは、まずはその娘一人だけだ。その後に望むならお前たちの相手をしてやろう」
素早く黒竜が言う。
「クローヴィスさんたちは、少し離れていてください。リュウジを頼みます」
私は前へ進み出る。
通常なら勝負にもならないだろう。
だが私にはある予感があった。
私は身体の奥から力が湧きだしてくるのを感じる。
「殿下……」
「セシルの言う通りにしろ」
クローヴィスと部下達は広場から森の中へと移動する。
黒竜は空高く舞い上がる。
「命の保証はせんぞ。いいか?」
「私が勝ったら、何でも言う事聞いてくださいね」
「よかろう」
その言葉と同時に、黒竜は翼をはばたかせた。
強大な暴風が私を襲い、辺りの木々をなぎ倒す。
だが私はその場に踏みとどまった。
そよ風ほどの強さしか感じない。
思った通りだった。
この世界の魔物、魔族、竜族といった力ある種族は、全て魔力を駆動源に、神々の加護によって力を発動している。
である限りは神力無効を持つ私は、十分以上に対抗できる。
振り向いてクローヴィス達の方を見ると、どうやら障壁を張って防いでいるようだった。
「やるではないか」
黒竜は重々しい声で言う。
そして、急降下し、前腕の爪を私に向かって振り下ろした。
常人ならともかく、私であればよけられる攻撃だ。
だが私はあえて黒竜の爪をかわさなかった。
「なんだと!」
私は巨大な黒竜の爪を受け止めつつ、体を反転させ、思いっきり地面に投げ飛ばした。
黒竜は恐ろしい咆哮と地響きを上げて、周囲の木々をなぎ倒しつつ叩きつけられる。
クローヴィスたちの方を見たが、被害はおよばなかったようだ。
一同はしばらく黒竜含め呆然としていた。
そして黒竜は口を開く。
「なんだお前は……その力は……お前には魔力が感じられぬし単なる力だけではこのようなことは……」
だが竜の戸惑いも長くは続かなかった。
再び飛び上がると、大きく息を吸い込む。
「いかん。息が来るぞ!もう放ってはおけん。セシルに障壁を張りつつ退避しろ」
「しかし殿下。この人数では、黒竜の息を防ぐのも」
そのクローヴィスと部下達に向かって私は言う。
「私は大丈夫。リュウジを連れて逃げてください!」
次の瞬間、黒竜の口から一条の黒い炎が発せられる。
そのビームのような細い光の筋は、私目掛けて一直線に吐き出された。
だが……
「なっ……」
黒竜は呆然としている。
おそらくクローヴィスたちもそうだろう。
黒竜の息は、私に一筋ほどの傷すらつけることはできなかった。
私の頭の中には、あの声が響いている。
『神力無効発動中。竜族の息は無効化されます』
私は思いっきり数十メートルの高さを飛び上がり、黒竜の脚につかまった。
ふいをつかれたろうが、それでも竜は私を振り落とそうと、空中で身をよじる。
だが飛行状態を保つことができず、真っ逆さまに地面へと墜落する。
地面へ激突する瞬間、私は手を放し、ふわりと着地する。
黒竜の飛行も、純粋な肉体の機能ではなく、魔力を用いているのだろう。
それゆえ、私の神力無効で無効化されてしまったに違いない。
「あら、私はそんなに重かったですか?」
私は黒竜に笑顔を向けた。
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