061 決意
私の体は自然と動いていた。
リュウジを狙った刺客の武器を腕ごと蹴り飛ばす。
私が全力で蹴っていれば即死したろうが、最後の自制を働かせる。
だが刺客の腕はありえない角度に曲がり、吹っ飛んで動かなくなった。
他の刺客たちはいつの間にか姿を消していた。
形勢不利とみるや、逃げ出したらしい。
だが私にはそれを追っている暇はない。
「リュウジ!リュウジ!誰か!治癒魔術を」
マルスとエマが駆け寄ってくる。
「ダメです、セシルさん。魔力が通らない」
治癒魔術を試したマルスが難しい顔をして言い、エマも同意するようにうなづいた。
クローヴィスのお付きの魔術師でもダメだった。
「リュウジ、しっかりしろ。今助けてやるからな」
私は腰の小物入れから、気つけ薬と傷薬を取り出す。
薬をぬり、布に含ませた気つけ薬を口元にかざす。
羽は焦げて血が流れていたが、傷は思ったほどではなかった。
リュウジの胸はゆっくりと上下しているので、生きていることはわかる。
「殿下!」
その時騒ぎを聞きつけ、ようやく衛兵や皇子の親衛隊の面々が駆けつけてきたようだった。
「また助けられたなセシル。ありがとう。ケガはないか?」
クローヴィスの言葉に私は自分の腕を見る。
いつの間にか火傷は治っていた。
「大丈夫です。それよりリュウジが」
「とりあえず治療院へ運ぼう」
クローヴィスの言葉で、私はリュウジを帝室の治療院へ連れて行く事になった。
兵士たちは刺客達の拘留と周囲の探索を行い、親衛隊は皇子の護衛につく。
「大丈夫かな……その……」
「セ、セシル先輩……」
「僕たちがいても、できる事はないと思うよ、エマ、アリス」
マルスに背中を押されて、エマとアリスは寮へと戻る。
生徒たちの何人かはけが人が出たが、幸い治癒魔術で治せる程度のものだった。
私は馬車の中で唇をかみしめていた。
私がいけなかったのだろうか。
私がもっとしっかりしていたら。
リュウジと離れなければ……
クローヴィスは去年の事件以降、密かに護衛に守られていた。
だが今回、手薄になった隙を狙われた。
内通者がいるのだろうか。
それより、デギル教団の目的は何なのだろうか。
デギル教団とは限らない。
私はカールの事を思い出す。
十二年前の帝位継承争い。
帝位を継ぐはずだった兄の側に、未だに忠誠を誓っている人間もいるかもしれない。
治療院へ到着すると、既に治癒師や医師らが待ち構えていた。
リュウジを診察台の上に置く。
すぐさま治療が開始された。
だが結果はマルスやエマと同じだった。
「もうしわけありません。全く何の反応もなく……こんな事は初めてです」
リュウジが受けたのは何なのか。
おそらくあれは魔法攻撃ではなく、古代遺物の力だろう。
しまいには帝都にいる、リヤウス教団の聖女まで呼び寄せられる。
だが聖女の治癒魔法でも効果がなかった。
頼みの綱は、医師たちの薬と原始的なマッサージだ。
最初の方は時々苦しそうな声で鳴いていたリュウジも、次第に声をださなくなる。
そして徐々に体が冷たくなりはじめた。
「そんな……何とかならないんですか?」
「申し訳ありませんがこれ以上は……」
医師の一人がうつむきながら言う。
(リュウジ……)
このままリュウジは死んでしまうのだろうか。
どんなに孤独だっただろう。
あんな場所で眠り続け、目覚めた時は自分と同じ種族もいない。
リュウジが少しでも頼れるのは、この世で私しかいない。
それなのに……
私は何と言っただろう?
リュウジが大好きだ、一緒に暮らしたいとちゃんと伝えたろうか?
『いい子にしてなきゃ駄目じゃない』
『大人しくしてないと、一緒にいられなくなっちゃうよ』
そんな小言や脅すような事ばかり言っていた気がする。
まるで前世の母のように……
「しかし、殿下。その程度の攻撃でやられるようではこの竜も、大した力もなかったようですな。残念ではありますが、ここらでお諦めになった方が。古代の遺跡にはまだまだ貴重な遺物の数々が……」
一人がクローヴィスにむかって、べらべらとおもねるように言った後、急に押し黙る。
そしてちらちらと私の方に視線を向ける。
よほど私は強烈な殺気をはらんだ目でみていたのだろう。
「一つ手がないでもない」
クローヴィスは部下の言葉を無視して言った。
「それは?」
「竜族に助けを求めるのさ、竜族なら何か手立てを知っているかもしれん」
確かに治癒魔法も、聖女の力も、皇帝家が用意できる薬もきかないとなれば他に方法はない。
「わかりました。どんな小さな可能性でも。リュウジが助かるのであれば」
「竜の里へは通常の方法では、時間がかかりすぎる。古代の転移装置を使うしかないだろう」
「もしそれが魔力を使用するものであれば、私は転移できない可能性がありますが……」
「いや、魔術とは違う原理だ。詳しい事はまだわかってはいないが」
「では、今すぐにでも!」
「夜明け前に出発しよう。今から行ってもどうせ夜だ。今夜は宮殿で休むといい」
そうクローヴィスに言われては、従うしかなかった。
リヤウス教団だけでなく、皇帝家も、一般人の知る事の無い古代遺物を所持していたり、特別な魔術を秘匿していたりするのだろう。
「実は前々から接触を試みてはいるのだがな。竜族は気難しくてなかなかうまくいかん。だが同族を助けるとなれば協力してくれるかもしれん」
竜族との交渉にどのくらいの日数を要するのかはわからない。
私はしばらく授業を休むという事を手紙にしたため、使者に託す。
クローヴィスからも、事情を伝えてくれるという。
私としてはすぐにでも竜の里へと行きたい気持ちだったが……
はやる気持ちをおさえて、用意された一室で休む。
傍らには、ゆりかごにおさまったリュウジがいる。
その夜はろくろく眠れなかった。
目を覚ましては、水を含ませた布をリュウジの口元におしあて、マッサージをしてやる。
リュウジは無意識に口元を動かし、小さな胸は、かすかに上下していた。
そして夜明け前の直前、宮殿の使用人が呼びに来る前に飛び起きて、身支度を整える。
慌ただしく出された朝食をとり、リュウジをかかえて、クローヴィスとともに宮殿の地下の一室へと向かった。
既に幾人かの研究員や、騎士や魔術師らしき人間がいる。
そこにはパネルやモニターのようなもの、透明な円筒形の筒や魔法陣があった。
「では、私を竜の里へと送ってください。多少の着替えと水と食料、薬、ナイフがあれば。あとは何とかなります」
私は幼い頃からサバイバル技術も学んでいた。
「それは既に用意させてある。だがまぁ、待てセシル。これは皇帝家のものでなければ扱えないのだ。私が行かなければ」
「しかしそこまでしていただくわけには……」
「いや、これは我々の問題でもある。リュウジは光の遺跡の古代竜というだけでなく、生徒たちの恩人でもあるしな」
ということで私たちは、クローヴィスや護衛たちとともに、竜の里へと向かう事となった。
どうやってリュウジをつれていこうかと思ったが、ベビーキャリーのような籠を用意してくれていた。
私はリュウジをかかえて魔法陣の中央に乗る。
竜の里はルディア帝国の東、キンメリア王国の北。
いわゆる魔物地帯の隣にあるらしい。
「では、お気を楽にしてください」
数人の職員たちが、モニターの前でパネルを見ながら操作している。
まずは二人の魔術師らしき人間が、魔法陣の上に移動する。
上部から降りてきた透明な筒が二人を覆い、まもなく青く光ったかと思うとふいに二人の姿は消えた。
次は私だ。
リュウジを柔らかい布を敷き詰めた籠に入れ、ベルトを肩にかけ、転移装置へと移動する。
先ほどと同じように、透明な円筒がおりてきて、私とリュウジを覆う。
そして次の瞬間、ふいに意識がとぎれた。
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