060 演習場にて
私たちは特別授業で、再び光の遺跡の近くへと来ていた。
遺跡の側には魔術の演習場がある。
今回はここで授業だ。
学校でやればよさそうなものだが、この演習場は特別らしい。
微弱ながら遺跡から魔力の流れがあり、それが訓練に良い効果を与えるそうだ。
もちろん私には感じ取れないが。
「今日はこれを使う練習です」
教官から小型の筒のようなものを渡される。
どうやらこれが古代遺物で魔導筒と言うらしい。
「魔術の威力を高めるものだったら、魔導具でも同じもの作れないのかな?」
「似たようなのはあるけど、古代遺物ほど高性能なものは今の技術では無理かな。といっても訓練で渡されるから、そんなに凄いやつじゃないと思うけど」
私の言葉に、エマは手に持った円筒の筒をさししめす。
いくつかスイッチのようなものがついている。
ひょっとすると、魔術というより、古代の科学技術でつくられたものかもしれない。
「クー、クー」
「これ?あんまりいじっちゃだめだよ、リュウジ」
私はリュウジに古代遺物を見せる。
リュウジはなにやらしげしげと見つめたり、匂いを嗅いだりする。
今日はリュウジも授業についてきている。
この間から、私から離れたがらず困っているのだ。
それならリュウジを連れてくればいいと、クローヴィスが言ってくれた。
普通の授業ならそうもいかなかったろうが、特別授業だからだろう。
それにリュウジを交えて、魔法を試してみたいことがあると言っていた。
魔法無効化の能力の件だろうけれど。
「へぇ」
「凄いっす」
「こんなものが」
エマ、アリス、マルスはそれぞれ古代遺物の効果を確かめている。
「水の女神の恵みにて、清き水よ集いて我の力となれ!」
私も試しに古代遺物を手に呪文をとなえてみた。
だが当然のように、何も起こらない。
やはりこれは元々魔法が使えないとダメらしい。
他の生徒たちは私たちと距離をとり、こちらを見ては何やらひそひそと話している。
エマやアリスは大分リュウジになれたらしく、時々なでると、リュウジは嬉しそうに目を細めた。
そして、授業が始まろうとしたところ――
「殿下、取り急ぎご報告したいことが」
一人の騎士が近づいてきて、胸に手を当てて礼をする。
「誰だお前は?今は授業中だぞ」
「ダルトンと申します。それが……皇帝陛下がお呼びでございまして」
「父上が?」
「はい。光の遺跡について、わかったことがあると。そちらのセシル殿も一緒に来て欲しいとのことです」
「ふむ」
クローヴィスはしばし考え込む様子だった。
他の授業ならともかく、これは皇帝家の主催する特別授業だ。
「わかった。行こう」
「ではあちらに馬車を用意しておりますので」
「ではセシルとそのリュウジもかな?」
「いえ、その竜はちょっと、遠慮いただきたいと」
研究所ならともかく、確かに竜を宮殿の謁見の間まで連れていくわけにはいかないだろう。
「リュウジちゃんはあたしたちが見てるよ」
エマはそう言ってくれた。
「リュウジはここにいて」
「クー、クー」
「大丈夫、リュウジは強いんだから。私のかわりに皆を守れるくらいに」
「クー……」
いささか寂しそうなリュウジを残して、私はクローヴィスと出立する事にした。
授業自体は指導教官がいるので、クローヴィス自身がいなくても問題なかった。
騎士に案内され、王子の護衛とともに馬車の停まっている場所へと向かう。
「こちらです。さぁどうぞ」
そこには豪華な馬車と、幾人かの従者や騎士らしき姿のものがいた。
だが私の頭の中に警報が鳴る。
(おかしい)
うまく言語化できない。
だが故郷で師範たちに言われていた。
直感を大事にしろと。
私たちを守ろうとしているのかもしれない。
だがどうも、護衛達の位置取りがあやしい。
私たちの退路を塞いでいるようにも感じる。
それに草むらや木陰にも、人の気配を感じる。
「あ、そうだ。ちょっと忘れ物が」
「なんだ。仕方ないな、セシル」
「一人で持てないものなんで。クローヴィスさんたちも来てくださいよ」
私が元来た道を戻ろうとする。
その動きに護衛達や、隠れている気配たちが微妙に反応する。
(やっぱり)
クローヴィスの横の二人の騎士以外は、おそらく全て敵だ。
周囲は木々や草に覆われた狭い場所だった。
鋼の肉体を持つ私ならともかく、クローヴィスをかかえて逃げるのも難しい。
思わぬ相手の攻撃や障害物で負傷するかもしれない。
私はなるべく相手にさとられぬよう、ゆっくりと引き返そうとする。
だが周囲の殺気は次第に大きくなる。
もうここらが限界か。
迷っている暇はない。
「クローヴィス逃げて!」
クローヴィスも何かを感じていたのだろう。
私の声に反応し、全速力で逃げ出す。
相手もこちらに見抜かれたと瞬時に判断し、一斉に剣と魔法で襲い掛かってきた。
私は刺客の一人に突進する。
剣を鞘ごと奪うと、抜かずにそのまま殴りつける。
私は瞬時に状況判断をする。
私に向かってきたのはざっと十人。
クローヴィスたちを追って行ったのは五人ほどだ。
だが私にとっては何人いようと同じ事だ。
私はあっという間に半数を倒す。
手加減する余裕もないが、死んではいないはずだ。
「ちっ。こいつ化物か!」
「あわてるな。対魔法障壁用の古代遺物だ」
一人が私に襲い掛かる隙に、もう一人が何やら取り出して私に向かって構える。
その形状はみたことがある。
(銃?まさか……魔法じゃない……?)
古代遺物とは超科学技術によるものだろうか。
しかし撃ってくるタイミングがわかればどんなに弾速が速かろうが同じことだ。
私は相手の微妙な筋肉の動きや目線をとらえ、とっさによけた。
だが完全にはかわし切れずに、光線は私の腕をかすめる。
肉の焼け焦げた匂いが生じる。
だが私はその場にぼっと突っ立っていたわけではなかった。
向かってきた相手を吹っ飛ばしながら、古代遺物を持った敵に全速力で突進する。
その敵は何が起こったかわからなかっただろう。
私のフルスピードは常人の肉眼でとらえられるわけもない。
魔術師なら魔力の流れで動きを読めるだろうが、あいにくと私は魔力を発しない。
私はその男の古代遺物を奪い取ると、投げ飛ばして木にたたきつける。
残りの敵は逃げ出した。
もうこれ以上この場で時間を浪費するわけにいかない。
「そうだ。エマ、アリス、マルス、リュウジ!」
私は全速力で駆け出す。
いくら才能がある生徒たちとはいえ、マルスやリーリア以外はまだ実戦経験のない子供だ。
すぐに元の演習場につく。
戦いは既に始まっていた。
生徒たちの方が数が多いとはいえ、先手をとられている。
クローヴィスが必死に指示を出しているが、皆パニックになりかけている。
生徒たちを魔法が襲う。
「キュイィイイイイイイイイ」
その時リュウジの声が響いた。
宙を舞っていた、炎や風の刃が一瞬で消え失せる。
だが刺客たちの一人が巨大な筒のようなものをリュウジに向け、引き金を引いた。
「リュウジ!」
リュウジの小さな体は跳ね飛ばされ、地面にたたきつけられた。
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