059 修練
「お役に立てるかはわかりませんが、剣術指南役をつとめさせていただきます」
私は頭を下げる。
「よろしく頼む。これからはお前が僕の師だ。だからセシル先生と呼ぶことにする」
「いえ、そんな。もったいない」
「こういう事はきちんとせねばならん。お前も僕をカールと呼んでくれ、セシル先生」
「わかりました。カール……様」
そして剣術授業がはじまる。
一室を借りて動きやすい服装に着替え、中庭へと移動した。
リュウジにはその辺にいるように言う。
後ろには執事のガストンが何やら難しい顔をして控えていた。
私の剣術は田舎の村で習ったものだ。
師範たちは元帝国騎士だとか、元冒険者だとかいった人達だった。
こちらに来てからは、学校の授業で習ったものと、たまにマルスと模擬戦をするくらいである。
道場に通って少し経つと、本気の私が師範たちに負けることは無かったが、客観的にどのくらいの実力があるのかはよくわからない。
「では、まず剣をふってみてください」
突き、振り下ろし、袈裟切り、切り上げ。
さらにステップを見る。
「いいですね。基礎からみっちり教えてくれる、良い教師に学ばれたのでしょう」
「そう言ってもらえるとありがたい」
カールの後ろで、ガストンが少し得意そうな表情をした。
私は何を教えようか、少し迷う。
「次に私と軽く模擬戦をしましょう」
とにかく剣を交えてみなければわからないこともある。
カールには防具をつけてもらう。
「先生はつけないのですか?」
「大丈夫です。それに私に合う防具がありませんので」
カールは少しむっとした表情だった。
そして模擬戦がはじまる。
当然顔面や急所への攻撃は禁止だ。
カールは鋭い気合とともに攻撃を繰り出す。
私はそれをかわしたり、受け流したりする。
当然私が全力を出せばカールは一撃で吹き飛ぶだろうが、目的はカールの技術を見ることであって勝つことではない。
しばらく木剣を交えてみて気づく。
カールの攻撃の初動がわかりやすく、素直である。
確かに剣の扱いは上手いが、接近してからの蹴りや組打ちへの連携が今一つだった。
この世界での剣術は、上級の騎士以上になると、通常は魔術との連携で用いる。
だからあまり接近戦用の技術、剣のフェイント技術等は重視されないのかもしれない。
「ではまずはこれくらいで」
カールは肩で息をしていた。
その呼吸が整うのを待って、私は気づいたことを言う。
「そうか。僕もまだまだ、だな」
「いえ、カール様は既に基礎的なことはできておられます。あとはちょっとしたコツのようなもので」
カールはまだ成長期である。
人外の身体能力を持つ私を基準にするわけにはいかないが、基礎体力が足りていない気がした
筋トレ的な事をまだやってよいのかわからない。
ただスタミナ強化なら問題ないだろう。
「基礎体力の向上に、走り込みをされた方がいいと思います」
「魔術を使えれば、体力は問題なかろう?」
「体力は全ての基礎となります。疲労がたまれば集中力も落ちます。強化魔術であろうと、元の身体能力に依存するので、鍛えておくに越したことはありません」
「そういうものか」
「あとは、一杯食べて良く寝る事ですね、カール様」
「ふむ。わかった」
それから私は接近してからの組打ちや蹴りのやり方を教える。
あまり一度に教えても覚えきれないだろうから、一つずつだ。
「今日はこれくらいにしましょう」
「もうか?まだいけるが」
「訓練のしすぎも良くないのです」
「そんなものか」
私は汗一つかかなかったが、入浴をすすめられ、お言葉に甘える事にした。
一通り汗を流して着替えた後、一室に呼ばれて、氷の入った薔薇水を提供される。
「一息つきました。ありがとうございます」
「いや。こちらこそ、これから世話になる。ところで、セシル先生の剣術はどこで習ったのです?」
「田舎の道場で覚えただけで、大したものではありませんよ」
その時執事のガストンが口をはさむ。
「セシル様の剣術は、帝国騎士団が使うものと、東方のファイサーン王国の流派が混ざり合ったものとお見受けします。失礼ながら思っていた以上でした。さぞ名のある方に習われたのでしょう」
「いえ、とんでもありません……」
やはり私の師匠たちは優れた技量を持っていたのだろう。
そういえば、あの道場をすすめてくれたのは母だった。
師匠たちの経歴を詳しく聞いたことはないが、ひょっとして本当に名のある剣士だったのだろうか。
「セシル先生は他にどのような武器を使えるのです?」
「短剣、槍、斧、棒、弓、一通り使えますね」
「ほう、それは凄い。また色々教えてくれ……いや教えてください」
「わかりました」
そして話は私自身のことについてになる。
生い立ちから、武術歴、学んできたこと、故郷での出来事など。
「それで先生は、高等学院で何を目指しているのです?」
「私の母が聖女なのです。私も聖女になりたいんです」
魔法も使えないのにと言われるかと思ったが、カールは「そうか」と言っただけだった。
「それで……カール様は……」
そこまで言ってから少し後悔する。
「僕か?あまり話す事はないな。前も言ったが僕は生まれた時からずっとここにいる。宮殿から出た事がないのだ」
それ以上何かを聞き出すのもはばかられる。
初めてカール達に会った時のあの警戒ぶりはただ事ではなかった。
「今まで何度か危ない目にもあった。だが何とか生きている」
私の心を見透かしたようにカールはそう言った。
「十月には学園祭もあるんですよ。カール様も来ませんか?」
私はあえてカールの言葉に触れずに話題を変える。
「ほう、なるほど。そういうのもあるのか。僕は外の世界について何も知らない。また色々教えてくれ」
それはカールの素直な心情だったのかもしれない。
去り際の少年らしい笑顔が心に残った。
ディアーヌとガストンに案内され、私はカールの住居を出る。
彼らは、一応の礼儀は保って私に接している。
「失礼かもしれませんがカール様は、とても孤独なお方なのですね」
何の気なしに発した言葉だった。
「カール様は本来なら、皇帝になるべきお方なのです」
ガストンは私の方を振り返って短く言った。
そして再び正面を向く。
「そうですか」
私は表情を消して答える。
(やっぱり皇帝家のごたごたには巻き込まれたくはないなぁ)
そして私はリュウジと迎えの馬車に乗り、学校へと戻った。
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